2-6:二人は未来のアイドルスター
リーゼ・ミレイ ソロイベントのバックダンサーオーディションは衣瑠夏とモナコともに落選だった。
最終選考の審査委員はあのスキュワーレだった。
付け焼き刃のダンスで立ち上がれるほど甘い選考ではない。
ダンス練習落選の翌日、キサラギ・ステーションでの仕事を終えた衣瑠夏は、クライスが用意してくれていたダンス練習場へやってきた。
誰にも言わず、クラリスにさえも言わずにやってきたというのに、ダンス場には光が灯っていた。
「ちょっと、遅いわよ、衣瑠夏」
「モナコちゃん………今日、わたし達の練習の約束してないよね?」
「あたしがここが使うのにあんたの許可がいるの? あ、もちろんクラクラちゃんには使用許可もらっているからね」
扉を開けた先にいたのは、練習着に身を包んだ青髪のツインテール少女だった。いつから練習を始めていたのだろうか? トレードマークのツインテールが汗でしな垂れている。
そんなモナコの姿を見ていると、やはりあの日、彼女に声を掛けた自分の直感は間違えではなかったと確認できる。
「ちょっと、衣瑠夏。あんた、急ににやにや顔になって気持ち悪いわよ」
「う~~。モナコちゃん。クラリスには猫かぶったみたいに甘えるのに、わたしには辛辣だよね」
頬を膨らせながらダンス練習場に入る。
いつもの場所に荷物を置き、昨日までと同じように練習着へ着替えていく。
「当たり前よ。クラクラちゃんは、あたしが一生推していくアイドル。言うなれば神様以上の存在よ。それに比べて、あんたは………」
着替え終えて、モナコの隣にならびった衣瑠夏。
その顔はやっぱり、初めて会ったときのように笑顔だった。
そんなアイドルの卵と、モナコは鏡越しに視線をぶつけ合う。
「クラクラちゃんの一番弟子……いえ、クラクラちゃんの後継者を争う唯一無二のライバルよ。そんなあんたに優しくなんてするわけ無いでしょう」
隠すことのない敵対心。
どうしてだか、それが心地よくて衣瑠夏は嬉しさのあまりやっぱり、笑顔になってしまう。
「ちょっと、だからどうしてあんたは、ここでさらに笑顔になるのよ、気持ち悪いっ」
「だって、わたしは、モナコのライバルだからね。モナコに足りない物を武器にしていくのは当たり前だよ」
「ったく、あたしもだけど、あんたも十分に辛辣よ。さあ、これから一曲流すけど、つきあうわよね?」
「もちろん。モナコがへばるまで、何曲だって、つきあってあげるよ」
二人きりのダンスルームに流れてくるのは、ヘキサスターズの代表曲:「アイドルスター」。
クラリスにたたき込まれたダンスを、自分だけのダンスへ昇華していくため二人のアイドルスターの卵達は、いつまでも踊り続ける。
「はいはい。お疲れ様、モナコちゃん。差し入れにフルーツ買ってきた………わよ……」
カレンプロでの仕事を終え、モナコの待つダンス練習場にやってきたクラリス。元気よく扉を開けたが、大きな音を出さないように静かに閉めていく。
「あらあら、二人ともそんなんじゃ風邪引くわよ」
光が灯ったままのダンス練習場。
その真ん中で、衣瑠夏とモナコの二人が静かに寝息を立てていた。
二人でどれだけの練習をしていたのだろう。
何かをやりきったような満足げな寝顔だった。
そんな二人のそばで優しく見つめながら、クラリスは後輩アイドル達にそっとタオルをかけていく。
「ねえ、ユカナ、リカ。早く帰ってきて、成長したあなた達に見せたい期待の新人がここにいるんだからね」