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1、集結!文化祭実行委員!

「ナスハイの戦慄病棟から人員を確保するなんてどうだろう?」

「怖いことを言いますね。あなた」

「お化け屋敷の仕掛けなんだから怖い方がいいだろ」

「そんな提案をするあなたが怖いと言っているんです」


 放課後まで残って教室で、文化祭の出し物であるお化け屋敷の意見の出し合いをすることになった。

 クラスの文化祭実行委員もとい生贄に選ばれたのは俺を含めて四名。全員お化け屋敷なんて作ったことない素人だ。

 おまけに学級委員長以外の三人はやる気がない。


「ほかに何か意見はありませんか?」

「あー……俺はもうない」

「僕も特にはないかな」

「ウチもー」


 今は机を四つ組み合わせて簡易的な会議机にしている。

 俺の向かい側には学級委員長が座っている。黒髪ロングで凛とした雰囲気を纏っている。みんなが委員長と呼んでいるので名前は覚えていない。


「文化祭まであと二週間ですよ」

「まぁ、なんとかなるんじゃないかな」


 俺の隣には眼鏡をかけた細身の男子がノートパソコンをいじっている。全く話したことないので名前は覚えてない。

 さっきから空返事だし、明らかに会議に積極的に参加する意思がないことがわかる。

 というかこの学校ってパソコンの持ち込みは大丈夫なんだろうか。


「うーん、お化け屋敷とかーかわいくないしー」


 斜め前には金髪にばっちりメイクでキメているギャルが座っている。俺は陽キャとは違う世界に住んでいるので名前は覚えていない。

 本当にやる気がないようでここに来てから空返事すらしていない。話しかけられても上の空でずっとスマホをいじっている。

 この学校髪染めるのダメだったような気がするが、なんか大丈夫だったのだろう。

 

 二人ともやる気がない。

 もちろん俺もやる気がない。

 さすがに委員長がかわいそうなのでとりあえず意見はしてみたが、全て却下されてしまった。

 なんでも俺の提案はエキセントリックすぎるらしい。少し適当なことを言い過ぎたかな。


 委員長は深いため息を吐いて、額に手を当てた。

 きっと委員長はこう思っているだろう。なんでこいつらが選ばれてたんだろう、と。

 文化祭実行委員は委員長以外に立候補しなかったので、くじ引きで選ばれることになった。みんな面倒なことはしたくないのだ。

 そして、やる気がない上にそれぞれ波長の合わない者同士が集まったというわけだ。

 大変そうだな、委員長。


「まあ、ほら、まだ二週間あるし。大丈夫だろ」


 こういう時にもっとうまいこと言えればいいんだが。今まで女子と話す機会が少なすぎたせいからか、なんて言えばいいかわからない。


「今日のところはお開きにしましょう。仕掛けは私が考えます。打ち合わせをするためにまた明日放課後に集まりましょう」

「えー明日もー?ウチ、早く帰りたいんだけどー」

「僕も明日は用事があるので」


 委員長が俺の方を向いた。


「俺も明日は……いや、大丈夫だ。明日の放課後は空いてる」


 委員長が一瞬、とんでもなく困った顔をしていたので結局、明日の放課後も潰すことになってしまった。

 まぁ、暇だからいいんだけどさ。

 


 次の日の放課後。

 昨日の宣言通り、二人は来なかった。

 いるのは俺と委員長だけだ。

 こういっては童貞感まるだしだが、女子と二人きりになるとめちゃくちゃ緊張するなこれ。俺はどうやら女子耐性が本当にないようだ。


「来てくれたんですね針川君。ありがとうございます」

「いや、まあな」

「二人だけで大変かもしれませんが、頑張っていきましょう」

「まあ考えるだけなら二人で十分だしな」


 実行委員は出し物を中心になって進める役割だ。リーダーと言ってもいいだろう。

 準備期間である一週間前になればクラス全員で作業に取り組むことになる。

 企画、材料の準備、打ち合わせ、全てを一週間で終わらすのは出来にもよるがきついらしい。

 だから、実行委員が二週間前から余裕をもって計画する。


「では、さっそく考えていきましょうか」

「そうだな……何しようか」

「コンセプトから考えた方がいいかもしれませんね」


 計画を練るといっても俺たちは今年入学してきた一年生、お化け屋敷作りのノウハウも経験もない。

 何をどのようにして来た人を驚かすのか。コンセプト、設定はどのようにするのか。材料の手配。こうしてみると考えることはたくさんある。


「そうだな。何か案はあるか?」

「調べた限りだと、森の洋館や日本風の屋敷がありますね」

「……その感じだと廃墟の病院とかもありだな」

「それもいいですね。意見をまとめるためにブーレンストーミングしましょうか」

「ぶれーんすとーみんぐ?」


 意識が高い系の人々がよく使いそうなイメージがある単語だ。聞いたことはあるが意味は知らない。


「簡単に言うと意見の出し合いですね。思いついたことを発言してメモしてください。どんな意見でも否定せずに発言してください」

「なるほど。出た意見を後にまとめるんだな」

「コンセプトだけでなく、仕掛けや設定など思いついたことをなんでも言ってください」

「わかった」


 委員長がメモ帳とペンを取り出した。話し合いの始まりだ。

 やっぱり俺の意見は委員長にとってはエキセントリックだったらしく、俺が発言するために顔をしかめていた。だが、委員長は言及することなくメモしていた。

 逆に委員長の意見は建設的で実現しやすい意見だった。文化祭について調べたのだろう。


「意外と出たな」

「針川君はなんというか……独創的ですね」

「まあな」

「独創的ですが……仕掛けの案はいくつか実現できそうです。相応の設備が必要ですが」

「そうか?委員長の呪いの人形もいいと思うぞ。オーソドックスだが理解しやすくてみんなも作りやすいだろう」

「あ、ありがとうございます」


 自分の考えを褒められるのはうれしいな。

 互いの意見は出し合った。これ以上はもう出ないだろう。


「これからどうやってまとめるんだ?」

「悩みどころですね。今日はできれば大まかなコンセプト、または世界観を決めていきたいですが……意見の出し合いに時間が掛かってしまいましたね。今日はこれくらいにしましょう」

「そうか」


 委員長と俺は机を元の位置に戻し、その場はお開きになった。


「委員長はこの後どうするんだ?部活とかやってたっけ?」

「私はこの後生徒会の活動があります」

「大変だな」

「自分で選んだことですので、そういう針川君はどうなんですか?」

「俺は直帰だ」

「やることは人それぞれですね」


 教室を出ると窓からオレンジ色の光が差し込んできた。初夏の日差しは夕方になっても暑い。

 これから委員長は生徒会か。俺からすれば労働の後に労働なんて考えられないな。楽しいんだろうか。

 今日来なかった二人も何かしらに専念しているんだろう。

 大変そうだな。部活と勉強はもう中学校で散々頑張ったから高校に入ってまでやる気にはなれない。これが燃え尽き症候群か。

 中学校の頃は大変だったな。

 サッカー部が終わった後にへとへとになりながら塾に行くという生活を繰り返し、三年でサッカー部引退。勉強に専念するも志望校は落ちてしまった。

 志望校にそこまで執着があるわけでもなかったので後悔はしなかったが、高校からは何かを頑張る気にはなれなかった。

 そして高校に入学してから三カ月、成績は順調に落ちている。危機感はあんまり湧かない。新しくできた友達とは話が合うし、やるべきことを意識しなくていい毎日は気楽だ。

 だが、お化け屋敷作りはもう少し頑張ってみてもいいかもしれない。

 明日も頑張ってみよう。



 「委員長ちゃんのクラスはお化け屋敷やるんだ!すごいね~こっちなんか屋台だよ屋台」


 次の日。見ない顔の女子がいた。委員長とは対照的な活発そうな雰囲気だ。いかにも友達が多そうな陽キャオーラを放っている。

 胸ポケットにペンがいくつも刺さっている。いや、胸ポケットだけではない。靴に、普通のポケットに、襟首に、体全体の至るところにペンが刺さっている。

 何だこいつは。少なくともこのクラスの人間ではない。委員長の友達だろうか。

 すごい委員長と親し気に話している。


「というか他の実行委員は?」


 少女は辺りを見回した。

 教室にはまだちらちらと人がいるが、委員長付近にいるのは俺だけだ。


「そこの針川君と……本当はもう二人いるのですが来ていません」

「どうも針川です」


 誰だか知らないがとりあえず挨拶くらいはしておこう。


「委員長ちゃんの塾の友達で~す。よろしくね☆」


 名乗らないのか。心の中でペン子とでも呼んでおこうか。


「へぇ~結構大掛かりなのに二人で大丈夫なの?」

「まぁ結局はみんなで作るので大丈夫ではありますが……」


 委員長がどう思っているかはわからないが、俺はちょっと大変だ。

 意見を出し合うにしても、まとめるにしても、あと一人欲しい感じだ。意見が二人分だけだと足りないだとか色々な理由はあるが、主な理由は委員長と二人っきりが気まずいからだ。

 同年代の女性に対する免疫がなさすぎてつらい。女性がそのものが嫌いなわけではないし、興味がないわけでもない。むしろ、一般的な男子高校生として興味はある方だ。

 しかし、今まで彼女はいたことないし、二人っきりで話すことなどほとんどなかった。だからか、委員長と二人きりになった時の緊張がヤバイ。昨日はお化け屋敷に意識を集中させることで、緊張を表に出さずにすんだが、今後このままで大丈夫なのか心配だ。


「手伝おうか?わたし夕方六時になるまではヒマだし」

「え、いいんですか?塾の方は大丈夫なのですか?」

「いいよ~楽しそうだし。困ってる友達は助けたいじゃん」


 人員が増えてくれるのは大変ありがたいが……こいつと一緒にいて大丈夫か?振り向きざまにペンが突き刺さったりしないだろうか。


「私としては大変ありがたいのですが、針川君は大丈夫でしょうか」

「え?ああ……人が増えるのは良いと思う」


 話を振られるとは思わずについ適当に返してしまった。


「じゃあよろしくね~」

「よろしくお願いします」

「よ、よろしく」


 こうして体中にペンが張り巡らされてるペン子が仲間に加わった。


「それで~何すんの?意見の出し合い?」

「今日は大まかな世界観を決めていきます。中野さんも何か意見があれば発言してください」

「あいよ~。あ、メモとか必要かな?」


 そう言うとペン子は筆箱からペンを取り出した。

 いや、服に突き刺さってるペンは使わないんかい!

 そう突っ込みたかったが、委員長が何事もなく事を進めようとしているので黙ることにした。


「それでは早速はじめていきましょうか」


 お化け屋敷において世界観およびストーリーは根幹となる大切な要素だ。教室を装飾するにしても、お化け役を配置するにしても何を表現するかに沿って作っていかなければならない。

 世界観は大切ではあるが、細かく決める必要はない。要はお化け屋敷を作る側にも、体験する側にもわかりやすければいい。と思う。

 その点俺の意見は汲み取りずらいだろう。

 まぁそんなことは些細なことだ。世界観はすぐに決まった。委員長が考えた呪いの人形だ。程よく怖く、そしてわかりやすい。オーソドックスだが、あれはちょうどいいだろう。

 すぐに決まったので今度は見取り図と仕掛けを話し合うことにした。


 問題はペン子だ。何が問題かって?

 俺が話す機会がグッと減ってしまったことだ。減ったというかほとんど話してない。

 そして、黙り続けることによりもっと居づらくなった。


「あの先生やばくてね~」

「それは大変ですね。大まかな見取り図はこれでよろしいでしょうか?」

「お、いいじゃーん委員長。仕掛けとかどうすんの?」

「これから決めていきます」

「……」


 話すことがないというか。二人の空気感に入ることができない。

 一応、俺も話し合いに参加した方がいいのだが、なかなか会話に入ることができない。

 というか、塾についての雑談を合間に挟んでいるので会話に入る難易度が爆上がりしている。時々、委員長が話を振ってくれるのでそれには答えているが、それも問題だ。


「針川君、ここは人を配置した方がいいと思うのですがどうでしょう?」

「そうだな。でもここの角に隠した方がいいんじゃないか?」

「……ふーん」


 ペン子が鋭い目つきでこちらを睨んでいる。威圧感を感じる。

 現在、机を四つくっつけて即席の会議机に座っており、俺の正面には委員長、そして俺の斜め前にペン子がいる。

 さっきから委員長が俺に話しかける瞬間、俺に物言わぬ圧をペン子がかけてくるのだ。だから、ますます話に入りずらい。


 俺なんかしたかな?怒らしてしまっただろうか。自己紹介した以来、ペン子には何も話しかけていないのだが……。

 気まずーい。これなら二人きりの方がよかったかもしれない。

 一先ず、今日はあまり話さない方向でやっていくか。そうでもしないとペン子に目だけで殺されてしまいそうだ。


「まだまだ粗削りではありますが、見取り図が完成しました。二人ともありがとうございます」

「いやいや~塾までの暇つぶしだから、委員長ちゃんと話すの楽しいし」

「ああ、これなら余裕をもって作れそうだな」


 あ、また睨まれた。怖いなぁ。

 今日は見取り図ができたので早めにお開きになった。

 委員長とペン子はこれから一緒に塾に行くらしい。二人とも自転車通学なので校舎の玄関口でお別れだ。

 俺は特に何もすることがないので、いつも通り歩いて帰ることにした。


「やぁ、針川」

「あ、いたのか」


 校門から出たところでクラスメイトに声をかけられた。

 背が小さく、童顔なため制服を着ていなければ少年と間違われてしまう。入学当初は小学生が高校に紛れ込んでいると言われていじられていたな。

 男子にしては髪が長いので、女装もいけると俺は踏んでいるが……それを言うと友人は多分ガチ切れするので言わない。

 それはそとして、話が合うし、同じ帰宅部なのでよくつるんでいる。クラスの中でも一番仲が良いと言ってもいいだろう。


「実行委員?大変だね」

「ああ、めちゃくちゃ大変だぜ?今日なんか体中にペン刺した奴が来てさ……」

「体中にペン?もしかして隣のクラスの?」

「いや隣かどうかは知らないけど……」

「うーん、気を付けておいた方がいいかもしれないね」


 友人はペン子について語った。

 ペン子は一年生屈指の危険人物として名を轟かせているらしい。なんでも隣のクラスのカースト上位に属していて、誰も逆らえない状況なんだとか。

 体中に刺しているペンは逆らった相手に突き刺すためにあるという噂も流れている。さすがにそれは刑事事件になってしまうのでただの噂だと思うが。


「そんなにヤバイのか?」

「さぁ?僕も小耳に挟んだだけだから詳しくはしらないよ。でも、傲慢で自己中な性格ではあるらしいね」


 第一印象でそうは見えなかったが、委員長の前で猫を被っていただけかもしれない。

 委員長と話す時に睨んできたのも、「わたしの仲間にちょっかいかけんな」という意味だったかもしれない。

 もしかして、俺、ペンで突き刺される……?いやいや、それはただの噂だ。


「というかよくそんな話知ってるな」

「結構有名だよこの話」

「そうなのか?全然知らなかった」


 その後は他愛もない雑談をしながら帰ることにした。途中コンビニに寄り、友人と別れることにした。

 友人とは帰り道が途中まで同じなのでよく一緒に帰っている。ほぼほぼ毎日帰っているが、文化祭が終わるまでは一人で帰ることになりそうだ。


 それにしても、ペン子、明日も来るんだろうか?身構えておくか。最悪、友人を動員しよう。嫌がるかもしれないが、そこは何かで埋め合わせしよう。

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