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終末的日常論  作者: 杉下 徹
三章  刹
34/54

3-9

「あっ、先輩。もう来てたんですね」

 放課後、いつもの空き部屋に顔を出した遥香は、いつもより明るい表情をしていた。

「さっき会ったんですけど、可乃先輩、今日は学校に来てたんですね。なんだか用事があるから、放課後はここには来れないって言ってましたけど」

「ああ、遥香にも知らせとけば良かったか。悪かった」

「いえいえ、そんな。それより、可乃先輩が割と元気そうで、安心しました」

 問題の性質上、学校に行けるようになれば全快、というものでもないだろうが、たしかに今の可乃は表面上は大分持ち直してきたように見える。どうやら遥香も同じ印象を抱いたようで、それに関しては喜ぶべきなのだろう。

「しかし、用事か……なんだろうな」

「家の事について、色々とあるんじゃないですか?」

「まぁ、そうかもな」

 遺産の相続等については一通り片付いたと聞いていたが、詳しい事情について聞いたわけでもない。仮にそれに関する事でなくても、可乃は可乃でやりたい事もあるだろう。

 ただ、今この場に可乃がいない事が、なぜか少し引っかかった。

「白羽も帰ったのか?」

「そうみたいですね。結局、今日も二人きりです」

 明るい調子のまま、おどけながらそう言うと、遥香は倒れるように椅子に座り込んだ。

「可乃先輩となにかありましたか?」

「なにか、って?」

「なにかはなにかですよ。ロマンチックでエロスティックななにか、です」

 鋭い、と言い切るのは買い被りすぎだろう。普段から、遥香はこういった話を好む。

「別に俺が何かしたわけじゃない。可乃か、もしくは時間が解決したんだろ」

「そうですか、ちぇっ。せっかく面白い話が聞けるかと思ったのに」

 いつものようにふざけて愚痴る遥香に、安堵している自分に気付く。

 そもそも、俺は今なぜ遥香に嘘をついたのか。それがロマンチックかどうかはともかくとして、区切りとなる出来事は、明確に存在していたというのに。

「それじゃあ、今日はどうしましょうか。二人でする事、何かあります?」

「ん……そうだな」

 話は流れ、疑問は内へと仕舞われる。代わりに浮かんできたのは、娯楽への欲求だった。

「ゲームセンターにでも行こうか」

「珍しいですね。でも、行きましょう!」

 思い付きの提案に、遥香は二つ返事で了解を返した。

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