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終末的日常論  作者: 杉下 徹
二章  無
17/54

2-2

可乃と結婚したら、楽に生きていけるだろうと言ったのは俺だった。

 金持ちの家の一人娘である可乃は、しかし金持ちの例に反して割と自由に育てられていた。どちらかと言えば成金に近い、一代で富を成したという可乃の父親は、価値観も世間一般のそれに近く、娘を業務提携の道具に使ったりするつもりもないようで。数回顔を合わせた時には、いっそ娘と付き合ったらどうだ、なんて冗談を飛ばされたくらいだ。

 そんな家の娘である可乃には、余計なしがらみは無く金だけがある。湯水の如く、というほどで無ければ、十分に遊んで一生暮らせるほどの金が。

 彼方も、俺の俗な意見を聞いて、普通に頷いた。

 でも、と補足したのはその後で。

 可乃と結婚するまでが楽じゃないだろうね、と言って笑ったものだ。

「今の今まで寝といて、何ぼーっとしてんのよ」

「いや、寝てない。正確には、寝れてないんだ」

 可乃と二人の旧応接室、弁当を二人でつつきながら会話を交わす。

 眠いような、それでいて寝るには目が冴えたような微妙な状態のまま昼にまで突入してしまった俺の頭は、靄が掛かったようで今一つ切れが悪い。

「今日は、白羽も遥香もいないのね」

「まぁ、そういう時もあるだろ」

 遥香はともかく、白羽がここに来ないだろう事は薄々察していた。朝、同じ部屋で目を覚ましてから、白羽はどこか俺に対して余所余所しい態度を取っていた。一晩経って、同じ部屋で寝た照れが出たのだろう。だとすれば、少なくとも放課後までは時間を置きたがると考えるのが自然だ。

「志保と二人なら、教室で食べてても良かったかも」

「それじゃあ、俺が一人になるじゃないか」

「一人が寂しいなんてタイプじゃないでしょ」

「俺が寂しくなくても、俺の口が寂しい」

 今まさに遠慮無くつついている弁当は、可乃が家から持ってきたものだ。

 聞いたところによると母親の手作りらしいが、材料の高価さと本人の料理の腕もあってとても家庭の味とは思えない贅沢なつくりとなっている。

「しかし、俺がいない時はこの量どうしてるんだ? 一人で食べるのか?」

 味もそうだが、可乃持参の弁当は量も非常に豪勢で。年頃の女子が一人で食べるには少しばかり多すぎるように思える。

「志保以外にも、食べる役はいくらでもいるから」

「なるほど、素晴らしきかな友人」

 これほど豪華な弁当ならば、それだけが目当てで友達になろうとする者がいてもおかしくない。可乃の友達の多いのにも頷ける。

「そう言えば、小夜の事なんだけど……」

 南雲小夜も、可乃にとっては数多い友人の一人だ。俺への態度から、彼方に近しい人間を嫌っていてもおかしくないのだが、可乃に対してはむしろ親しく接しているらしい。

「南雲がどうかしたか?」

「彼方の事、小夜には話さない方がいい?」

「……それは、俺が決める事なのか?」

 俺個人としては、南雲に対して逐一彼方の捜索状況を告げるつもりは無い。ただ、可乃が会話の中でそれを口にする事は、あえて止めようとも思っていなかった。

「違うの? いつも、こういう事は彼方と志保で決めてたじゃない」

「そんなつもりは無かったけど……南雲には、話したいなら話せばいいし、話したくないならそれでもいい。可乃の好きにしてくれ」

「それなら、まぁ適当に話しておくわ」

 その場はとりあえず流しておくも、可乃の言葉は俺にとっては意外だった。

 俺達の内で仮にリーダーを定めるとすれば、それは彼方だ。何か大切な決定の際も、決めるのは彼方だと、俺はそう思っていたのだが。可乃にしてみれば、俺と彼方が話し合って物事を決めているように見えていたのだろうか。

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