結局なんだってんだ話〜とある少年が気付く1日〜
朝が始まる。いつも通りの朝が。
あぁ。また学校行かなきゃ。
制服を手に取って、顔を洗って、食卓にはお馴染みの無気力そうな食パンの塊。
マーガリンすら塗るのが面倒で、マヨネーズで四角を書いて焼く。
さ、食べるか……。
……!!!二度寝だ!夢だ!やばい!時間がない!
結局ドタバタ急ぐハメになる。
一人暮らし、憧れてた生活なんてひとつもできてねーじゃん。
父子家庭で育って17年。今年から親父が仕事が忙しいとかで、別で部屋を借りたため実質今は一人。
まぁたまに父親がフラッと帰ってくるけど、「まぁお前も高校生なんだしいいよな?!」の一言で押し切られた。
まぁ……最高なんですけどね!!
「あ!ユキ!」
「!」
高校から知り合ったハルだ。
「髪ボサボサだよ〜?」
「えっ?本当?!」
「うん、また朝ごはん食べてないんでしょ?」
「……夢で食べてた」
「何それ?」
ハルとは、
ハルとは、いちおーーーーーー付き合ってる!
「今日さ、帰りどうする?」
俺が一人暮らしなのは知ってる。まだそういう風にはなってないケド。
「今日?うーん、ナナが甘いもの食べに行こって言ってたんだよね〜」
「ナナちゃん?そっか……」
彼女ができればバラ色で毎日登下校とか思ってた俺としては、ハルは割とサバサバしてて先約優先だし、でもこんなもんかな?と思ってる。
「ユキも行く?」
「え?」
えー?いや?ハルとは一緒にいたいけど、えーと
「うっそ☆ユキ緊張するもんね!」
そう言いながら、腕を組んでくるハルの体温の方が俺としては緊張するっっ!!!
「明日は?一緒に帰ろ?」
「うんっ!」
即返事が我ながら情けない……。
学校行って、程々に授業を受けて、彼女に会えるのを楽しみにしてる毎日これの繰り返しの俺。
スマホ触ってて面白動画とか適当に観て、周りの奴らとまぁまぁ盛り上がって。
〜〜日々を消費してるネ〜〜
は?
〜〜君、暇なんだヨ〜〜
え?いやいやいや?なんだこれ?知らない女の声がする。
これって、幻聴???!!!
〜〜何言ってんダ!〜〜
辺りを見回す俺。皆適度に必死に勉強してる。
何?何だこれ?ストレス??
〜〜まぁ、いいヨ〜〜
な・に・が・だよっ!!誰だ?!誰なんだ?!いやいや、俺が病気?
幻聴??
あ、チャイムだ。授業終わった。
やっと昼飯の時間だ。多分あれだ!空腹すぎて……?ってやつ。
買ってきたパンを食べながら、「お前あれ観た?」だの「隣のクラスのやつがさ〜」だの皆すげぇなと思いながら相槌を打つ。
ちょっと俺らジュース買ってくるわ、って離席する。
「でさ〜!ユキぃ〜」
「……なんだよ?」
「ハルちゃんとはどうなのよ」
「どうもねーよ。今日も帰り別だし」
「えっ?今日も帰らねーの?」
「しょーがないっしょ。ナナちゃんと何か食うって言うし邪魔したくねーじゃん?」
大人ぶる俺。ハルはここ最近確かに用事が多い。
でも明日帰るし、そしたら俺ん家で……、へへ。
「ナナと?ナナ今日そんなこと言ってたかな?」
「え?」
友達のイケとナナちゃんは小中高と一緒で同じマンションだから一緒に朝来ることは良くある。
でも、同じマンションで他にも友達もいるし良く話すようになったのは、高校かららしい。
「ナナちゃんが、イケに言ってないだけじゃなくて?」
「んーー……。ナナ、今日マユ、あ、マユってマンション同じやつなんだけど、マユともしかしたら会えるかも〜って言ってたけどな?」
「え?イケそれマジ?」
何で嘘???
「でももしかしたら3人で会うんかもな!」
いや、ハルとナナちゃんは同じ中学じゃねーからありえないだろ、とは何となく言えなかった。
「もしかして……お、おれ」
「は?ユキ?まさかハルちゃんに避けられてんの?」
「違うわ!いや、違ってもないか……。ハルがその、浮気……」
「無いでしょ(笑)」
「なんでだよ」
「ナナがハルちゃんはユキのこと相当好きなんだね〜。いつもユキの話してるって言ってたし」
「えっ?!あ、そそぉ?」
「うん、だから大丈夫」
ちょっと鼻の下や目尻から下がる俺。
へーはーふーん。ハル、そんなこと言ってんの?
「あ、やべ。もう授業始まるぞ!」
午後の授業は眠さとの格闘。
この先生の声がなんかちょうど良くて気持ちいいんだわ。
〜〜寝るなヨ〜〜
一気に目が覚める俺。
今度は男の声だ!!!!誰だよ!
ブワっと一気に顔を上げたからか、先生もちょっとびっくりしてる。
「どうした?何か質問あったか?」
「いえ、あ、や、その……、ハエが目の前を」
意味不明な言い訳で乗り切るしかなかった。
下校時間は、よくわからない声でいっぱいだった。
このまま病院行った方がいいか、
親父に相談した方がいいか、
〜〜姿、現そうカ?〜〜
ちょっと待て。
〜〜ン?〜〜
だから誰なんだお前。
〜〜だからァ〜〜
そう言って目の前のアスファルトから人が現れるのを誰か見たことあるか?
俺は、今!見てる!
「お前だヨ」
俺がもう1人出てきた。
えー?!何?このオカルト展開!?!
俺視える人なっちゃったの?!
「正式に言うと、生霊だナ」
「いきっ、いきりょ?!」
怖いしヤバイ。鼓動が速くなるの、自分でもわかる。
「君、ハルのこと考えすギ。私今からハルのとこ行くんだヨ。」
どゆこと?!ねぇ?!どういうこと?!
「まぁ〜〜、君以外に俺は見えてないヨ。まず安心してネ。昼前まではこんなに完璧に君じゃなかっタ。」
いやいやいや???完璧に俺ですけど?!
「ハルが浮気してるか気になるんでしョ?その気持ちが私になっただけだヨ」
え???
「まぁ、行ってくるかラ。じゃーネーー」
ふわっとそいつは消えてしまった。
俺はまず【生霊】というワードについて猛スピードで調べる。
「生きてる人間が飛ばす〜〜」
次は【ドッペルゲンガー】
いや?どこをどう調べても、
自分自身に話しかける生霊なんていないんですけど?!?!
何これ?!ファンタジー?!魔法?!異世界転生前?!
気付くとハルに発信してた。
ハルにあれが見えたら、俺が不審者にっ?!?
それだけは避けたい!
せめて俺が現場に!!!!
コール音だけが虚しく響いてハルは出てくれない。
「もしもし〜?」
「イケ!」
「おー?」
「ナナちゃんと連絡取ってくれ!ハル達今どこだ?!」
「え?何かあったの?」
「いや?んー、えーと……あ、会いたくなって」
「は?(笑)いーよ、聞いてやるよ」
まぁ俺は何もせずに、家でじっとしてりゃあ良かったわけよ。
イケから折り返しの電話がかかってきて、
ハルとナナちゃんは一緒にいないって事実を知るくらいなら。
「え?じゃあハルは何してんの?何で俺に嘘つくの?」
「いやぁ〜〜、んー……そればっかりは俺にも……」
「……だよな。ごめん」
「んーん、とりあえずハルちゃんに連絡つくといいな」
「おぉ……」
何度電話しても電話に出ないハル。
「どこにいる?」という連絡すらも既読にならない。
「ただいマー」
目の前にいるコイツは何かを見たんだろうか?
「あッ」
「?」
「ダメダメー。強力になっちゃってるヨ」
「お前が何でもいいから見たこと教えてくれる?」
「あレー?もう私のことで驚かないノー?」
「驚くよりも、ハルが…」
「あーウン、そうだネー」
「何があったんだ?!家族の用事…とか?!」
「ハルはネ、ん〜夢中な人がいるんだネ〜。それ知られたくなかったみたいネ。キャーキャー騒いでたシ」
「えっ?!」
やっぱ浮気して…!!
その時電話が鳴った。
ハルだ!
「もしもしっ?!」
「わぁ〜ユキ出るの早いねぇ」
「ハルさ、今日何してた?」
「えっ?!……ナナと」
「嘘だよね?」
「!え?どういうこと?なんでユキ……え?」
「嘘とかいいから。ごめん。そういうの俺は無理。」
勢いで切ってしまった。
その後すぐハルから電話がかかってきて、ピンコーンと通知音がうるさかったけど連絡とか今はいい。
さよなら、俺の初彼女……。
「で?」
「ン?」
「お前は何?何しに来たの?何で俺の前に」
「だからァ、私は君の生霊なノ」
「生霊が喋るかよ!」
「喋るヨ。聞ける人がいるのとそうじゃないだけデ」
「はぁ〜〜もぉいいよ。ハルの相手の男どんなんだった?」
「んーかっこよかったヨ!でも君の方がイイ」
「あっそ……ありがと」
「ネー、君の家族はいつ帰ってくル?」
お前は本当に霊なのか?
「そうだヨ」
頭の中読むのやめろ。
「無理だネ。で?いつ帰ってくル?」
知らねーよ。親父は3週間前帰ってきたくらいだし。
「そウ。それは良くなイ。ちょっと待ってナ」
どーでもいーーー。ハルと終わっちゃった。。
終わっちゃったよ。
親父から電話がかかってきた。
「おぉ!今日帰るわ!」
「……そうかよ」
お前なんかしたの?
「まァ。ちょっとネ」
生霊ってそんなこともできるのか。
と、思うとそいつはふわっと消えた。
時間が経って親父が帰ってくる音がした。
「ただいま!」
「んー……おかえり」
「なんだ?!元気ないな!」
〜〜おかえりなさイ〜〜
あれ……?
さっきまでのそいつは、俺の姿ではなく女の人だった。
そういえば最初に聞いた時も女だったかも。
「親父、なんで今日帰ってきたんだ?」
「今日はな、ミユキの命日だからな」
あ…
〜〜バレちゃったネ〜〜
母さんがこっちを見てちょっと笑ってる。
〜〜ありがとウ。マサさん、いつもいつモ〜〜
これも親父には聞こえないのか?
〜〜そうだヨ。ユキに会いたくて来ちゃっタ!マサさん、ユキのこと1人にしないでヨ!〜〜
「父さんな、昨日ミユキが夢に出てきてユキのこと1人にすんなって言われたからまぁもう少ししたら仕事も落ち着きそうだし、またここに戻るわ!」
俺は、ちょっと嬉しかった。
一人暮らしに憧れてたけど、本当は、少し……。
〜〜そろそろ私は帰るけどネ、
ユキ、毎日つまらなそうな顔しないデ。
適当とか言わないデ。
今日みたいに自分から動いてみてネ。
あと、女の子に振り回されちゃダメだヨ。
自分が無い男は嫌われるヨー!〜〜
うっ。なんか言いたいこと言ってくれてるな。
でも俺はもう終わったんだし、それならもう一人暮らしじゃなくても……
〜〜ちゃんと話し合うんだヨ〜〜
〜〜じゃあネ〜〜
そう言って、遺影と同じ容姿の母は消えた。
親父がブツブツと仏壇に愛を語ってるんだから、最後まで聞いていけばいいのに。
また、ハルから電話だ。
まぁ言い訳くらいは聞いてやるか。
「はい……」
「ユギィ〜ぐすっ、うぇっ……あ、あの」
泣くハルにたじろぐ俺。こんなハル見たことない。
「ちがっ、ちがうの!ごべん、ごめんなさいっ……隠してでぇ〜」
「……な?何を?」
泣くの落ち着きなよと言うと余計にしゃくり上げるハルをなだめてようやく聞けた訳は、
ハルが密かに応援してた地下アイドルだった。
男装女子のアイドルグループでパッと見は可愛い男性にしか見えない。学校帰りにファンと集まることもあったらしく、今日はライブイベントで、さすがに俺に言うと引かれると思ってたそうだ。
「そんなことで引くと思う?」
「うそ……ついた……の、は……ホントだからホントにごめんっ……なさい」
「もーいーよ」
「きらっ……われ……た?」
「嫌わないよ」
「……そぉいえば……今日……ね?」
泣き止まないながらハルが言った。
ライブで見慣れない女の人がハルの近くで、「ユキのこともうちょっと信用してあげて、頼ってあげてね」と言ってきたそうだ。
ライブ中にも関わらず、小声だったのにハッキリ聞こえたと。
ユキの知り合い?と聞かれたけど、おれは苦笑いしか返せなかった。
「今日はさ、つくづく自分が幸せだと思ったわ!適当に生きてちゃ勿体ないかも」
「ユキにしては……、今日はよく笑うね」
「ハル、どういう意味だよ」
こうして何気ない毎日だけど、
いつも通りの夜なんだけど、
いつもよりも嬉しさとかいろんな感情で俺は眠った。
俺はこの毎日を消費するんじゃなくて、大事に過ごしてみようと思えたんだ。
ーー次の日。
「おい!ユキ!結局ハルちゃんは…」
「あー?うん、幸せ」
「なんだよ!ノロケかよっ!」
「イケもうまくいくといいな」
「うるせぇ」
ありがとな。
って思いながら、窓から青空を眺める。




