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終末的日常論  作者: 杉下 徹
三章  刹
37/54

3-12

 下ノ瀬白羽という少女を初めて見た時、後悔したのを覚えている。

 初めは、それは遠目に見てただの少女だった。顔も見えないような位置で、あの頃は友人だと思っていた同級生に囲まれていた少女。

 中学に入って当初、俺はいわゆるクラスの中心的な立ち位置にいた。

 半分ほどが小学校の同じ顔見知り。そして、その小学校時代に色々と揉め事、主に俺の名前に関するものを乗り越え、比較的強い立場を築いていた俺が、そのまま中学校でそのような立ち位置を引き継ぐのは自然な事だったのだろう。

 強い立場というのは、学校という場所においては往々にしていじめの加害者と同一の意味を持つ。俺自身は、自覚している限りで積極的にそういった行為を行っていたわけではないが、周囲の人間が時たま、あるいは頻繁に行う事を止めようともしていなかった。

 だから、近しい知人が少女に何やらちょっかいをかけようとしている状況に遭遇したところで、特別それに興味を示すでもなく、なんとなくその様子を眺めていたのだ。

 いつもと違ったのは、突然拳が飛んできた事。

 たしか左からだっただろうか、いきなりの襲撃をどうにか躱すと、俺がそれに怒りを感じるよりも先に、その襲撃者は少女を囲む俺の知人達へと駆け出していった。

 都合三人の知人は、瞬く間に一人倒れ、二人倒れ、三人目は逃げ出した。今思えば、それほど驚く事でもないが、あの時は襲撃者、彼方の強さにただ驚いたものだ。そして、彼方の背に隠れる少女の可憐さにも。

 あぁ、これなら助けていれば良かった、と思った。下心もそうだが、あの頃、無関係だった俺にすらそう思わせるような、庇護欲を駆り立てる何かが白羽にはあった。

 あの後、彼方は俺を一瞥すると、小さく頭を下げた。

 思い返してみれば、あれは彼方が俺に見せた唯一の失敗だったかもしれない。

 ただ、その時は、俺を白羽に手を出す連中と勘違いしていた、と告げた彼方の謝罪よりも、それが勘違いだと気付く状況理解の早さに気を取られてしまっていたから。

 きっと、あの時が俺にとっての分岐点。彼方と、白羽と親しくなり始めたのは、紛れも無くあの小さな出来事がきっかけだった。

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