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ヴィー、君は聖女だ  作者: 湊つぐむ
1/2

前編

幼い頃、一度だけ屋敷を出たことある。

困ったところを

教会の神父様が助けてくださった。



『ヴィー、君は聖女だ。』




美しい神父様は私の頭を撫でて微笑む。

それが私の触れた初めての優しさ。…そして初恋。



神父様との出会いから10年…

月日は流れ幼い少女は16歳となった。



「この場を持ってレヴィア・ランズ公爵令嬢との婚約破棄を言い渡す。

そして、聖女アスリア・ミリタリーとの婚約を発表する!」


私、レヴィア・ランズ公爵令嬢は

多くの貴族が揃うパーティーの最中に

この国の第一皇子に婚約破棄された。




______________________




16年前の魔王復活を期に国は

かつて魔王を封印した聖女を探していた。


伝説では勇者だった女性が

魔王を倒し死んだという内容。

その女性に敬意を払いこの国では

魔王を倒した彼女を”聖女”と呼ぶ。



この国の王子と私、レヴィアが婚約したのも

私が勇者が爵位を受けた公爵家に産まれだから。

だけど今、王子の横には男爵令嬢のアスリア様が

嫌味たらしい笑みを浮かべている。



「アスリアに対する非道の数々…学園でのイジメ

暴行や暴言…お前は公爵令嬢として相応しくない!

泣いて縋っても許さない。だから婚約破棄を応じろ!」


…?イジメ?暴行?暴言?何のことでしょうか。

確かにミリア様が外見の良い権力者や

婚約者のいる殿方との必要以上の馴れ合いや

目上の者に対する態度を注意したことはありましたけど

それが暴言に取られてしまったのかしら…?

イジメも婚約者を取られてしまった令嬢から

やっかまれてはいましたけど…私には関係ないこと。



「構いませんわ。」


「嫌っと言っても…へ?」


両親も私を出世の道具としか

思ってなかったようですし、

せめて殿下を支えて生きていこうと思ってたのに

殿下には想い人がいるようですし。




「お見苦しいですよ。殿下。」



柔らかな純白の髪に翡翠色の優しい瞳…

10年前と変わらぬ姿の美しい男性がそこに居た。



「ただの王族付きの魔法使いが何のようだ!」


殿下の言葉に驚愕する。


(神父様が…王国の魔法使い??)



16年前に突如現れて、その魔力は

魔王に筆頭するとさえ言われている魔法使い…



(そんなお方がどうして神父に…?)



「今は、ただの神父ですよ。

王国付きの魔法使いは先ほど辞めて来ました。」



傍観に徹していた貴族の方々がざわめく。

それもそのはず。

魔王レベルの魔力の持ち主である彼が

他国へ行けばこの国は終わる。


「待ってくれラース殿っどうか考え直してくれ!!」


神父様のあとを懇願しながら追うこの国の王様…


「父上っこれは一体?たかが魔法使いでしょう?

それより私と聖女アスリアの婚約を認めてください。」


「何を言ってるっこのバカ息子っ!!

この国の聖女は”ヴィー”の名を持つランズ公爵家だ!

その娘こそ聖女を名乗る偽物っ

レヴィア公爵令嬢との婚約は絶対だっ!!」


”ヴィー”とはランズ公爵家の隠された名前。

代々受継がれる名前を知っているのは

王家と公爵家のみ…あれ?


(なぜ神父様は知っていたのかしら…?)


幼い頃、神父様は名乗っていない私を

確かに”ヴィー”と呼んだ。


それに陛下の慌てぶりもおかしい…

まるで私が王子と婚約破棄されると困る様子…


(私が聖女だから…?…そんな筈ないわ…

聖女なんて名ばかりで何の力もありませんし…)


その点、男爵令嬢のアスリア様は魔力が高く

彼女こそ聖女に相応しいと思う人が大半…

何故なら私には魔力の欠片も持たない異端者だから。

そのせいで両親から疎まれ友人も出来ずに

この16年孤独に生きてきたのですから。



「当の本人達が破棄を望んでいるのです。

許して差し上げて下さい陛下。

聖女の代わりに魔力の高いアスリア男爵令嬢が

殿下と婚約すればいい。

その代わりにレヴィア公爵令嬢は私が貰い受けます。」


「…え、」


私が神父様の妻に…?


「…………いやですか…?」



私の大好きな優しい笑みが消え、暗い影が指す。

初恋の神父様と結婚出来るなんて…これは夢かしら?

いえ、きっと公爵令嬢が婚約を破棄されるなんてと

哀れんでくださったのよ…なんとお優しいの神父様…



「私は幼い頃から神父様をお慕いしておりました。

……でも神父様はご結婚出来ないでしょう?」


神様に仕える神父様が結婚など出来るはずがない…

それでも私は神父様の優しさが嬉しかった。



「んー、もとより神父となったのは

ただの”隠れ蓑”だったので問題ありません。

”一度”この国を出て”他国”へ行きますし、

そもそも私は神に仕えたくありません。」


「…それはそれで良いのでしょうか」


この方は以前から思う所はありましたが…

例えば、逆さの十字架をかがげたり、

白より黒を好んだり…少々変わっていらした。


「元神父になるだけです。」


それにと続ける神父様。


「貴方達が私に付けた重い枷も外れたことですし、

”私の聖女”を返していただくとします。」


「”ヴィーを取り返せた”のなら

この国に留まる意味も無いので

私どもはこれで失礼します。」



「待てっ儂は許してないぞっ」


私たちは歩みを止め振り返る。

陛下は納得されず婚約破棄も、

私たちの結婚も、神父様が王族付きの

魔法使いを辞めることも許してくださらない…




「陛下…貴方は己の罪でこの国を滅ぼす。

魔王の妃を自分の息子と婚約させることで

人質にし魔王からの破滅を阻止しようとした

愚かな策もそうですが…

…貴方は”彼女の名”を口にした。それが一番の罪。」




この時ばかりは

神父様の優しい笑みが黒く歪んで見えたのです。




_______________________




祖国を離れ私は神父様と共に教会に住むことに。

噂では、祖国は魔王によって滅ぼされたとか…



「あ~!や~と会えたぁ~!!」


ラース様と私だけの教会…

そこには何故かアスリア男爵令嬢がいた。


(…なぜ?…まさか殿下の時のように

私からラース様を奪うつもりなの…?)


ワタシカラウバウノ?


ワタシノアイスルヒトヲ


アイシテクレルヒトヲ…


…ユルサナイ



『ヴィー。』



「…神父様?私は何を…」


「うっわ~さすが”レヴィアタン”~。魔力強っ~。」


「っ?!アスリア様?!大丈夫ですか?!」


向かい合っていた筈の

アスリア様が何故か教会の端で倒れていた。


「アレは気にしなくていい。自業自得だ。」


「ひっどぉ~まぁ否定はしないけど!」


「…随分と仲のよろしいことで、」


口にして余計心が黒くなる。

…自分がこんなに嫉妬深いなんて初めて知りました。


「っ!?あ~違う!これはそうじゃないから!

”嫉妬”しないでぇ~俺、男だから~」


アスリア様がいた場所にはアスリア様と

同じ髪色の魅惑的な男性が引きつった笑みで口にした。


「俺の本当の名前は”アスモデウス”。

”魔王 サタン”の配下だよぉ~」


「…俺が魔王、サタンだ。」



翡翠の優しい瞳が血のような赤に、

純白は闇を思わせる漆黒に…

魔王を名乗るのは…


「神父様…?」





神父様もとい魔王様は

聖女に封印されたのではなく

自ずと眠りについただけだったらしい。

愛した聖女が再び生まれた時に目覚めた。

その聖女の生まれ変わりが私だった。


魔王様は私が生まれた時から

私を見守って下さっていた。


私が第一皇子と婚約させられ

婚約を破棄する為だけに

殿下を淫魔の始祖であるアスモデウス様に

魔力を使って魅力的な女性となり墜とさせた。

全ては私と殿下が円満に婚約破棄する為。

結果としては国が滅んだが…



「なぜ祖国を滅ぼしたのですか?」


「王がお前のことを”ヴィー”と呼んだからだ。」


ランズ公爵家に伝わる隠された名前…

それは魔王が愛した聖女の愛称だった。



「いい加減、名前で呼んでくれ。」


「どちらの名前で呼べば良いのでしょうか…?」


「”ラース”。お前だけが呼ぶことを許された名だ。」


私だけの貴方の名前…



「ラース様、愛してます。」


「嗚呼、ヴィー。俺だけのヴィー…。

”嫉妬”する暇もないくらいお前を愛そう。」



魔王サタンもといラース様は

出会った頃と変わらない笑みを浮かべる。



(…そういえばアスモデウス様は何故…

私を”レヴィアタン”と呼ぶのでしょうか…?)










元公爵令嬢は知らない。

…自分が嫉妬の悪魔だということを…






▼レヴィア・(ヴィー)・ランズ

聖女。ランズ公爵家の一人娘。

両親に出世の道具として育てられた故に、

初めて優しくしてくれた神父様に恋をした。

嫉妬深く、無意識のうちに魔力が昂り

人や悪魔を襲うこともしばしば。

聖女エンヴィーの生まれ変わり。


▼ラース神父(魔王サタン)

魔王にして七つの大罪、憤怒の悪魔。

ラースは嫉妬の悪魔レヴィアタンだけの呼び名。

神父として身を隠しつつレヴィアを見守っていた。

自分以外がレヴィアに少しでも関わると

怒りにより虐殺を繰り広げる。


▼アスモデウス(アスリア・ミリタリー男爵令嬢)

魔王の配下にして七つの大罪、色欲の悪魔。

淫魔の始祖で彼自身インキュバス。

魔力が高いため女の淫魔サキュバスにもなれる。

レヴィアを奪い返すために魔術で女となり、

サキュバスの能力を使い王子を手玉にとる。

サキュバスの際の名前はアスリア。

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