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終末的日常論  作者: 杉下 徹
一章  黒
9/54

1-8

「……っと、これは俺の勝ちだな」

 食事を終えた俺と白羽は、なんとなくとしか言いようもないような流れでボードゲームに興じていた。

「うー……全然勝てない。志保、強すぎるよぉ」

 将棋に始まり、チェス、オセロと来たが、今のところ全てで負けている白羽は不満気に頬を膨らませてこちらを睨む。

「彼方に比べたら、俺なんか大した事ないだろ」

「どっちにも勝てないから、私には両方強いくらいしかわかんないよ」

 食事中も、その後も、幾度か彼方の話題になったが、今のところ白羽はそれに過剰に反応するわけでもない。不安が完全に消えたわけでもないだろうが、不意に取り乱したりしない程度には落ち着きを取り戻したように見える。

「じゃあ、キリの良い所で帰るとするか」

「えっ、もう帰っちゃうの? せめて私が勝ってからにしない?」

「それじゃあ、今日中に帰れないだろ」

「それは流石に私を舐めすぎだよっ! 私の方が強いゲームもあるから!」

 頬に溜めた空気を吐き出すように、鼻息も荒く詰め寄ってくる。

「白羽が彼方に勝てるゲームもあるのか?」

「それは……ある、と言えない事もない、とか……ジャンケンとか!」

「ジャンケン、ぽい」

 不意を突いて手の平を広げるも、真っ直ぐ伸びた二本の指に迎え撃たれてしまった。

「本当に強いな。咄嗟にチョキを出せるとは」

「よし、やった、志保に勝った!」

「じゃあ、めでたく白羽が勝ったところで帰るか」

 荷物を手に取ろうとして、何も無かったのでそのまま立ち上がる。

「あれ? えっと、悔しくないの? リベンジしたいとか思わないの?」

「ジャンケンにそこまで情熱を注げるほど、熱量持って生きてないな」

「えーっ……こ、このヘタレ! ジャンケンにも勝てないようじゃ何にも勝てないぞ!」

「将棋とチェスとオセロに勝てれば、とりあえず満足だ」

「ううっ、ダメだ、口じゃ勝てない」

 どうにも白羽の様子が妙だ。そこまで俺にゲームで勝ちたいのだろうか。

「ね、ねぇ……本当に帰っちゃうの?」

 どうしたものかと立ったままでいると、先程までとは打って変わって窺うような声色で懇願するように問われる。

「別に、今すぐ帰る用事があるわけでもないけど。そんなに遊びたいのか?」

「そうそう、もう少し遊んでこう……ううん、いや、そうじゃなくて」

 肯定しかけたところで、しかし白羽は言葉を止めた。

「志保、今日、家に泊まってかない?」

 またも変わった声色と表情は、どこか切羽詰まって見えた。

「泊まるって言っても、何も用意してきてないぞ」

「用意する事なんてそんなに無いでしょ。パジャマとかはお兄ちゃんの使えばいいし。志保が借りるなら、お兄ちゃんも許してくれるよ」

「まぁ、そこは大丈夫だろうが」

 衣服の貸し借りなどよりも、白羽と一夜を共にする事の方が、彼方に許してもらえるかどうかは怪しい。友人としてはある程度認めてくれていると思いたいが、妹に近づく男として見た場合、彼方から俺への評価がどうなるか真剣に考えた事はなかった。

「一応、明日も学校あるけど」

「少し早く起きれば大丈夫でしょ。それに、どうせ志保は授業出てないじゃん」

「それを言うか、それを」

 実際、俺は授業どころか学校にすら行かない事もままあり、それで問題無いと思っているわけで、学校の準備なんてものはどうでもいい。ただ、一応は学校に行く事を勧める立場だった白羽が、そこを免罪符に使うのは意外だった。

「……やっぱり、ダメ?」

 そこに来ての弱気な問いとなると、流石に無下には出来ない。

「いや、ダメってわけじゃないけど……そうだな、泊まっていくか」

 元より、俺としては白羽の家に泊まる事に抵抗はまったく無い。特に予定があるわけでもなく、外泊するのに誰に断りを入れる必要もない身ならば尚更だ。

「本当!? ありがとう、志保!」

 過剰な程に喜ぶ白羽の顔を見られただけで、感情の上では十分に得だ。その喜びの裏にある感情も推測できる以上、この選択はきっと正解なのだと思えた。

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