4-1:星になるために
喫茶キサラギ・ステーションはランチタイムを迎え、活気に満ちあふれていた。
アイドルスターの卵、新藤衣瑠夏も今日がアイドル活動はお休みで、バイト活動に全力投球中だ。
渋谷のハチ公前で、クラリス・クラリスにスカウトされて早3ヶ月。
異世界での生活もだいぶ慣れてきたし、バイトとしてももはや新人クルーではなく、一人前クルーとして周りのみんなから頼られるまでに成長している。
「衣瑠夏さん。5番テーブルのパンケーキ上がりました」
「分かりました。あ、カネコちゃん。10番テーブルの水が切れていたから、補充してあげて」
ランチタイム特有の繁忙さは衣瑠夏は嫌いではなかった。
衣瑠夏に会いに来てくれたゲストさんとのふれあい時間は必然的に短くなるが、バイトのみんなが一心になっている一体感はライブにも似ている気がしていた。
でも、今日はそんな繁忙な時間に、もう一つの嵐がやってきた。
「いらっしゃいませ………って、モナコ?」
勢いよく開かれた入り口に向かって、元気よく笑顔で挨拶をする衣瑠夏であった。
しかし、入り口に立っているのは衣瑠夏がよく知る青髪ツインテール少女だった。
「モナコも御飯食べに来たの? では、こちらのテーブルでお願いします」
モナコは、異世界からやってきた衣瑠夏と違い実家暮らしであり、生活費を稼ぐためにキサラギ・ステーションでバイトをしている訳でもない。
何度か、顔を出しに来ることはあっても、それは閑散とした時間を狙ってだった。
こんな繁忙な時間に来るのは珍しいが、来たからにはゲストさんだ。衣瑠夏は慣れた手つきで、モナコをテーブルに招こうとするが、
「違うわよ、衣瑠夏! それどころじゃないわよ!!」
青髪ツインテールの戦友は、興奮冷めやまないという表情で、衣瑠夏の前に握りしめていた手紙を差し出した。
差出人は、キサラギステーションも経営している芸能プロダクション、カレンプロ。
その内容は、新生ヘキサスターズの新メンバーオーディションへの参加依頼だった。
「ああ、その手紙ね。わたしも、バイト前にスキュワーレ店長からもらったよ。オーディションだって、一緒にがんばろうね、モナコ」
雑念なんて一切感じさせない向日葵のような笑顔が咲いていた。
「ちょっと、何、のんきなこと言っているのよ、この子は! 分かっている、これは、あのヘキサスターズの追加メンバー応募なのよ。もしかしたら、あたし達………。ああ、でも、今あんた、バイト中よね。いいわ、ちょっと、クラクラちゃんの所行ってくるわ!」
腸煮えたぎるといったように顔を歪めていたモナコであるが、衣瑠夏の邪魔をしてはいけないと一歩引き下がり、そのまま喫茶キサラギ・ステーションの上に設置されているカレンプロの事務所へと向かっていた。
突然として吹き荒れたモナコ・モナの嵐。
なぜか哀愁を感じさせるその背中を衣瑠夏は小首をかしげながら見守っていたが、今は、バイト活動中だ。
「衣瑠夏さん、2番テーブルさん、会計お願いします」
「はい。ただいま、行きます!」
ウェーター制服のスカートを翻しながら、衣瑠夏はモナコに背を向け、喫茶キサラギステーションへ戻っていく。




