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「いやぁ、しかし、本当に珍しい事もあるもんだよね」
ナナ、という名前らしい短髪の少女が、おどけた様子でそんな事を言う。
「ね、本当に。天川くんと一緒にお昼ごはん食べるなんて、思ってもみなかった」
俺へと首を傾げる髪を団子にした少女は、リサ。
ほとんど関わりの無い二人の少女と机を突き合わせているのには、当然理由があって。
「別に、私と志保は別でいいのよ。話も合わないと思うし」
「そんな釣れない事言うなよぉ、いくら天川くんと二人きりになりたいからって」
「ば、馬鹿! そんな事は言ってないでしょ!」
数日ぶりに学校に訪れた可乃に、なんとなく付き合う形で俺も朝から授業を受け、その流れで教室で昼食を取る事にした俺達を、可乃の友人達は逃さなかった。
結果、可乃を心配していたであろう彼女達を突き放すわけにもいかず、こうして珍しい面子での昼食となったわけだが。
「それで、結局、二人は付き合ってるの?」
ナナの口にしたいきなりの話題は、まさにそのまま急所だった。
昨日の、可乃からの告白なのかも定かでは無い問いに、俺もまた明確に言葉で返してはいなかった。ゆえに、今の俺と可乃の関係は非常に曖昧で――
「まぁ、一応ね。付き合い始めたのは、昨日からだし」
――というわけにはいかないらしい。
「うわっ、本当に? じゃあ、ラブラブじゃん、羨ましいなぁ。自慢だ、自慢」
「聞かれたから答えただけでしょ、もう」
頬をわずかに染めた可乃が、リサのからかいの言葉を払いのける。
どうやら可乃の中では、俺達が昨日の時点で付き合い始めたという事は確定らしい。そう言い切られてしまえば、俺も否定できるわけでもないが。
「けっ、やっぱり私達はお邪魔でしたか。いいよ、ナナ、二人で隅っこ行ってよ」
「うん。じゃあ、二人で仲良くね」
「だから、そういうのはいいから! 気とか遣わないで、普通にしててよ」
友人と戯れる可乃の様子は、常時とそう変わりなく見える。それが強がりを含んだものであったとしても、表面を取り繕えるようになっただけでも十分に喜ばしい事だ。
「ねぇねぇ、どっちから告白したの? やっぱり天川くんから?」
「いや、俺じゃない」
「じゃあ、可乃なんだ。へぇ、ふーん……じゃあ、なんて言って告白したの?」
「ねぇ、もうこの話止めない?」
「止めない!」
自身の恋愛話が恥ずかしいようで、可乃は話題を変えようとするが、友人達は全く取り合おうとしない。人の色恋沙汰というのは、やはり楽しいものなのだろう。
「それで、なんて告白したの? ねぇ、ねぇねぇ」
「あぁ、もう! ただ付き合ってくれるか、って聞いただけ!」
「照れちゃって、かわいいなぁ、もう」
「天川くんは可乃のどこが好きなの? やっぱり、顔?」
昼食は騒々しくも穏やかに、ゆっくりと時間が過ぎていった。




