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終末的日常論  作者: 杉下 徹
三章  刹
35/54

3-10

「……うわぁ、こうなりますか」

 学校を出て、駅前まで足を運んだ俺達を待っていたのは、一目で営業を停止しているとわかる、明かりの一切消えたゲームセンターの跡地だった。

「まぁ、別の場所に行こうか」

「そうですね、そうしましょう」

 そうは言っても、この辺りでは中心とも言える駅の周りには、ゲームセンターの数も一つや二つでは済まない。まさか、その全てが営業停止しているわけでもないだろう。

「……終わりつつあるのかもな、色々と」

 しかし、それはあくまで当面は、という事でしかない。何もゲームセンターだけに限らずとも、街を歩いていれば明かりの消えた、あるいはシャッターを閉め切った店舗や施設がちらほらと目に入ってくる。そしてその数は、明らかに店舗の入れ替わりなどの通常起こり得る事象によるものを上回っていた。

 可乃の家が【無】に呑まれて以降、特にこの近辺では、加速度的に社会というものが崩壊し始めたように思える。もちろん、自分の周囲の慌ただしさからそう思っているという部分もあるだろうが、増加した商店や施設の閉鎖には、可乃の家を覆い尽くした、近辺で最大規模の【無】が人々に刻み込んだ恐怖と危機感も影響しているに違いない。

「怖いですか?」

 遥香の問いは、まるで心の中に潜り込んでくるようで。

「正直、今はそうでもない」

 だから、その答えは強がりなどではなくて。

「考え始めれば怖いけど。今は、割と他の事で頭が埋まってるから」

 彼方の行方不明に、可乃の両親の喪失。白羽の挙動に、可乃や南雲からの告白。

 それらほとんどが【無】による影響を受けてのものではあるが、それでも考えるべき事が目の前にある事は救いでもあった。

「……そうですか、それなら良かったです」

 神妙に言い、遥香は頷く。その挙動の意味がわからなかったから。

「遥香は、怖いのか?」

「いえ、私は全然怖くないですよ」

 飄々と言い切った言葉が、強がりかどうかも見抜けなかった。

「あっ、ここのゲームセンターはやってるみたいですね。良かったぁ」

「流石に、三件目となるとだるいからな」

 歩いている内に辿り着いていたゲームセンターを目の前に、話が切り替わる。

 店内に入ってすぐの一画は、照明により明るく照らされたクレーンゲームコーナーだった。ゲームセンターというと薄暗い中で大音量が響いているイメージだが、その類のものはおそらく別の階にあるのだろう。

「何か欲しいのとかあるか?」

「先輩、クレーンゲームできるんですか?」

 遥香を脇目に聞いてみると、目を輝かせてこちらを見返してくる。

「多分、それほどできない」

「えぇー……じゃあ、なんで聞いたんですか?」

「ただの会話だ、会話」

 気の抜けたように頭を垂らし、その後に頭を跳ね上げて抗議してくる遥香を軽くいなす。

「クレーンゲームは、白羽が上手かったな」

 割と何でもできると自負していた俺、そして実際に何でもできた彼方のどちらと比べても、クレーンゲームに関しては白羽が群を抜いて上手かった。今この場にいないのが残念なくらいだ。

「そう言えば。白羽ちゃんは、たしかにポンポン取ってましたね」

「なんだ、知ってたのか」

「へっへっへ、なんでもかんでも先輩の方が白羽ちゃんについて詳しいと思ってもらっちゃ大間違いですよ」

「別にそんな事は言ってないんだが」

 俺が白羽とゲームセンターに行ったのは、彼方と三人の時が最後だったはずだ。とは言え、遥香と白羽が二人でクレーンゲームをする機会があっても驚く事ではない。

「やっぱり、ゲームは戦うやつに限る」

「いいですね。私も、そっちの方が好みです」

 俺と同じで対戦系のゲームを好む遥香は、大きく頷きを返してくる。

「じゃあ、とりあえずホッケーでもやるか」

「よし来た、負けた方がジュース奢りですよ!」

 テンションの高い遥香を眺めていると、自分も気分が上向いてくる気がした。

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