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終末的日常論  作者: 杉下 徹
三章  刹
32/54

3-7

「いやぁ、しかし、本当に珍しい事もあるもんだよね」

 ナナ、という名前らしい短髪の少女が、おどけた様子でそんな事を言う。

「ね、本当に。天川くんと一緒にお昼ごはん食べるなんて、思ってもみなかった」

 俺へと首を傾げる髪を団子にした少女は、リサ。

 ほとんど関わりの無い二人の少女と机を突き合わせているのには、当然理由があって。

「別に、私と志保は別でいいのよ。話も合わないと思うし」

「そんな釣れない事言うなよぉ、いくら天川くんと二人きりになりたいからって」

「ば、馬鹿! そんな事は言ってないでしょ!」

 数日ぶりに学校に訪れた可乃に、なんとなく付き合う形で俺も朝から授業を受け、その流れで教室で昼食を取る事にした俺達を、可乃の友人達は逃さなかった。

 結果、可乃を心配していたであろう彼女達を突き放すわけにもいかず、こうして珍しい面子での昼食となったわけだが。

「それで、結局、二人は付き合ってるの?」

 ナナの口にしたいきなりの話題は、まさにそのまま急所だった。

 昨日の、可乃からの告白なのかも定かでは無い問いに、俺もまた明確に言葉で返してはいなかった。ゆえに、今の俺と可乃の関係は非常に曖昧で――

「まぁ、一応ね。付き合い始めたのは、昨日からだし」

 ――というわけにはいかないらしい。

「うわっ、本当に? じゃあ、ラブラブじゃん、羨ましいなぁ。自慢だ、自慢」

「聞かれたから答えただけでしょ、もう」

 頬をわずかに染めた可乃が、リサのからかいの言葉を払いのける。

 どうやら可乃の中では、俺達が昨日の時点で付き合い始めたという事は確定らしい。そう言い切られてしまえば、俺も否定できるわけでもないが。

「けっ、やっぱり私達はお邪魔でしたか。いいよ、ナナ、二人で隅っこ行ってよ」

「うん。じゃあ、二人で仲良くね」

「だから、そういうのはいいから! 気とか遣わないで、普通にしててよ」

 友人と戯れる可乃の様子は、常時とそう変わりなく見える。それが強がりを含んだものであったとしても、表面を取り繕えるようになっただけでも十分に喜ばしい事だ。

「ねぇねぇ、どっちから告白したの? やっぱり天川くんから?」

「いや、俺じゃない」

「じゃあ、可乃なんだ。へぇ、ふーん……じゃあ、なんて言って告白したの?」

「ねぇ、もうこの話止めない?」

「止めない!」

 自身の恋愛話が恥ずかしいようで、可乃は話題を変えようとするが、友人達は全く取り合おうとしない。人の色恋沙汰というのは、やはり楽しいものなのだろう。

「それで、なんて告白したの? ねぇ、ねぇねぇ」

「あぁ、もう! ただ付き合ってくれるか、って聞いただけ!」

「照れちゃって、かわいいなぁ、もう」

「天川くんは可乃のどこが好きなの? やっぱり、顔?」

 昼食は騒々しくも穏やかに、ゆっくりと時間が過ぎていった。

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