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終末的日常論  作者: 杉下 徹
一章  黒
14/54

1-13

俺が彼方を初めて特別に意識したのは、中学の二年になってからだった。

 正確には、その以前から存在は知っていた。一年、二年と同じクラスだったのだからそれも当たり前で、会話を交わす事もそう珍しくはないくらいの仲ではあったのだ。

 その上、中学の一年も半分が過ぎる頃には、彼方の優秀さは嫌でも目についた。定期テストで学年一位、体育の授業程度でも明らかな運動能力の高さ、一目見ればわかる端正な顔立ちと、俺の知る彼方は最初から出来のいい人間だった。

 だが、それでも、俺の中では彼方は特別ではなかった。特別でないという事は、つまり俺にとっては見下していたという事ですらある。

「志保、あのね……良ければ、今日も泊まってかない?」

 俺の隣、見上げてくる白羽の視線には、捨て猫のような心細さが浮かんでおり、それが白羽に最初に出会った時、俺が彼方に敵わないと気付き始めた時の事を思い起こさせた。

「夕食を奢ってくれるなら、喜んで」 

 今更、あの頃に負い目を感じているというわけでもないが、白羽の頼みを断ろうとは思えない。俺に損がないのであれば、それは絶対に近かった。

「もちろん! 腕によりをかけて作るよっ、何がいい?」

「なんだ、白羽が作るのか」

「えっ……外で食べる方が良かった? 私は、それでもいいけど。うん、いいけど……」

 料理についてなんて些細な事であっても、やはり白羽の悲しむ顔を見るのは辛い。

「冗談だよ、せっかくだから白羽の料理の方がいい」

「なんだ、冗談かぁ……もうっ、意地悪しないでよっ」

 だが、所詮は会話の中の事、すぐに頬を膨らませて喰って掛かって来る。このくらいの気力があるのなら、まだ大丈夫だろう。

「それで、何を作るんだ? 買い物が必要なら、荷物持ちくらいならするけど」

 可乃や遥香の都合で、今日は早い時間に解散していたため、夕食までの時間は余るほどある。食材の買い出しを済ませてしまうのにはちょうど良い。

「ひ・み・つ、です。夜ご飯を楽しみにしてるといいよ、二度と私の料理を舐めたような事を言えなくしてあげるから!」

「だから冗談だと」

「料理と体重の話は、女の子にとっては冗談じゃ済まないんだよ!」

 ほとんど無い迫力を振り絞って凄んで見せた後、白羽は鞄から鍵を取り出してこちらに放った。小さな放物線の頂点近くで、それを危なげなく掴み取る。

「と言う事で、先に帰ってて。私は食材から選んでくから」

「じゃあ、そうさせてもらうか」

 俺としても、進んで荷物持ちをするほどフェミニストではない。白羽が一人で買い物をしたいと言うなら、それに反対する理由は何も無かった。

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