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終末的日常論  作者: 杉下 徹
二章  無
20/54

2-5

「あー……」

 自動販売機の取り出し口から四本目の缶を引き抜き、軽く肩を回す。

 第一ゲームの結果、三位となった俺は、一位の白羽の飲み物を買うついでに皆の分の買い出しも任される事となっていた。後半から追い上げてどうにか150は超えたものの、2点の差で遥香に追い付けず、下手に競った分だけ妙に悔しい。

「……ん?」

 両手に缶を抱えて皆の元に戻ろうとしたところ、何やら見知らぬ二人組の男が三人に話しかけているのが目に入った。

 どうも、一目見る限りではナンパというやつだろう。三人が三人ともそれぞれに容姿のレベルの高い女性陣がこうして声を掛けられるのは、それほど不思議な事ではない。

 生来から内向的な俺からすれば、初対面の異性に無遠慮に声を掛けられる勇気にはむしろ感心すら覚えるが、少なくとも俺から見て三人はそれを喜んではいない。

「どうした、可乃」

 一番まともに話を進められそうな可乃に声を掛けつつ、男達と三人の間に割り込む。

「あっ、志保。いや、何か声掛けられて断ってたとこなんだけど」

 これで引いてくれるのなら話は早いが、そうでないなら少し面倒だ。いくら世界の終わりが見えていると言えど、わざわざこんな公共の場で派手な真似はしないだろうが、軽い小競り合いくらいならあってもおかしくない。

「志保? なんだ、男か。変わった名前だな」

 四人目の女を期待していたのか知らないが、こちらを向いた背の高い方の男は露骨に気勢を削がれた顔を見せた。

「残念ながら。それで、俺の女に何か用でも?」

「俺の……っていうのは、その可乃って子?」

「三人全員」

「へ? ……っ」

 大真面目な顔を作って言ってやると、背の低い方、と言っても俺と同程度だが、そちらの男がやけに楽しそうな声を上げて笑い始めた。

「あはははっ、そっかっ! それじゃあ仕方ないなっ、ははっ……ひぃっ」

 相方の肩を叩きながら息を詰まらせる男に、その相方を含めた一同が全員呆気に取られた様子で固まる。

「行こうぜ、トモ。こいつの女、簡単に取れる気もしないし」

「あ、ああ……そうだな」

 トモと呼ばれた男は完全に呑まれた様子で相方に従い、この場を離れていく。

「あっ、そうだ、一応これ渡しとくわ」

「……俺に、か?」

「そうそう、あんたに。別にその子達にでもいいんだけど」

 ふと、まだ肩を若干震わせたままの男がこちらを振り向き、差し出してきたのは一枚の小さな紙片だった。

「良かったら、気が向いた時にでも連絡してよ。あんたとなら、仲良くやれそうだ」

「考えておこう」

「そう? じゃあ、また。志保」

 ふざけた様子で手を振り去っていった男の残した紙には、『愛を込めて』なんてこれまたふざけたメッセージ、そして『悠』という名前と、連絡先らしき文字列が記されていた。

「無いとは思うけど、何かされたか?」

 気を取り直してジュースを配りつつ、三人一纏めに尋ねる。

「大丈夫、何もされてないよ」

 白羽の返事に可乃と遥香も頷き、つまりはそれが正しいのだろう。

「変な人でしたねぇ……」

「まぁ、暴力的なタイプじゃなくて助かった」

 相手が二人程度なら、仮に拳を振るわれてもどうにかなったとは思うが、殴られる可能性は低いに越した事は無い。

「それより、私達が全員志保の女って、どういう事よ」

 可乃の顔が赤いのは、先程の緊張からの弛緩ゆえか、それとも違うのか。

「違うのか?」

「違うのか、って……えっ? いや……えっ?」

「違いませんよー、わーい、先輩大好きー」

「わ、わーい、志保大好きー」

 狼狽した可乃に畳み掛けるように、遥香、そして白羽までもが俺の冗談に乗る。

「……あっ! からかってるのね!?」

「いや、ただの口実だ。ほら、可乃もくっつけ。まだあいつらが見てるかもしれない」

「そんなわけ無いでしょうが!」

「ちっ、解散だ」

 遥香と白羽が俺にくっつくのをやめ、元いた位置に戻る。

「遊んでないで、次行くわよ、次。今度こそ勝つんだから」

「暴露話は?」

「わざわざ今しなくてもいいでしょ、心配しなくても後でちゃんとするわよ」

「絶対ですよっ、うんと恥ずかしいのを考えておいてくださいね」

 遥香の楽しそうな笑みに気力を吸い取られるように、可乃がげんなりとした顔を見せる。

「じゃあ、次は私から投げるね」

 先程一位になった白羽がまたも一投目をストライクで飾り、第二ゲームは幕を上げた。

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