3-3:ユリカナ
リカが勝手に申し込んでいたヂュエットダンスコンテストは予選選考を勝ち抜いた4チームによる決勝戦が行われる。
長年パートナーとして数多のステージに立ってきたユカナとリカにとって、ぶっつけ本番の参加などハンデにはならない。
予選を難なく勝ち抜いた二人は決勝のステージに立っている。
「やっぱり、アイドルバトル審査員のいないステージって違和感あるよね」
「ここはボク達にとっては異世界だからね。これがこっち側の普通なんだよね」
ユカナとリカは4チーム中最後の出演となる。今は3チーム目がキレのあるヒップホップダンスを披露し、会場を大いに盛り上げている。
「でもさ、ボク達との世界の違いはそれぐらいだよ」
観客席からステージを飛び越えて聞こえてくる観客達の熱狂。
演者と観客が一体となる瞬間。
異世界といえど、ここにあるステージはユカナ達が幾度となく立ってきた舞台と何ら変わりない。
3チーム目のダンスが終わり、観客からの喝采を浴びながら袖へと下がっていく。
「それでは、本コンテスト、決勝進出最終チームの登場となります。チーム名は、ユリカナです!!」
司会者が、二人のチーム名を高らかと叫んでくれる。
呼ばれた二人は互いの肩を叩きながらステージへと出て行く。
前のチームが披露したヒップホップダンスの余韻がまだ残っており、観客達の熱狂がダンスが始まる前から肌に伝わってくる。
既に暖まっているステージはやりやすいが、優勝するためには観客達をより一層盛り上げなければならない。
曲が流れ出す前までの刹那、ユカナとリカは最後の合図を送るように視線を交わしあった。
ステージとは生き物。
事前にどれだけシュミレーションした所で、ステージの上で何が待っているかは、その瞬間立ってみなければ分からない。
ステージに出て、観客の声を聞いて、姿を目で見て、空気を肌に感じて、そしてアイドルは一歩を踏み出す。
アップテンポなBGMが流れ始める。
ユカナはその長身と引き締まった長い手足を駆使したダイナミックなダンスで観客の視線を釘付けにしていく。
手足が長いことに加え、動きの緩急をしっかりとつけながら踊るその姿は、見る者を圧倒していく。
一方のリカは小柄な体格だ。ユカナの様にダイナミックなダンスで観客を魅力することは出来ない。
しかし、小柄故に小さなジャンプを繰り返しながら縦横無尽にステージ上を掛けていく。
小さくはねる度に、パーマの掛かったサイドポーニーが愛らしく揺れ、見る者は自然とリカの動きを視線で追っていく。
ダイナミックと愛らしさ異なる二つのダンスであるが、それが一つのステージ上で違和感なく同居しているのは、二人の息が合っているからこそだ。
二人が踊っているのはベースは同じダンス。
そこに手の角度は、表情などの自己流アレンジを加えて、見る者に全く異なる印象を与えている。
BGMが無音になった。
一文の狂いもなく、ユカナとリカの動きが止まる。
機材の故障ではない。
ラストスパートに行くためにあえて作曲された溜の瞬間。
観客達も同時に動きを止めた二人につられるように、見入ってしまい、熱狂が刹那、静まる。
「さあ、クライマックスだよ、みんな」
BGMが再開。
それに合わせてマリオネットのように止まっていた二人のダンスが一気にトップギアにまで上がる勢いで再開されていく。
手を離せば振り落とされそうな緩急をつけたダンスに、観客達のボルテージは、今日一の盛り上がりを見せていく。
そんな観客達に引っ張られるようにユカナとリカのダンスはさらにヒートアップしていく。
こうして、ユカナとリカ。
二人のアイドルの異世界留学は最高潮の盛り上がりの中で幕を閉じていくのだった。