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終末的日常論  作者: 杉下 徹
三章  刹
29/54

3-4

「可乃、いるか?」

 答えはわかっていて、それでも一応問いかける。

「志保? 何か用?」

 俺の家から出ず、ほとんど引き籠もっている状態の可乃だが、俺が呼べば、こうして部屋から顔を出して返事くらいはする。いつもより若干身だしなみが雑なところこそ見受けられるが、特別取り乱した様子を見せるわけでもない。

「夕飯、食いに行くけど、一緒に行くか?」

「……やめとく。お腹空いてないから」

「そうか」

 答えは予想通りで、それに少しだけ落胆する。

 可乃がこの家に来てから、つまり可乃の家が【無】に呑まれてから、食事を取っている姿を俺に見せた事はない。隠れて何か食べたり飲んだりしているならまだいいが、そうでないなら少し心配だ。数日くらい食事を抜いただけで死ぬわけでもないが、少なくとも絶食を良い傾向と考えるのは難しい。

「じゃあ、少し出かけてくる」

 だからと言って、あえてその事について指摘はしない。

 説教なんてものは、例えそれがどういった意図であれ、受ける側にしてみれば鬱陶しいだけだ。人の言葉で行動を変えるくらいなら、最初からそうしている。俺としても、下手に可乃を刺激して友人兼同居人と険悪になりたくはない。

「……そう」

 感情の薄い呟きを残し、可乃は俺の目の前で扉をゆっくりと閉じた。

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