1章
初めて作りました。お手柔らかにお願いします。
2050年、東京、男は一人でとあるマンションにいた。
今日の東京はあいにくの雨だ。窓の外からは雨水が家のガラスを叩きつける強い音が鳴り響く。今日の雨は私の心を昼の曇った空のように暗くする。私は雨で滅入った気分を和ますため無意識にテレビをつけた。何故なんだろう。一人暮らしを始めてもう30年近く経つのについ寂しさを間際らすためテレビをつけてしまう。私は30年経ちまだ寂しさに怯えているのか?もうこの年で結婚できる可能性はほとんどないのに、自分が情けない。だが奇跡的に出会いがあったとしても今の私は女性と上手くやっていけるのか?仕事一筋で生きてきて30年、気づいたら同僚は皆、結婚し家族を持っている。私は幸せを手にする苦労から仕事をいい訳に逃げていただけかも知れない。若いうちに色々体験しておくべきだった。もうどうしたらいいか自分が分からない。テレビの電源をつけてから一時間、何気なくテレビを見続けているとあるニュース番組が始まった。
「緊急ですがニュースをお伝えします。
先程、10時15分頃殺人事件がありました・・・」
またこの言葉か、いつもこうだ。この言葉を聞くたび私は悲しくなる。私は警察官であるのに犯罪を止めることはできない。私一人では何もできない、無力だ。何の為に警察官になったのか、私が若かりし頃、私は平和に憧れ、平和を守るために警察官になった。しかしそれから30年、世の中は当たり前のように何も変わらない。犯罪が平和を脅かす世の中で目にするのは被害者の顔や遺族の悲しみ、そして加害者の狂気の顔だ。私が思い描いた理想の警察人生とはだいぶ違った。人々の笑顔を守り市民の皆さんから尊敬され・・・この理想は夢物語なのか?この腐った世の中ではもう平和な世界を創るのは難しい。ならば私は、自分の手で世界をすべてゼロから造りあげてみせよう。
2068年、
「はい!今日の学習はここまで。みんなちゃんとしっかり今日の学習を復習しておくように」夏の暑い日、夏期講習の講師が大きな声を張り上げてから教室を立ち去っていく。
それにつられ他の生徒も帰る準備を始める。急いで家に帰ってまた勉強する生徒、
友達と帰るため片方の友達がもう片方の友達を待っている生徒、人それぞれだ。
その中で一人、まだ机に座り込んでいる生徒がいた。(ハー、今日も疲れた。最近寝不足だからか)この生徒の名前は安藤陸。今年高校三年生で受験の年だ。
(調子乗ってワンランク上の大学へ行くなんて言うべきじゃなかったのかな?)
陸の将来の夢は特にない。あるとすれば有意義な暮らし、なりたい職業は公務員だ。
別に元々志望していた大学でも充分だったのだが、高みを目指しても損はないと思い
上を目指すことに決めたのだ。ただ今はそのことを若干後悔しそうになっている。
(受験なんてこなければいいのに、このままずっと高校三年生が続いていけばいいのに)
最近ずっとこんなことを考えてしまっている。点数の上がり方は順調だ。このままいけば受かるかもしれない。でもかなり面倒くさい。ただそれでも今、この高校三年生が終わってほしくないと思うのはそれだけではない。今は凄く日常生活が充実している。良い友達もいる。そして高一の頃から付き合っている同級生の彼女もいる。今年は今までの人生の中で最高の年で、どっちの意味でも今の生活から離れるのは若干気が滅入る。
まぁ、そんなことを思っても仕方がない。そう思い陸は重い腰を上げ塾から出て家に帰る。
そして家に帰るまでの間、帰り道を歩いていると陸を悩ませているある現象が起きた。
「ズキ!」(痛!ハァ、また今日もか)陸は生まれてからずっと頭痛に悩まされていた。
原因は不明だ。症状を訴えてもどの医師からも原因不明としか言われない。
でも別に頭痛は一日に一回ぐらいしか起きないし、そんなかなり痛い訳ではないので
ずっとほったらかしている。治るに越したことはないがそれでなくてもちょっと我慢すればいい。普通の人よりも少し不便なだけだ。大したことはない。
そんなこんなで陸は夏の暑さに苦労しながら家に帰ってきた。20分歩いて帰ってきたので
体中汗だくだ。夏はあまり好きじゃない。
「ただいま~」陸は真っ先に台所へ向かい冷蔵庫にある炭酸ジュースを勢いよく飲んだ。
「ゴク、ゴク、プハー!」夏の暑い日に飲む炭酸ジュースは格別に旨い。
そしてコップを台所へ置きっぱなしにして自分の部屋に行こうとすると母親があらわれた。
「あら陸、帰ってたのね。ごめんね、お風呂掃除してたから全然気がつかなかったわ」
たしかにお風呂掃除をしていたようだ。服が少し濡れている。
「母さん、別に全然大丈夫だから。それより夏期講習で疲れたから一旦部屋で休んでくるね」母は喉が渇いていたのか、コップ一杯の水を飲み終わった後で部屋に向かう陸に聞こえるように大きな声で言った。「陸ー!。夕飯までには起きるのよ」
母親の言葉に陸はそっけなく返事をした。「分かってるって」。そしてドアを開け自分の部屋に戻った陸はまず第一に冷房をつけた。(まあ、27度ぐらいでいいか)25度だと寒くなるのでこのぐらいが陸には丁度いい。冷房をつけた後、陸は自分のベットに飛び込んだ。予想以上に疲労で疲れていたのか。陸はすぐにぐっすり眠りこんだ。
「ニュースをお伝えします。今日午後二時頃、東京新宿区で殺人事件がありました・・・」
またなのか。私のいる世界ではまたこんな醜い出来事が。
もはやこの世界は犯罪が当たり前のように行われている。
ニュースで犯罪を聞くのが日常の一部になっている。
もうおしまいだ、この世界は。なんの望みも希望もない。
私が創った世界とは正反対だ。私の創った世界の人間は皆とても清く、そして純粋だ。
この世界の愚かな人間とはレベルが違う。
こちらの世界の人間は皆、天使のように心と体も美しいからだ。
でもただ一つずっと気がかりなことが一つ。創った世界の中にどうしても直せないバグがあるのだ。このバグが気がかりだ。このバグのせいで問題が起きなければいいのだが。
薄暗い夕方、陸は長い夢を見ていた。とてもとても長い夢。
それは悪夢だったのか、なにか大事な物がなくなったかのような、
陸は目を覚ますと涙を流していた。何故涙を流しているのか、夢の中で何を見たのだろうか。だが起きてから夢の中の記憶がない。まるで夢の記憶がすべて排除されたようだ。
まあ、しかし思い出せない記憶は仕方がない。少し勉強でもしようか。
陸が涙をぬぐい勉強机に向かおうとしたら部屋の扉が生きよいよく開かれた。
「あ、お兄ちゃん起きてたんだ。ママが晩御飯できたから
起こしてきなさいって言われたから来たけどこれで大丈夫だね」
もうこんな時間なのか、二つの意味で陸はため息をした。
「美佐、前から言ってるけど頼むから勝手に部屋に入らないでくれ」
「なんで?兄弟だから別に問題なくない。なんか問題でもあるの?」
「いや、それは・・・別にないけど」この時、陸は嘘をついた。
いや、正しくは嘘をつかざるを得なかったのだ。健全な男子高校生なら絶対一冊は持っているはず。そう・・・あの本だ。家族に見つかるわけにはいかない、日常の最高の癒し。
陸のお気に入りの隠し場所は中学校の大量の教科書の間。
この場所はしょっちゅう勝手に陸の部屋に入る家族の目を欺くために最適なのだ。
いや、そんな話はどうでもいい。男子高校生なのだ。別になんの問題もない。
「まぁいいや、そんなことよりも早く下いこうよ」これはありがたい。美佐のほうから話を変えてくれた。「そうだな。お腹もすいたし早く下いこう」
陸と美佐は部屋から出て階段を下りた。その時、美佐からあることを聞かれた。
「ねぇ、気になったんだけどお兄ちゃんってHな本何冊持ってるの?」
この時、陸は内心焦った。まさか美佐からそんなこと聞かれるとは。
「いや、そんな本持ってないけど、今は受験中だし」
陸は嘘をついた。しかし美佐は陸の様子を見ていじりたくなったのか、
突き詰めるようにこう言った。
「え~、ホントに?怪しいな~。むしろ受験のストレスでストレス発散するために
見ちゃったりしてるんじゃないの?Hな本」
読まれている・・・行動が美佐に読まれている。だがそれでも俺の口からは言えない
それが男として、そして兄としての意地だ。
て言うかそれ以前にそのことが家族にばれたらかなり恥ずかしい。
「だからないって、そんなことより早く下いくぞ。腹減ってるんだよ」
陸は急いでリビングに向かった。「あ、逃げた」美佐も残念そうにしながらリビングへ向かう。陸がリビングにつくと台所には母親、食卓には父親がいた。
「父さんお帰り。今日は早いね」「ああ、今日は仕事が早く終わってね」
父親はYシャツ姿でお酒を飲みながらくつろいでいた。
「陸、受験勉強はどうだ?順調か」最近父親と会話するときはこの話題が多い。
「うーん、まぁまぁかな。悪くはないよ」陸が言い終わると会話が止まってしまった。
家族間ではあるが父親はあまり仕事の関係で早くは帰ってこないし陸もその時間は
集中して勉強していたり寝ていたりするので父親とはすれ違いが続いていた。
父親はなんとか会話を続けようとしているのか。話題を探している仕草を見せたのち
陸にむけてこう切り出した。「そういえばさっき美佐と階段で何を話していたんだ?かなり大きな声で盛り上がっていたようだが」聞こえていたのか。
いや、父親の言動から会話内容までは聞かれてはいないようだ。
妹と卑猥系の本で盛り上がってたなんて親に言えるわけがない。
「大学受験の辛さを教えてあげていただけだよ。まぁ、まだ美佐には分からないだろうけど」するとそこに美佐が割って入ってきた。「二人でなに話してるの?」
美佐の乱入に陸は驚く。「うお!びっくりした。急に話に入ってくるなよ」
普通の人よりも陸の過剰の反応に美佐は笑いをこらえきれない。
「フフフ、お兄ちゃんがビビりなだけよ」美佐は兄の陸をイジるのが昔から好きだ。
この関係は陸が優しいことで成立した兄弟関係だろう。陸も大して気にしていない。
ただ部屋を無断で入るのだけは本当にやめてほしい。
椅子に座り三人で話していると食卓にはご飯、みそ汁、おかずが次々と並べられていった。
「はい!今日のご飯はお父さんの大好きな豚カツよ」四人分の夕ご飯を配り終えたところで母親も椅子に座る。「えー、私今日はオムライスが良かったのに」美佐が文句を言った。
「文句言わないの。今日は折角お父さんが早く帰ってきてるんだからお父さんの
好きなもの食べてもらって今後に向けて体力つけてもらわなきゃ。今年は陸が受験だし
色々大変だしね」母親の言葉が言い終わると父親が箸を持った。
「じゃあ、お母さんの想いに応えるためにも今日はいっぱいご飯食べようかな。
ああ、そうだ。それにしてもお母さんの豚カツ食べるの久しぶりだな」
「え、嘘?お父さんこの前私が夜に作った豚カツ食べたじゃない」「あれ?そうだったっけ?」「ちょっとしっかりしてよ。私たち家族はこれからが一番大変な時期なんだから
お父さんになにかあったら困りますよ」「ごめんごめん、気を付けるよ」
こんな話をしながら四人は夕飯を食べ始めた。
陸はソースをかけた豚カツに手をつける。サク、口に入れて衣の音が口中に響いた。
サクサクの衣の中からジューシーで噛み応えのある豚肉がご飯を進ませる。
母親は息子の陸から見ても料理が上手だった。とても美味しい母の味。
この当たり前の幸せは人が思っているよりもかなり大事なことだと思う。
「ごちそうさま」陸は食器を台所へ置き自分の部屋に戻ろうとした。
「陸」後ろから聞こえたのは父親の声だった「なに?父さん」
陸が聞くと父親は照れくさそうに言った。「無茶するなよ、まだ先は長いからな」
陸にとって父親の言葉は思いがけないものであった。父親にこんなこと言われたのは何年ぶりだろう。陸は急に言われた父親からのエールに照れながらも、
「ありがとう、父さんも気をつけてね」陸はそれだけを言い残し急いで自分の部屋に戻った。照れているのを家族にバレたくなかったのだ。
そしてそんな二人の様子を見ていた美佐は母親と食器を洗いながら心配そうに話した。
「あの二人、なんか気まずくない?大丈夫かな」父親はその時お茶を静かに飲んでいる。
だが長年二人を見てきた母親はとくに心配する様子はなかった。
「大丈夫よ。あの二人なら。とくに心配いらないわ、しばらくしたら元に戻るわよ」
「そうかなー?」美佐は首を傾げる。母親はそんな美佐を見ながら「そうよ。だから安心してなさい」自信満々に言った。この家を影から支える母親の言葉はとても力づよかった。
陸は夕ご飯を食べた後、再び勉強をした。寝るまでの勉強の間にお風呂や歯磨きなどを済ませ寝るまで勉強した。途中休憩をはさんだりもしたが集中力を切らすことなく今日の分の勉強をやりきり眠りについた。最近疲れ気味だったので余計なことをする元気はなく
速攻で眠りについた。あと一週間で学校だ。学校にむけてしっかり備えよう。
「部長!この書類に判子お願いします」いつでも元気の良い部下が男に話しかける。
「分かった。でもいつも言っているがお前そんなに大きな声で話すな。耳が痛い」
「すみません!私、自衛隊出身なもので癖がぬけません。本当すいません!」
部下の男は頭を下げた。私には他にも自衛隊出身の知り合いがいるがこんな癖を持っている奴は聞いたことがない。コイツの頭はどこかおかしいのか?そんなことをこの男に対していつも思っている。自衛隊だっただけあって検挙率はかなり優秀だがそれ以上に日常生活で鬱陶しさを存分に発揮するので男からしたら好感度が±0になっていた。そんな男の想いなど知る由もなく部下の男はしつこく話を振ってきた。「そういえば部長!部長は有給休暇でなにをするのですか?」耳元でうるさく聞かれた。「だからうるさいって!」「はい!!すいません」一向に治る気配がないので諦めるしかない。この男の上司になったのが運の尽きだ。「それで部長は有給休暇で何をするのですか?」再度、部下の男が聞いてきた。「まったく、お前はプライバシーって言葉を知ってるのか?答えは秘密だ。お前には教えん」その言葉を聞き部下の男は残念そうにこう答えた。「そうですか、よく分かりませんが楽しんできてください!」「ああ、ありがとな。折角の休みだ。楽しませてもらうよ」「はい!お気をつけて」こう言い残し部下の男は去って行った。しかし実際には男はどこかへ行く訳ではない。ずっと家の中である作業をするためだ。
(私の計画の邪魔はさせない。他人には絶対、私の世界に入ってこられるのは困る。神は一人だけで充分だ)
なにもないこの理不尽な世界より私は自分の世界を愛でる。私はあの世界の創造神になる。
陸は夏の暑い日ざしを浴びながら目を覚ました。あまり目覚めは気持ちよくはない。
夏の暑さが部屋を蒸し暑くしていた。9月になるがまだしばらくは夏の暑さが続きそうだ。
今日からは夏休みは終わり新学期となる。また新しい日々がスタートするのだ。
そのことには若干気が滅入るがここからが受験に向けての勝負である。陸はベッドから起き学校の支度の準備を始める。
夏期講習以外は学校に一切登校していなかったのでボケているのだろうか。あまり素早く支度が終わらない。教科書、弁当に水筒、あとなんだっけ?
大まかなことは分かるが細かい事となるといまいち思い出せない。ああ、そういえば彼女とも夏休み中あまり会えなかったな。お互い大学受験だからしょうがないけど。ある程度の準備を終わらせ陸はリビングに降りた。
リビングでは母が台所で目玉焼きを作り父は椅子に腰かけ新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。味はおそらくブラックだろう。「陸、おはよう」母親からの挨拶がくる。「ああ、うん。おはよう」陸はそっけなく返事をした。「陸、おはよう」父親からも朝の挨拶をされた。「うん、おはよう」陸はそう言って食卓の椅子に座った。座ったタイミングで陸の口からあくびが漏れ出した。まだ体が寝足りないのだろうか?夏休みはいつもより長く寝ていたのでその代償かもしれない。ずれた生活リズムを戻すのは大変だ。しかし自業自得なのでそこは頑張るしかない。少し経つと食卓に朝ごはんが食卓に運ばれてきた。
ご飯を食べようとすると丁度そのタイミングで美佐が降りてきた。「美佐、起きたのね。起きるのが遅いから今から部屋まで起こしに行こうと思ってたわよ」「ファ~、眠い、学校ダルイなー」美佐は寝起きで豪快なあくびをした。髪はまだボサボサだ。おそらく今起きたばかりなのだろう。「美佐、朝ごはん食べる前にまず顔洗ってきなさい」母親からそう言われ美佐は面倒クサく思った「え~、後でいいよ。ダルイし」だがそれは母が許さなかった。「駄目よ。ちゃんとしっかりやりなさい」「うぅー、分かったよ」美佐は渋々洗面台の方へ向かった。美佐は今、高一で受験のプレッシャーをあまり感じず夏休みをとても楽しそうに過ごしていた。
そのおかげで夏休みの最後はほったらかしていた宿題にかなり追われていた。時に疲れからか、現実逃避している時もあったがしょうがなく陸も手伝いなんとか休み中に宿題を終わらせることができた。陸とは違うが美佐もかなり疲れているのかも知れない。
友達付き合いというのはここまでしてしなくてはいけないのか?だとしたら陸は自分の高一を思い出し良かったのだと思う。無理に友達を作らずマイペースに日常を過ごし自分を高められた。クラスメイトからは暗い奴だと思われたのかもしれないが自分の人生においてなにが一番大事なのかを考えた結果である。無理をしてまで友達はつくらない。たとえ苦労して友達ができたとしてもそれは高校までの付き合いに過ぎず一回離れればもう会うこともあまりない。
同窓会で会うかぐらいだろうがその頃には高校の頃のようには楽しく話せないだろう。
絶対気まずくなる。少なくても陸はそう思っていた。そうなるなら本当に信頼できる友達と彼女を作れた自分は勝ち組であると陸は自分では思っている。そんなことを考えていながら陸は朝食を食べていた。その時、陸がみそ汁をすするタイミングで美佐が戻ってきた。
「あー、スッキリした」美佐はリビングに戻ってきてすぐに椅子に座る。「美佐、お前もうちょっとしっかりしろよ」陸が美佐に注意をした。「はいはい、気を付けますよー」いつもどうりの朝を過ごし朝ごはんを食べ終えた陸は弁当をもらい水筒の中身を自分で入れ自分の部屋に戻り学校へ行く準備を終わらせた。今日から新学期だ。しっかりと気を引き締めよう。残りの高校生活約半年、将来の自分のために。
その想いを秘め陸は20分かけ学校へ向かった。そして今日もあの現象がやってくる。
「ズキ!」思わず頭に手を沿える(痛!今日は早いな)頭痛は当たり前のように毎日続いていた。だが陸はいつものことなので気にせず学校へ向かう。
この頭痛は一体なんなのか。それはただ一人を除いては誰も知る由もない。
そして陸は約20分歩き続けたどり着いた。陸の通う学校「聖稜高校」偏差値は63とまあまあ学力は高い。学校にたどり着いた陸は正門に入り靴箱で上履きに履き替える。
そして久しぶりに校舎の中へ入り教室3-Aに向かった。そこが陸のクラスである。クラスに入るとまず顔見知りの女子が話しかけてきた。「陸-、おはよう。久しぶりかな?2週間ぶりだね」話しかけてきたのは高一の頃から付き合っている彼女だった。
「香菜。なんだ?寂しかったのか?」陸は笑顔で返した。
「べ、別にそんな寂しくなんて無いわよ」彼女の名前は青葉 香菜。
高校一年の頃から陸と付き合いを始め分かれることな約2年間、親には内緒で付き合い続けている。美佐や母親からは「彼女はできないの?」とおせっかいなことをたまに言われるが正直に言っても面倒くさくなるだけなので家族にはまだ言わない。
言う時が来たときはそれは本当の幸せを自分が決めた時だろう。教室が生徒でにぎわい始めた頃彼女が席について二人で話していると一人の男子が話しかけてきた。
「やー、お二人さん。休み明けから外の気温のようにお熱いね~」そう言ってきたのは陸の親友で香菜の幼馴染、新井敦だ。
敦は二人にとっても大事でありがたい存在だ。何故なら陸と香菜が付き合えるようになった最大の理由は敦のキューピットによるものだったのだ。話は二年前にさかのぼる。
春、そよ風から徐々に暖かくなり雨音が日常に音色を奏でる季節、そんな時、香菜は陸を廊下で一目見た瞬間、恋に落ちた。それは香菜にとって生まれて初めてのことだった。香菜は陸に好意を抱き想いを伝えたいと思っていたが一人では緊張してどうしていいか分からない。恥ずかしながらも香菜は幼馴染の敦にそのことを相談した。
高校で新しくできた友達に相談しても良かったのだが友達の期間がまだ短いのでいまいち信用できない。でも一人ではどうすることもできない。だからしょうがなく敦に相談したのだ。「私、好きな人ができたの」
敦は香菜の相談に乗った。香菜は恥ずかしがりながらも、とても生き生きとして喋っていた。そんな香菜を見て敦は思う。(俺と喋るときはそんな顔してくれないのに)。敦は顔を曇らせた。しかし香菜は夢中になっており敦の様子には気ずかない。「ねえ、それでどう思う?」香菜から聞かれたが敦は深く考え込んであり話を聞いていなかった。
「敦、大丈夫?」香菜は明るい表情から敦を心配する様子に変わった。
「え?ああ、大丈夫だよ。考え事してただけ。それでなんだって?」「ちょっと!ちゃんと聞いてよね」それから二人は作戦を考えた。といっても作戦は単純だった。敦がまず陸に近ずく。そして親交を深めた後、さりげなく香菜の良さを陸にアピールし美佐に対しての陸の印象を良くする。その後、香菜は敦を通じて陸に紹介してもらい親縁を深めてきた。そして3か月後、敦の完全サポートを得て二人は付き合うことになったのだ。すべては作戦通り。しかし今はそんなこと関係なく作戦など組まなくても普通に友達になれたんじゃないかと言う位、仲が良い。作戦のことは陸には言っていない。
それは二人だけの秘密だ。紹介が長くなった。話をもとに戻そう。
「冷やかさないでくれよ、敦」陸はそれでも満更でもない顔をした。
「いやいや、お二人のお熱い様子を見ていたら居てもたってもいられなくなってね」
「そう思うなら早くあんたも好きな人見つけて告白したら?」香菜が敦に向けて馬鹿にするように言った。「残念だけど好きな女はもう誰かさんの所有物になってしまったから今はもう無理だね」敦は陸を見つめながら言った。だが陸は敦を見ていなかった。見ていたのは時計。「敦、もう時間になるぞ。早く席についておけ」
敦の言葉を聞いていなかったのか。陸は敦の言葉を無視して自分の席に向かった。そしてしょうがなく敦も自分の席に向かった。だが敦の言葉は香菜には届いていた。
(アイツ、好きな人いたんだ。誰だろうな~。今度聞いてみよ)香菜は敦を見てニヤけながら考えていた。幼馴染としてとても気になったのだ。
そんなことを考えていると教室に担任が入ってきた。そして朝のチャイムが鳴り響く。
「よしお前ら全員無事にいるな。夏休み中にお前らがなにかトラブルに巻き込まれなくて本当良かった。夏休みも終わってここからは受験に向けて大事な時期だ。
しっかりと気を引き締めなおそう」担任は続けて話をした。「じゃあもう少ししたら始業式だから皆ちゃんと準備して移動するときはリーダーの指示に従って行動するように。頼むぞ、小田」
「はい!」力のある返事で担任を安心させると担任は急いでどこかへ行ってしまった。
ちなみに陸達とクラスメイトの小田はこの学校の生徒会会長だ。それゆえに教師からも信頼されている。5分ほど経ち小田がクラスに号令をかけた。「よし!みんなそろそろ時間だ。行くぞ」
小田の掛け声とともに陸を含めた皆、廊下へ並び始めた。そして始業式が始まる。うちの学校の校長先生の話は他の学校の校長と比べてかなり長い。ダルイがまぁ、我慢しよう。
10分前「はあ、はあ、友里ちゃん、おはよう」
「ああ!美佐おはよう。どうした?そんな息荒げて」
美佐はクラスメイトと挨拶をした。何故こんなにも美佐は疲れているのか?
どうやらこの時期の女子は準備に色々時間がかかるらしい。慌てながらも急いで家を出て学校まで通学路を全力疾走で走り続け時間ギリギリで学校にたどり着いた。なので息があがっている。「まったく、美佐はそういうとこマメだよね」「友里ちゃんが大雑把すぎるだけだよ。それに今は学校の規則であまりオシャレできないけど今できる最低限は努力したいの」美佐は自然と自分の髪に手が伸びていた。走った時に髪型が乱れたのだろうか。
今髪の毛を自分で修正している、「美佐、それなら私がやってあげるよ」友里ブラシを持ちが美佐の髪に手を伸ばす。「「ありがとう。友里ちゃん」友里が美佐の乱れた髪を元に戻す。「美佐、あんたはもうちょっと落ち着いて余裕をもって行動したら?前から思ってたけどあんた時々危なっかしくて怖い時があるから」突然友里が美佐に注意をした「どうしたの?急に」突然の言葉に美佐が思わず友里に聞いた。
何故急にそんなことを言うのだろうか。「友達として心配だからよ。だからちゃんとしっかりしなさい」美佐は友里から予想外の言葉を聞いた。そしてうれしくなった。「ありがとう。気をつけるよ」美佐の日常は 「今」はとても幸せだろう。だが後に起こる現実を前にして、彼女は・・・
陸は学校からの帰り道、激しく落ち込んでいた。
やってしまった・・・まさか宿題を全部忘れるなんて・・・陸は帰り道を重い足取りで歩いていた。今まで生まれてから18年、宿題を忘れたことなんて一度もなかった。
しかし何故か今回だけはすっぽり頭から宿題のことが消えていた。なんだろう・・・
この感覚、夢で覚えがある。意識はある。ただ何故か記憶だけが消えるのだ。
ただ教師からは厳しい顔をされながらも今までの実績からか、明日ちゃんと全部持ってくれば許してくれると言ってくれたので明日はちゃんと持ってくればいいだけだ。
そして陸は家に帰ってきた。玄関で靴を脱ぎちゃんときれいにそろえる。すると母が陸が帰ってきたことに気がつき母が後ろから話しかけてきた。「陸 お帰り」当たり前だがいつもどうりの言葉だった。「ただいま、母さん」これ以上言うこともない。陸はとくに考えず自分の部屋に向かった。学校のカバンを部屋の隅に放り投げ陸はベットに身を投げ出す。真上にある明かりが眩しいのか、陸は自分の腕で目をおおいかぶした。しばらくすると陸のスマホに香菜からのLINEが届いた。「今日のこと落ち込んでる?切り替えて元気出してね」心配してくれていたのか?というかそんな落ち込んでいるように見えたのか。心では思っていても顔では出さないようにしていたのに。香菜からのメールに陸はこう返した。 「ありがとう」 素っ気ないだろうか?
今は深く考える気分じゃない。香菜にはこれで勘弁してもらおう。
今度なにか奢れば問題ないだろうし、陸はスマホを適当な所へ置き仮眠をとった。
今日の学校で眠気が襲ってきて辛かった。早く生活リズムを元に戻さないとな。
陸は目をつぶると疲れと眠気からか、いつの間にか意識がなくなっていた。
そして陸は夢を見た。暗い場所でただ一人、ずっとパソコンに向かって独り言を呟く60代ぐらいの男。「素晴らしい世界だ。完璧だ。私の計算に狂いはなかった。誰も悪いことをしない平和な世界。見たか!私は創り上げて見せたぞ」男はただ一人、部屋で喜びに震えていた。これはなんだ?何故名前も知らない男が俺の夢の中に出てくるんだ。
すると男は再びパソコンの画面に釘付けになった。「あとはRIKU、コイツだけだ。あとはコイツを完璧に支配すればこの世界に危険は無くなる。有害因子は早めに解決しなければ。私の世界には一ミリの危険もあってはならない。
もし問題が起きれば・・・私は神としてコイツに粛清しなくてはならない」
この男は何を言っている?リク?まさかそれは俺のことか。なんのことか分からずにいると夢の場面は切り替わった。ここはどこだ?地獄か?辺り見渡せば天変地異が起きている。
人間は誰もいない。人間どころか生物すら見当たらない。ここは何処だ?するとその時
後ろから陸を呼ぶ声が聞こえた。「陸!!」その言葉を聞き陸は後ろを振り返ろうとした。
しかし残念ながらそこで夢は終わる。「おにーちゃん!起きて!ご飯だよ!!」美佐が激しく体を揺する。「うぁ、美佐なんだよ。今良いところだったのに」「なに?何の夢見てたの?」「なんか・・・よくわからなかった」美佐は陸の様子を見て怪しがりながらも、
「分かったよ。それよりもうご飯だから早くいこう」美佐は陸にそう言った後一人で降りて行った。その時、陸は夢で見たことを思い出す。あれはただの夢だったのか?
しかしどう考えても分かる訳なかった。陸は思い出すことを諦め渋々リビングに向かう。この時は軽く考えていた。だが陸が見た夢は後にいつもの当たり前な平和を壊す正夢となる。
「何故だ・・・何故この男だけ操れない。何故私の素晴らしい思想に捕らわれないのだ」
私は頭を悩ませていた。創った世界にたった一つ。どうしても消せないバグが存在する
「駄目だ!このままではこの男は私の世界に汚れを与えてしまうぞ。何とかしなければ」
存在を強引にでも消すか?いや、それでは周りにもどう影響するか分からない。下手したら世界のバランスがおかしくなる。一体どうすればいいのか。この長い年月で解決策は何も思いつかなかった。無力な私はこの男がなにか問題を起こさないことをもう祈ることしかできない。頼む神様。これは私の人生で唯一のワガママなのだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。






