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Ep.21-3 黄金の生命

 カティアが身体を乾かしている間に、ロマンの口は休まる事を知らず喋り通していた。生来のお喋りという訳でもない様だったが、あの兄と二人暮らしでは、誰かと話す機会も希少なのだろう。

 この屋敷は今は亡き彼らの父が建てたものだそうだ。父親は名の知れた錬金術師だったが、知識の幅は広く、哲学や数学、地学や建築学にも精通する人物だった。存命中には、帝国の宮殿建立にも携わったのだと、よく自慢していたらしいし、事実帝国お抱えの錬金術師、学者として成功を収めていた。だが同時に、錬金術にしろその他の学問にしろ、研究する事は趣味であり、務めとしてするのは意にそぐわない事ばかりとも、愚痴を零していた。そうした人物であったから、いずれ引退した後に静かな余生を送る為、願い出て国からこの辺り一帯の土地を頂戴し、屋敷を建てたのである。だが、建てたは良いものの、その有能さ故に職務を離れる事は許されず、ごたごたとしている内に亡くなってしまう。

 父親の生きている頃から曲解とも言える錬金術の思想に異を唱えていた息子兄弟は、父の死を切っ掛けにして、迫害を受けるようになる。錬金術師達の会合に席を設けられなくなり、彼らの考察や発見は悉く無視された。父親の権威に恐れを成していた連中が、寄って集って兄弟を責め立てた。死人に口なし。非情なものである。結局、兄弟がこの屋敷に移り住み、研究を続けるのを許したのも、一度個人に与えた土地を奪い返す手続きを取るのが面倒だったと、それだけの理由である。

「でもぼくは諦めませんよ! いつか見返してやるんです!!」

 ロマンはそう息巻いた。


 カティアの服が乾いたところで、一行は二階の客室に招かれた。客室は二部屋。それぞれにベッドが一つある。客らしい客などこれまで来た事がないと聞いたが、ロマンの手によってまめに掃除されている様で、目立った埃も無い。

「それじゃあ、俺とクラウス、ミダとカティアに分かれよう」

 エスが即座に部屋割りを決める。ミダもカティアも異論は無かった。どう部屋割りを決めても不都合や居心地の悪さは生まれるが、エスの提案通りにするのが最善である。ミダにとっては、エスと同じベッドに入るなどまっぴらだし、彼をカティアと二人きりにするのは以ての外だ。カティアにとっても夢うつつに犬が言葉を発するのを聞いた以上、クラウスとは居辛い。

 ロマンへの礼と共に、別の部屋同士就寝の挨拶を交わし、早々部屋に入る。

 エスはベッドに腰掛けると、深い吐息を一つ漏らした。

「それで?」

 ドアの前に腰を下ろしたクラウスが訊ねた。

「……それでって?」

「おれと話があるんだろう?」

「解るのか?」

「解るさ」

 勘の鋭い犬だと、エスは苦笑する。

 暫く沈黙した後、真っ直ぐ見返してくるのから逃れるが如く目を伏せ、呟く様に訊いた。

「……生きられなくなった気分は、どうなんだ」

 唐突な問い掛けに、クラウスは耳をひくりと動かした。願えども最早人として生きられぬ彼には、決して快いものではない。

 だがクラウスはぽつりぽつりと答えていった。エスが何を思いそう訊ねたのか、容易に知れたからである。

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