4-2:邂逅
「ねえ、クラクラちゃん。これって、どういうことなの?」
嵐のようにカレンプロの事務所へ乗り込んでいたモナコ・モナは新生ヘキサスターズの新メンバー募集オーディションの紙を、人生最推しアイドルであるクラリス・クラリスへ突きつけた。
「あれあれ、ど、どうしたのモナコちゃん。ヘキサスターズのメンバーオーディション届いたんだね。良かった。私がスキュワーレに推薦したんだから、衣瑠夏と二人で頑張って勝ち抜いてよね」
期待を込めた言葉は、しかし、彼女には届かない。
モナコは今にも泣き出し様な程に歪んだ顔で、もう一度オーディション用紙の紙を、クラリスに突きつけた。
「ねえ、これって、誰の発案なの? クラクラちゃん、このこと知っていたの? どうして? ヘキサスターズは、クラクラちゃんも大切なメンバーだよね。でも、こんな事したら、もうクラクラちゃんがヘキサスターズに戻ってくれなくなっちゃうんだよ!」
クラリス・クラリスがアイドルを引退したのは、受け入れたくないがモナコは知っている。
最推しだったクラリス・クラリスの後継者となるべく、日々アイドルの卵として練習にだって、励んでいる。
でも、それとヘキサスターズの新規メンバーオーディションの話は別物だ。
モナコはまだ心のどこかで、クラリス・クラリスがアイドルに復帰してくれる日を待ち望んでいる。
そして、復活した暁にはあの頃の自分が必死に追いかけ続けた、ヘキサスターズに戻ってきて欲しいと願っている。それは一ファンとして当たり前の願い。
でも、六人組アイドルグループ、ヘキサスターズの追加メンバーオーディションは、クラリス・クラリスの帰るべき場所を奪ってしまうことになるのだ。
そんなこと、モナコに出来るはずがなかった。
「だってだって、私はもうアイドルじゃないからね。ヘキサスターズにはもう帰れないよ。それに、アイドルグループの脱退や新規メンバー加入は、そんなに珍しい事じゃないよね」
必死に訴えかけるモナコに対して、今日も皺一つ無いブラックスーツに身を包んでいるクラリスはあっけらかんとした物だった。
なんの哀愁もなく、自分はもうアイドルじゃないと宣言し、モナコが差し出してきたオーディション用紙を彼女の元へ差し戻す。
「………だとしても、あたしはこのオーディション、参加出来ないよ」
「どうして? モナコちゃん。あんなにもヘキサスターズ好きだったんだよね。そのメンバーになれる千載一遇のチャンスなんだよ?」
「あたしはヘキサスターズも大好きだよ。でも、それ以上に大大大好きだったのは、ヘキサスターズで輝くクラクラちゃんだった。自分が大好きだった物の最後の希望を、自分で壊すなんて、あたしには…………出来ない」
クラリス・クラリスを見つめるモナコの瞳に涙が浮かび上がり、溢れ落ちだそうとしたとき、
「ねえねえ、なんか若い子達が嵐みたいなお客さんが来たって騒いでいるんだけど、クーラちゃん何か聞いて………あ~~~~、その青髪ってもしかして、あなたがクーラちゃんの言っていたモナコ・モナ!」
自分自分が嵐のような忙しさで、小柄な女性が事務所へと姿を現した。
小柄な少女はクリスに用事があった用だが、クラリスの横に立つ女性を見た瞬間、脱兎のごとき早さで駆け寄っていく。
「えっ、リカ・ウィルド!? 本物?」
「そうだよ。本物のリカだよっ! はじめましてだね。ねえ、今にも泣きそうだけど、もしかして怖い怖いクーラちゃんにいじめられたとか?」
「誰か怖い怖いよ。ちょっと例のメンバーオーディションの件で相談を受けていたの」
クラリス、モナコ、そしてオーディション参加用紙を交互に見つめていくリカ。彼女は何かを察したのだろうか、それとも本能によるところがあったのだろうか。
「ねえ、クーラちゃん。ちょっと、この期待の新人さん、リカが借りていくね~~~」
こうなってしまったリカを止めることは出来ない。クラリスが静かに頷くのとほぼ同時に、リカはモナコの手を引き、事務所を一目散に出て行くのだった。