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妹がいたら、と考えた事があった。
もちろん、そんな事は考えてわかるはずもない。容姿、性格、年齢差、その他諸々の設定を事細かに定めたとしても、それが俺に与える影響を把握しきれるわけがない。
それでも、いくつか予想できる事もある。
きっと、俺に妹がいたとしたら、それは白羽ほど可愛らしいものではなかっただろう。
「ねぇねぇ、志保。どう、おいしい?」
「ああ、おいしいよ」
白羽が再び溜まり場に顔を出すようになってから、以前にも増して白羽と過ごす時間が増えた。それはどちらからというわけではなく、ただ何となく、のようなもので。今日のように夕食を共にする事も、もはや普通になっていた。
「そっか、良かったぁ」
俺と白羽は、兄妹ではない。それでいて、それに似たものとして見ているのも事実だ。
おそらくだが、俺に妹がいたとしたら、ここまで仲が良くはなかったと思う。俺と白羽くらいに仲のいい兄妹というのは、尺度の違いこそあれど、やはりそうはいない。
しかし、白羽と彼方は、俺と白羽の間柄よりも更に仲が良かったように思える。両親を失ったゆえの結束ゆえなのか、他の何かがあるのか、何にしても二人は一般的な兄妹と呼ぶには、かなり仲が良過ぎた。
「白羽が料理が上手いのは、いつも作ってるからなのか?」
「うーん、上手いかどうかはわかんないけど、前はもっと下手だったよ」
「へぇ、やっぱりそうなのか」
「志保は? たしか、志保も料理できたよね?」
「俺のは、人前に出せるようなものじゃないな。自分で食べる分にはなんとかなるけど」
「えーっ、そんな事言わないで、今度作ってみてよ」
何気ない会話を交わし、時間を過ごす。やがてその内に、食器の中は空になっていた。
「ごちそうさま」
意識して食後の挨拶を口にし、食器を台所に運ぶついでに白羽の頭を撫でる。
「んぅ、まだ食べてるからぁ」
こちらに抗議の視線を向けながら、白羽はくすぐったそうな声を漏らす。
白羽の頭を撫でるようになったのは、ごく最近の事だ。単純なスキンシップ、特に意味があるわけでもないが、ふとした時にそれをしたい衝動に駆られる。
「あっ、食器は私が洗うからいいって言ってるのに」
「気にするな。こうしておいた方が、白羽が俺に食事を作りたくなるだろうからやってるだけだ」
「私は、志保が食べてくれるだけでいいのに」
反論は受け付けず、食べ終わった食器を洗っていく。
白羽が今の俺にどういった関係を求めているのかは、正直なところわからない。彼方の代わりなのか、元の関係の延長でいいのか、それともその両方なのか。ただ、そのどれであっても、少しでも白羽の傍で負担を減らしてやりたいのは変わらない。
「こうして並んでると、なんだか夫婦みたいだね」
少し遅れて食事を終えた白羽が、横に並んで食器を洗い始める。
「夫婦だとしたら、新婚だろうな。結婚してから数年も経てば、大体の夫婦は仲睦まじく一緒に家事なんてしなくなる」
「……むぅ、夢が無いなぁ、志保は」
「夢が無いのは、現実だ。俺は、ただそれをそのまま口にしただけ」
頬を膨らませる白羽を横目に捉え、笑みが溢れる。
「でも、志保にだって理想の結婚生活とかあるでしょ?」
「結婚生活ねぇ……あんまり考えた事無いな」
あくまで朧気にだが、自分は結婚しないものだと思っていた。結婚願望を抱くような年齢にはまだ早過ぎるという事もあるだろうが、それを差し引いても、家族と別れて過ごす事を選んだ俺が結婚に向いているとは思えない。
「まぁ、相手が金持ちなら、それに越した事は無いか」
「それって、可乃ちゃんと結婚したいって事?」
何気なく零した軽口に、白羽の睨めるような視線が飛んできた。
「いや、俺は誰とも結婚しない。少なくとも、今のところするつもりは無いよ」
可乃と結婚すれば、と彼方と話した事を思い出す。
だが、あれはあくまで仮定の戯れ言でしかなく、深く考えた上での発言ではない。深く考えた結果、恋人にすらなれなかった俺達が、まさか結婚など出来るものか。
「そっか……そうなんだ」
白羽の相槌は複雑な声色で、俺はそこに込められた意味を考えるのはやめた。




