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「可乃、いるか?」
答えはわかっていて、それでも一応問いかける。
「志保? 何か用?」
俺の家から出ず、ほとんど引き籠もっている状態の可乃だが、俺が呼べば、こうして部屋から顔を出して返事くらいはする。いつもより若干身だしなみが雑なところこそ見受けられるが、特別取り乱した様子を見せるわけでもない。
「夕飯、食いに行くけど、一緒に行くか?」
「……やめとく。お腹空いてないから」
「そうか」
答えは予想通りで、それに少しだけ落胆する。
可乃がこの家に来てから、つまり可乃の家が【無】に呑まれてから、食事を取っている姿を俺に見せた事はない。隠れて何か食べたり飲んだりしているならまだいいが、そうでないなら少し心配だ。数日くらい食事を抜いただけで死ぬわけでもないが、少なくとも絶食を良い傾向と考えるのは難しい。
「じゃあ、少し出かけてくる」
だからと言って、あえてその事について指摘はしない。
説教なんてものは、例えそれがどういった意図であれ、受ける側にしてみれば鬱陶しいだけだ。人の言葉で行動を変えるくらいなら、最初からそうしている。俺としても、下手に可乃を刺激して友人兼同居人と険悪になりたくはない。
「……そう」
感情の薄い呟きを残し、可乃は俺の目の前で扉をゆっくりと閉じた。




