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ベゴニア・アネモネ・チューリップ sideM  作者: パンナコッタ
四月
2/2

2

それから2日間は本社近くの会場で全体研修を受け、その次の日からはそれぞれの棟で行われた。第3棟には採用試験の時以来初めて足を踏み入れる。なんとなく早起きしてしまい朝からすることもなく時間を持て余した私は、集合時間より30分以上早く到着した。ここへは寮から歩いて15分かからないというのもある。そんなに早く着いたって既に配布された資料を読みなおすくらいしか出来ることはないので、この時間に来ているのは私くらいのものだろうと思っていたら、案外と席の7,8割は埋まっていた。選べるほどの席の余りはなく、適当に近い席に荷物を置いた。同じテーブルの席はみんな埋まっていたが、まだお互い他愛もない話ができるほど打ち解けてはいないので、会話が起こることはない。見覚えのない顔があったらもう1人の新人かもしれないと思って少し見渡してみると、驚いたことにほとんどの顔に見覚えがなかった。いや、そういえば見たことあるかなと思えなくはない顔がいくつかある程度で、それくらい、昨日ちょっと挨拶しただけの同期たちの顔を私は記憶していなかった。

時間になると、制服を着たスタッフが大きな紙袋を両手に2つずつ程さげてぞろぞろと入ってきた。おそらく人数分あるのだろう紙袋を机の上に並べ終わると、紙袋にそれぞれの所属部署と名字が書いてあるので探して取るように言われた。親切な人はいるもので、それまでに私のことを覚えてくれたのであろう誰かが、佐藤さんここにあるよ、と教えてくれたので、たいして探す手間もなく自分の紙袋にたどり着くことができた。知っている人のだったら、私も教えてあげよう。そう思って隣に残っていた紙袋を見ると、同じ部署名が書いてある。ということは、これを取りに来る人が、もう1人の同期だ。顔に見覚えがなくて、まだ探している人は。


「これじゃないですか?」

「あ、ありがとう」


最初に声をかけた男の人だった。背が高い。私も女の子たちの中ではたぶんいちばん高いと思うが、私より全然高い。私が165センチだから、これなら180センチあるか。細身でスラッとしているが手は大きく見えた。髪は黒く、長くも短くもなく、いわゆる好青年というかんじ。マスクをしていて顔は分かりにくいが、目が大きい。眉毛がきりっとしていて、眼力を感じる。なんといっても、その少し高めの声が強い印象に残る。声量が大きくはないのにはっきり聴き取れる。一言しか言葉を交わしていないのに、どんな人混みではぐれてもこの声を頼りに探し出せるだろうと思った。


「あの、私同じ部署の佐藤深音といいます。よろしくお願いします」

「あ、北見(きたみ)航汰(こうた)です。よろしくお願いします」

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