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Ep.13-3 古城の黄金

 くつろげる場所、と招かれた部屋は、ギルベルトが普段使っているものらしい。ここにもやはり灯りはない。辛うじてギルベルトの顔、寝台や机といった家具なども見えるが、月がもうあと五つは欲しいところである。

「没落貴族……と申し上げるのに抵抗は御座いますが、他に適当な言葉も見当たりません」

 椅子をエスとルッツに譲ったが為に、ギルベルトは立ち尽くしたまま語る。言葉を裏付ける様に、背筋を程々に反らし、媚びへつらうでもないが畏まった佇まいは、貴族の執事然としたものだ。

「故国は、今からおよそ十年前、現在の帝国の攻撃に遭い滅びました。しかし、私はまだ乳飲み子の旦那様と共に、難を逃れたので御座います。方々を転々とし、この地に落ち着いたので御座いますが、まさか……」

 こんな所に好き好んで立ち入ってくる者があるとは。ルッツが尋ねる。

「彼は随分と高い身分にあったみたいですね。だって、そうでしょう? いくら身を隠す為とは言え、こんな城で灯りも点けないでいる。それだけ人目に触れたくない訳があるのでは?」

「それは……申し上げられません」

 俄には信じられない、というのが正直なところだろう。ひとの口に戸は立てられないものだ。しかし、秘匿は肯定の意味も孕むと、賢明な執事は理解している様だった。

「さる高名な家柄の御生まれ、とだけ申し上げておきましょう。旦那様はあの様に天真爛漫、天衣無縫、自由奔放、傍若無人のお人柄……日の当たる暮らしぶりをさせて差し上げたいものですが、しかし如何様にしても目は避けねばなりません。見る者が見れば、その御家柄故に、すぐに素性が割れてしまいますから」

 少年の特徴は、血統を色濃く引き継いだものらしい。

「亡霊なので御座います」

 ギルベルトは感慨深げに言う。

「旦那様は、本来存在してはいけない存在。まさしく、亡霊なので御座います。せめて、人目をはばかり息を殺し、恐怖に怯え続ける毎日を送らせてはなるまいと、詳しい事情は旦那様御自身にも御教えしていないので御座いますが……」

 古城に身を潜める亡霊は、今頃きっと、何も知らずに遊んでいる。暗闇に火を灯さず、この城に籠もり外界との接点を持たないという以上は、最早彼にとって日常、常識に違いない。それだから、少年はひとを疑う事を学ばずに育ったのかも知れない。

 エスは顎をさすり、喉の奥底から呻く様な声を上げた。

「何か?」

 ギルベルトに問われ、いや、と言い淀んだ。そしてルッツを見遣り、

「悪いが、この人と二人だけで話をさせてくれないか」

「どうしてです?」

 問い返すルッツに、エスは眉を顰めるだけで答えた。さしものルッツにもこの意味は解り、独り愚痴をこぼしながら、部屋の外へ出て行った。

 それを目で確かめながら、エスは声を潜めて執事へ言う。

「もしや、ヘイデン公国の……?」

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