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異世界アイドル活動記  作者: 三宅交流
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プロローグ:渋谷ハチ公前でアイドルスカウト

プロローグ:渋谷ハチ公前でアイドルスカウト


 新藤衣瑠夏しんどういるかは静岡生まれの18歳。高校を卒業して、ついに念願だった東京暮らしをスタートさせた。

 女性にしては長身で165cmを超えている。艶やかな髪は肩口で綺麗に切りそろえられており、少女が日々手入れをぬかることなく行っていることを感じさせる。顔立ちは端正であるが、逆を言えば極だって目を見張るものはない。

 可愛くはあるが、美人ではないとよく評される少女は、桜の花びらが舞い散る中、初渋谷デビューに心躍らせていた。ここが有名なハチ公像かとスマホを取り出した瞬間、


「ねえねえ、あなたアイドルになりません?」


 突然声を掛けられた。

 皺一つ無いブラックスーツに、絵に描いたような黒縁めがね。それだけならどこにでもいる会社人と思ったのだろうが、衣瑠夏に声を掛けてきた彼女は、鮮やかな金髪をツーテールにまとめていた。

 服装と髪型がこれ以上無く不一致で、全くもって怪しい出で立ちだ。

 でも、新藤衣瑠夏の小さな時からの夢は芸能の世界で生きていくこと。

 チャンスを掴みたくてやっと地方から上京することが出来た。

 そして、この世界、チャンスは限られていて、一度手放したチャンスがもう一度巡ってくる保証なんて何処にもないことも痛感している。

 だから、迷いなんてなかった。


「はいっ。わたし、新藤衣瑠夏はアイドルになります!」

「あれあれ? 条件も何も聞かないの?」

「悪徳商法とかなら考えますけど、お姉さんは悪い人じゃないと、わたしの直感がグッと告げてます」


 満開の桜のような満面の笑みを浮かべながら衣瑠夏は金髪ツーテールのスカウトを指さした。

 金髪ツーテールのスカウトは狐につままれたように目を大きく見開いたが、すぐさまに顔を引き締めると胸ポケットから一枚の名刺を取り出した。


「あなな、あなた凄いね。きっと大物になれるよ。私は、カレン・プロ所属のクラリス・クラリスです。以後お見知りおきを。まずは、こちらの名刺を受け取ってくださいませんか?」


 会釈しながら差し出された名刺を受けとる衣瑠夏。名刺に視線を落としてみると、


「へ?」


 そこに書かれているのは奇妙な文字だった。

 日本語ではない。学校で習った英語でもない。筆記体に見えなくもないけど、それも違う。


「あの、クラリスさん。ここに書かれている文字って一体、なんなのですか?」

「もちろん読めないですよね。それは、異世界への転送魔法なんですよ。てへ」


 笑顔で告げられた瞬間、衣瑠夏が手に持つ名刺が金色に輝きだした。


「え?」


 急いで手放そうにも名刺の輝きがまぶしすぎて、それどころではない。


「それでは、異世界でのアイドルがんばって行きましょう、新藤衣瑠夏さん」


 クラリスの旅立ちの手向けを最後に、衣瑠夏の視界はホワイトアウトし、体中から全ての感覚が抜けていくのだった。



 目を覚ますと衣瑠夏は異世界にいた。

 でも、そこはテレビや漫画でみるようなファンタジー世界とは違い、現在に近い雰囲気を持っていた。

 車は走って無く、馬車が道を走っている。

 建物もコンクリートではなくレンガ造りが主であるが、8階建てのレンガ造り建物の上には街頭ビジョンが設置されており、画面の中では見知らぬアイドルが歌って踊っている。


「ここは何処?」


 衣瑠夏はあたりを見渡しながら首をかしげる。

 彼女は渋谷ハチ公前にいたはずだ。でも、いくら見渡しても忠犬ハチ公像は見つからないし、JR山手線も見つからない。

 馬車を引く馬の鳴き声がする。

 道抜く人たちの中で異様に耳がとがっている人が混ざっているのはどうしてなのだろうか。


「わたしは新藤衣瑠夏」


 混乱を極める頭を収めるため、自分の名前をつぶやいてみる。

 自分が何者であるか、それを忘れていなければなんとかなる。

 頭が徐々にクールダウンして、記憶が蘇ってくる。

 見れば、クラリス・クラリスから受け取った名刺はまだ手の中にある。

 この名刺が、新藤衣瑠夏を異世界に連れてきた。ぎゅっと名刺を握りしめ、クラリス・クラリスの言葉を思い出す。


『それでは、異世界でのアイドルがんばって行きましょう、新藤衣瑠夏さん』


 どうやって頑張れば良いのかなんて全く分からない。

 異世界で何が出来るかも分からない。


「でも、ここでアイドルとしての営業をがんばれば良いってことだよね。わたしの直感がそうだってグッと告げてます」


 新藤衣瑠夏は上を見た。

 8階建てのレンガ造り建物の上に設置された街頭ビジョンに映し出されている美少女。

 異世界でもアイドルは存在して、歌って踊っている。

 アイドルがいる世界なら、きっとアイドル 新藤衣瑠夏はやっていける。

 堅い決意を胸に新藤衣瑠夏は、立ち上がり、歩き出そうとした瞬間、


「衣瑠夏ちゃん、ちょっとちょっと何処に行こうとしているのですか。あなたはここだと、一文無しの宿無しなんですから、気をつけてくださいよ」


 皺一つ無いブラックスーツを着こなした金髪ツーテールのスカウトウーマンが、渋谷 ハチ公前から異世界に戻ってきた。



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