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「やぁやぁ、先輩、昨日こそお楽しみだったみたいですね」
放課後、現れて早々にやけ面でそんな事を口にしたのは、遥香だった。
「お楽しみ? 何の事だ?」
「とぼけても無駄ですよ。先輩がいくら取り繕っても、白羽ちゃんの方から筒抜けです」
「だから違うってば、志保も言ってあげてよぉ」
遥香のすぐ後から顔を出した白羽は、桃のように顔を赤くしていた。
「とりあえず、白羽は遥香に何を話したんだ?」
「同じ部屋で寝た、って事は言ったけど……」
「えっ!? あんた達、そんなっ!?」
白羽の言葉を聞きつけて、端で携帯を弄っていた可乃が喰い付いてくる。
「待て、そう興奮するな」
「発情してるのはあんたの方でしょうが!」
「そんな事は一言も言ってない」
瞬く間に白羽と同程度にまで赤面した可乃を宥め、一つ息を吐く。
「たしかに同じ部屋では寝たけど、それだけだ。小さい子供が男女一緒に風呂に入ったりするだろ、あれと同じようなもんだよ」
「一緒にお風呂にも入ったんですか!?」
「入ってないよ!」
「お、お風呂……泡……洗いっこ……」
例え話が絶妙に失敗し、事態の収拾がより面倒になった。こういう場合は諦めるに限る。
「さて、じゃあ今日は何をしようか」
彼方の行方がわからないとは言え、俺達に出来る事はこれ以上ほとんど無い。まだ俺が彼方の無事を願っている以上、喪に服すだとか、そういった事にも早すぎる。
「ちょっと、まだ話は終わってないわよ!」
「ボウリングに行きませんか? なんか急にやりたくなっちゃって」
「遥香はそれでいいの!?」
「可乃先輩、人の色恋沙汰に首を突っ込むなんて野暮ですよ」
「遥香ちゃんが言い始めたのに……」
俺達五人が男女入り混じった集団である以上、どうしても色恋の方に話題が寄る事もある。ただ、それはあくまで会話の中のアクセントであり、この場もそういった流れの一つとしてただ処理されていくだけのようだ。
「ボウリングか、俺はそれでもいいな」
「私も、ボウリング行きたいな」
「もう……いいわよ、行きましょ」
世界が終わりつつある今も、だからと言って特別な娯楽があるわけでもない。いつものようにごく普通の遥香の提案に、俺達も特に異論も無くそれに乗る。
「よし、それじゃあ今すぐ出発しましょう!」
一目散に飛び出していった遥香の後を追いながら、頭の片隅を過ぎった必然の違和感は気に留めない事にした。