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終末的日常論  作者: 杉下 徹
四章  類
45/54

4-6

「……はっきり言っていいか? ここに来られると、迷惑だ」

 朝、というよりはむしろ昼の方が近いだろうか。二度寝を十分に楽しんでからようやく学校の屋上に足を運んだ俺を出迎えたのは、南雲小夜の沈んだ顔だった。

「ここは、あなただけの場所ってわけじゃないでしょ」

「建前上は、な」

 常識的に考えて、一生徒に学校の屋上を占有する権利があるはずもない。この場所は学校の所有地で、ついでに言えば生徒は立ち入りを禁止されてすらいる。

「お前だって、屋上が俺の場所だと思ってるから、ここに来たんじゃないのか?」

「……それは」

 反論の言葉が思いつかないのか、南雲は押し黙る。

 建前がどうであれ、現状でこの屋上が俺の居場所である事は間違いない。教師から注意された事もなければ、自分以外の生徒が足を踏み入れる事もほとんどない屋上で、俺はこれまで一人で過ごしてきたのだから。

「ごめんなさい」

「別に謝らなくてもいい。ただ、もうできるだけ俺には関わらないでくれ」

 唐突な謝罪に冷たく返すと、下げた南雲の頭からすすり泣くような声が聞こえてきた。

 勘弁してほしい。俺は親しくもない人間に優しくするつもりはないが、わざわざ傷付く姿を眺めて楽しむ趣味もないのだ。

「ごめんね。私、馬鹿だから。彼方くんや志保くんみたいに頭良くないから、考えもせずに行動しちゃって。あんな時に告白なんてしても、志保くんが怒るだけだなんて事、少し考えればわかるはずだったのに」

「だから、謝るなって」

 俺には、南雲小夜が理解できない。

 論理的でない、行動が一貫していないのだ。白羽や可乃、遥香に彼方でさえも、ある程度まで予想できる全体像のようなものが、南雲に関してはまったく見えてこない。

「彼方は、まだ生きてる」

「えっ……本当に!?」

 顔を上げ、詰め寄ろうとした寸前で、少女は止まる。

「嘘だよ、馬鹿」

その目には、涙の一滴も浮かんではいなかった。

「違っ、そうじゃなくて、私、そのっ……」

「別に怒っちゃいない。それが普通だ」

 目当ての男を軽く乗り換えようと、嘘泣きで情を誘おうと、今更そんな事で腹を立てたりはしない。人間とは、自分本位な生き物なのだと、俺は知っているから。

「でも、お前は下手すぎる。見ていられない。だから、消えてくれ」

「……っ」

 欠片の余地もない突き放した言葉に、南雲は無言で俺の横を抜けると、屋上を後にした。

 きっと、南雲は二度とここに顔を見せる事はないだろう。自分でも気付いていない恥部を他人に見抜かれ、突き付けられる事を好む者など、そういるものではない。

 それは、当然俺も同じで。

「……くそっ」

 南雲を見ていると、むず痒い衝動に駆られる。

 きっと、南雲は俺に似ているのだ。自分本位で一貫性が無く、そしてそうである事を恥じない。違いがあるとすれば、それに気付いているかいないかくらいだ。

「……もう、来るなよ」

 そう本気で思っていながら、どこか寂しさのようなものを感じている自分に気付き、こみ上げてくる笑いは抑えない事にした。

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