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終末的日常論  作者: 杉下 徹
一章  黒
15/54

1-14

 白羽の家には、両親がいない。

 そこまでは、俺と同じだ。違うのは、そうなった理由であり、過程。一般的に見れば特殊であろう俺の事情とは異なり、白羽の、そして彼方の抱える事情はごくありふれたものだった。

 白羽と彼方の両親は、俺が二人と出会った時にはすでにいなかった。この世界に、とは彼方の推測だが、その推測はおそらく当たっている。数年に渡る行方不明は、今のこの世界において【無】に呑み込まれたという事と限りなく同義なのだから。

 それでも、過程がどうであれ、俺と二人の置かれた環境は似通っていると思っていた。

 その考えが間違いであった事は、きっと知らずに済んだ方が良かったのだろう。


「ねぇ、志保。一緒に寝ない?」

 不自然なほどに落ち着いた声。目だけで様子を伺うと、声の主はこちらを見てすらいなかった。

「一緒にって、同じ布団で寝るつもりか?」

「それは流石に恥ずかしいよっ。布団は別で、同じ部屋で寝ようよ」

 反射的にこちらを向いて抗議する白羽の顔は、照れているようにも緊張しているようにも見えた。

「それが目標でいいなら、受けない事も無い」

「目標? どういう事?」

「結果として同じ布団で寝てるかもしれない、って事だ」

 自慢ではないが、俺は自分の自制心というものを信用していない。価値観の天秤はその時の感情によって揺れ動くものであり、比較的平常な今ですら危うく保たれているだけの均衡は、些細なきっかけで白羽に牙を剥くだろう。

「……それでも、いいよ」

 視界が、揺れた。

 妹のよう、とはいうが、白羽も何も知らない子供ではない。同じ布団で寝る、という事が文字通りの意味でない事くらい理解している。

 ここが、分水嶺。

 ここでどのような選択をするかが、きっと今後の俺達の関係性に大きく影響してくる。

 そして、その選択を下すには、まずは白羽の考えを読み取らなくてはならない。

「怖いんだな」

 聞くべきではなかったのかもしれない。

 しかし俺は聞き、白羽は頷いた。

「……ぅっ、んっ」

 堰を切ったように、声を殺して涙を流し始める。

 ずっと、気を張り詰めていたのだ。悪い予想を思い浮かべないように、彼方のいない家の中から目を逸らすように。

 それが緩んでしまった。見抜かれ、顕になった弱さは、自制ではすでに歯止めが効かない。涙が枯れるその時まで、赤子のように感情に任せるしかない。

 抱きしめたい、と思った。

 きっと、白羽もそれを望んでいた。

「わかった、一緒に寝よう」

 それでも、俺はただ白羽と同じ部屋で寝る事だけを選んだ。

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