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Ep.24-3 記憶は黄金の輝き

 エスの足は自然と、あの丘へ向かっていた。目に写る景色は変わったが、記憶の中でははっきりと鮮やかに、在りし日の情景が浮かぶ。

 泣き出しそうになるのを堪えて歩いた道を、昔と変わらぬ気持ちで歩いていく。

 木立に沿って行けば、やがて獣道が現れる。その先に、花に覆われた秘密の丘がある。その場所をエスに教えたのは、他ならぬ母だった。

 悲しい気持ちの隠し場所だと母は言った。涙を落とすと、その場所に花が咲くのだと言った。沢山の涙が沢山の花になる。悲しみは憎しみや怒りでなく、美しい花々に姿を変える事が出来るのだと、母は優しく説いた。

 エスの足元に、花が咲いている。数え切れぬ花々が、太陽の光を浴びて光彩を放っていた。そこはかつてエスが涙を落とした場所だ。そして、喜びと出会った場所でもある。

 屈んで摘み取ったのは、一輪の白詰草。白い小さな花弁にふわりと囲まれた、紫の蕾。幼い頃には宝石の様に思えた。

 一陣の風が吹いて、エスの手から白詰草を掠っていく。ふ、と飛ばされていくのを目で追うと、丘の上で黄金色が閃いた。

 金色の髪を風に靡かせ、太陽を背負い、輝いている。眠る子の頭を膝に載せ、そっと髪を撫でる。慈愛に溢れた目で子供を見詰めている。


 少女の姿を、少年は美しいと思った。


「出来た!」

 俯いた少年の前で、少女は嬉しそうに声を上げた。

「これ、あげる」

 差し出したのは、少年から貰ったのと同じ、白詰草の指輪だった。

 受け取った少年は、掌の上に載せてじっと眺めた。

「約束の印だよ」

 少女は微笑んで、そっと握らせる。

「約束?」

「そう。またここで会えるって約束。だから、もう悲しくないよ」

 エスと呼ばれた少年は、その手に触れるぬくもりと、約束という言葉がとても神秘的に思えた。

 この気持ちは、ちゃんと伝えなくちゃいけない。そう思った。しかし、嬉しいだとか、不思議だとか、そんな言葉では言い表せないから、代わりに、

「……君は? 君の名前はなんていうの?」

 そう訊ねた。今更の聞き返しに、少女は少し驚いた顔をしたが、すぐ笑顔に戻る。

「私の名前は……」

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