表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末的日常論  作者: 杉下 徹
四章  類
PR
54/54

epilogue

 世界は終わる。

 世界で最初にそう言ったのが、誰だったかは知らない。

「志保は、将来の夢とかあるのかな?」

 そもそも、世界とは何だ。

「金持ち」

 地球が終わる、という事ならば、そう言えばいいだろうに。

「えぇっ、それって夢なの?」

「じゃあ、白羽の夢は何なんだ?」

 自分が死ぬという事なら、なおさらそう言えばいい。

「私の夢は……お嫁さん?」

「きゃーっ! 白羽ちゃんってば大胆!」

「そ、そういう意味じゃないもん!」

 思うに、世界なんて言葉を最初に創り出した奴は、余程の天才で馬鹿だろう。

「でも、なんだかんだ言って、お嫁さんは女の子の夢よね」

「……あー、なるほど」

「何、どうかしたの?」

「お嫁さんが夢、って女はいても、夫が夢、って男はほとんどいないな、と」

 世界という言葉は、あまりに意味合いが曖昧過ぎる。まるで、神のように。

「幸せな家庭を持つのが夢、って人ならいるんじゃないかな」

「そんな事を言ってる子供は嫌だ」

「あははっ、たしかに、そうかもね」

「夫、って言葉が良くないんじゃないでしょうか?」

「お婿さん? とかは……なんか違うわよね」

 まぁ、神にしろ世界にしろ、今の俺達にはほとんど関係の無い話だが。

「……いい景色だね」

 ぽつり、と白羽が零す。

「そうだな。今の今になるまで、気付かなかった」

「そんなわけないでしょ。いつも屋上にいたくせに」

「いや、本当だよ」

 可乃からの横槍は、至極当然の意見ではあるのだが。

「俺が見てたのは空だからな。街を見る事は、ほとんどなかった」

 見下ろした先、遠く見える街の風景は絶景だった。

 普段暮らしている街並みを一望できる。人々を見下ろすのは、神にでもなったかのようで心地がいい。それは、【無】の黒が視界を掠めていても同じだった。。

 とは言え、そこには【無】を取り巻く環境の僅かな変化も関係しているのかもしれないが。

 いつを境にしてか、世界の終わりは緩やかに遠ざかっていた。具体的には、【無】の発生と空間の消失が観測されなくなっていた。

 彼方が手を下したわけでもなければ、世界各国が画期的な対策を発見したという発表もなく、本当にいつの間にか【無】の発生は鳴りを潜め、世界の終了時期は未定となったのだ。

 どこかの心優しい天才が世界を救ってくれたのか、【無】の発生は元から一過性の神の気まぐれだったのか、それとも何かまったく違う事情があったのか、今となっては真実を探り当てる方法も、そんな事を行う気も無いが。

「いっその事、全部【無】に呑まれてた方が、綺麗だったかもしれないわね」

 ひどいブラックジョークを飛ばしたのは、可乃で。

 世界が終わらないからといって、一度発生した【無】は未だ残ったままだ。呑み込まれた全ての物質、もちろん人間も含むそれらが戻る事もなく、【無】の発生が今のところ一時的に止まっているだけでないと言い切れる材料もない。可乃の言葉が現実にならないとは、誰も断言できないのだ。

「可乃さんもまだまだお子ちゃまですねぇ。この雑多な風景の良さがわからないなんて」

「雑多って。人の営みが感じられる、とか言おうよ」

「えぇー、白羽ちゃん、そんな年寄り臭い事言っちゃうの?」

「馬鹿にするなら、どっちかにしなさいよ」

 それでも、今は誰も野暮な指摘などしない。

「彼方は、どう思う? 更地と街の風景、どっちが好きだ?」

「更地も街も、大自然も大都会も、ついでに海も空も勘弁しておくよ」

 屋上の入り口付近に一人貼り付いたままそんな事を言う彼方に、皆で笑いを零す。

「そうだ、空を飛んでみたいな」

 将来の夢というよりも、人類の夢。そんな思い付きを口にする。

「飛びますか、志保さん?」

「ああ、飛ぼう」

 遥香の背から、一対の新雪のように真白な翼が噴出する。

「あぁっ、いいなぁ。私も乗せてっ!」

「駄目だよ、白羽。そんな危ない事をするものじゃない」

「こんなところで飛んだら、また騒ぎになるわよ」

 白羽の羨望、彼方の心配と恐怖、そして可乃の呆れを背に受けて。

「まぁ、そう心配するなって」

 俺は笑いながら、遥香の背に手を掛ける。


「こんな事で、世界が終わるわけじゃあるまいし」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ