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終末的日常論  作者: 杉下 徹
二章  無
22/54

2-7

「やぁ、志保くんに白羽ちゃん。それに、遥香ちゃん、でいいのかな?」

「おひさしぶりです、今日はお世話になります」

「こんばんは、お世話になります」

 七星邸に足を踏み入れ、まず俺達を出迎えたのは可乃の父親だった。名前は正直なところ覚えていないため、簡潔に挨拶を返すに留める。

「えっと……はじめまして、ですよね?」

「ああ、君の事は可乃から聞いていたからね。いつも娘と仲良くしてくれてありがとう」

「ちょっと、お父さん……もう、ほら、早く部屋に行くわよ」

 親と友人とのやり取りが照れ臭いのだろう、可乃はやりづらそうに俺達を急かす。

「あら、こんばんは。何も無いけど、ゆっくりしていってね」

「こんばんは。お世話になります」

 そこに可乃の母親も顔を出し、また一通り挨拶を済ませたところで、可乃に押されるようにしてその場を離れる。

「優しそうなご両親でしたね」

 社交辞令にも聞こえる遥香の定型的な言葉は、少なくとも俺が可乃の両親に感じた印象と同じだった。両親共に、年不相応に若く見えたり、明らかな外見的特徴があるわけでもないが、どことなく優しげな印象を受ける。

「ん……まぁ、そうね」

 しかし可乃の反応は、どこか手探りで曖昧なものだった。

 その理由は、何となくわかる。

 俺と白羽、そして彼方は、両親と共に暮らしていない。自らそれを望んでいた俺はともかく、白羽と彼方に関してそれは完全に不幸な事故の結果であり、そんな境遇の白羽の前で、可乃も両親について下手な事を口にしづらいのだろう。

 友人としてはこれ以上無いほど親しいとすら言える俺達の間にも、踏み込む事が容易でない領域は確実に存在する。それが、人間関係というものの面倒なところだ。

「到着、と。ここが私の部屋で、そっちのドアがお手洗い。寝室は後で案内する、って言うか私もそっちで寝るから、一緒に行くわ。お風呂も、とりあえずまた後で」

「やっぱり、ここは広いな」

 可乃の家は、屋敷と呼ぶのは少し違うが、それでも文句無しに豪邸の類だ。

 具体的には、部屋の一つ一つが普通のそれより明らかに大きい。たった今開け放たれた扉の先、可乃の部屋にしてみても、俺の家のリビングと同じか、それ以上の面積はあるだろう。

「ここが可乃先輩の部屋ですか。なんかあんまり女の子の部屋っぽくないですね」

「そう? まぁ、特に色とか意識してないから」

 たしかに、部屋に置かれた家具のほとんどは白か黒、あるいは茶色や灰色で、いわゆる少女趣味な色合いは見受けられない。

 ただ、俺に言わせれば白羽の部屋も似たようなものであり、女の子の部屋なんてのはそんなものだと、特に幻想を抱いてはいなかったのだが。

「遥香の部屋はもっと女の子っぽいのか?」

 先程の口振りからするに、遥香の部屋はもう少しそれらしいものなのだろうか。

「私の部屋は、もっとボロいです……はぁ」

「そ、そうか」

 悲壮感漂う溜息に、それ以上踏み込むのはやめる。

「とりあえず、何しよっか? お泊り会と言えば、やっぱり枕投げかな?」

「それはまだ早いんじゃないか?」

「じゃあ、家探し! 可乃先輩の恥ずかしいもの見つけましょう!」

「恥ずかしいものなんてないわよ」

 白羽の問いをきっかけに、話は当面の遊びについてへと移る。

「王様ゲーム……は、先輩が有利すぎるからアレですし。可乃先輩の家って、何かみんなで出来るようなゲームとかありますか?」

「ツイスター……は、志保がアレだからアレよね」

「うーん……志保は難しいね」

「お前らは俺を何だと思ってるんだ」

 元よりわざわざ誰かの家に泊まらずとも群れている面々は、場所を可乃の家に移しても普段と大して変わらず。特別な事などしなくても、このまま駄弁っているだけで十分なのかもしれない、と、思ったのは間違いではないのだろう。

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