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終末的日常論  作者: 杉下 徹
二章  無
21/54

2-6

 俺は、夜が好きだ。

 最初は、背徳感からだったと思う。母親に早く寝ろと促されて、それでも時たま夜更かしをした時の、少し低予算で過激なテレビ番組が妙に面白く感じられた。

 途中から、それは自由と結びついた。親の寝静まった時間は、緩い束縛から解き放たれたようで。先の背徳感も手伝い、より夜を好きになっていった。

 そしてそれとほぼ同時、夜は街中に点在する【無】を誤魔化してくれる存在にもなっていた。

【無】は、色で表現するなら黒色だ。そう表出する原理はともかくとして、【無】は周囲が明るいほどにその黒さから浮き上がるような存在感を放ち、反対に夜の暗闇の中ではほとんど周囲と同化して見える。

 だから、背徳感も失せ、両親と別れた今も、俺は夜が好きだ。

「じゃあ、とりあえず今日は解散かな」

 3ゲーム目を終えたところでボウリング場を出て、その流れで夕食を皆で共に取り終えた時には、すでに日も完全に落ち、辺りは暗闇に包まれていた。

「ねぇ、提案なんだけど、今日これからお泊り会でもしない?」

 そんな時、予想外の提案をしたのは可乃だった。

「いいですね、それ! やりましょう!」

「うん、楽しそうかも」

 それに遥香が真っ先に賛同し、白羽も前向きな言葉を漏らす。

「それは、俺も参加していいのか?」

「え? 何言ってんの、ダメなわけないじゃない」

「いや、それならいいんだ」

 念の為の確認だったが、あっさりと許可され、ひとまず安心する。

「別に女三人に先輩が混じっても、危険だなんて思いませんよ。そもそも、白羽ちゃんと二人っきりで同じ屋根の下の方がずっと危ないですし」

「二人っきりでも、志保は危なくなんてないよっ、ねっ!」

「それを俺に聞いて、『いや、危ない』とは言わないだろうな」

 信頼してくれているのはありがたいが、白羽は少しばかり俺に対して無防備すぎるようにも思える。俺はそこまで大層な人間でもないというのに。

「泊まるのはいいけど、どこに泊まる? やっぱり可乃の家か?」

「どうしてそうなるのよ」

「そんなの、広いからに決まってる」

 俺の家も白羽の家も、四人泊まるくらいなら余裕はあるが、やはり広さでは可乃の豪邸には遠く及ばない。数回遊びに行った事はあるが、泊まった事はまだ無く、いつか話に聞いた大浴場に入ってみたいと前から思っていた。

「私も、可乃先輩の家は行った事ないので気になります」

「じゃあ、とりあえず聞いてみるけど、許可貰えるかどうかはわかんないわよ」

 遥香の後押しもあり、可乃は少し俺達から両親へと伺いの電話を掛ける為、俺達から少し距離を取った。

「星が綺麗ですねぇ」

 間を埋めようと遥香が口にした言葉に、首を捻る。

「そうか? そんなに星が出てるようにも見えないけど」

 どちらかと言えば都会に分類されるであろうこの地域では、田舎のように満面の星空というものは中々お目にかかれない。それは今日も例外ではなく、空はどこか濁ったような黒色で、ところどころに小さく光る点が覗くだけだ。

「でも、お月さまは綺麗だよ」

「そうですよ、白羽ちゃんの言う通り。月だって星なんですから」

「なら最初から月が綺麗だと言えばいい」

「それは流石に、恥ずかしいと言いますか何と言うか」

 何となく三人で見上げた空は、暗く黒い中にも星と月の光が瞬き、それにどこか安堵を覚えている自分がいた。

「何の話?」

「月が綺麗だ、って話だ」

「はいはい、綺麗綺麗」

 電話を終えた可乃が戻り、小さく手を振る。

「家なら大丈夫だって。むしろ、喜んでたわ」

「そうか、それなら良かった」

 可乃の家族の許可も得て、お泊り会の決行は決定した。

「一旦、着替えとか取りに帰った方がいいかな?」

「欲しいならそれでもいいけど、私の家にもパジャマとかなら余ってるわよ」

「じゃあ、このまま行こっかな」

 白羽の言葉に俺と遥香も頷き、行き先を可乃の家に定める。

「楽しみだねっ……志保」

「ああ、そうだな」

 僅かに濁った白羽の声には、気付かない振りで返した。

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