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終末的日常論  作者: 杉下 徹
一章  黒
13/54

1-12

「あっ、先輩!」

 購買で昼食のパンを買い、溜まり場の旧応接室に顔を出すと、遥香の声に出迎えられた。

「遥香だけ、か。白羽は?」

 白羽と同じクラスの遥香に聞いてみるも、首を横に振って返される。

「白羽ちゃんは、眠いって言って机に突っ伏して寝てましたよ」

「眠い、か。それなら、俺のせいかもな」

「……ついにやっちゃいましたか。傷心の白羽ちゃんに付け込んで、ずっぽりと」

「ああ、ずっぽりと夜更かしして一緒にゲームしてた」

 遥香の妙なハンドジェスチャーに、こちらもコントローラーを握るジェスチャーで返す。

「なんだ、ゲームですか。でも、一緒にって事は、お泊まりはしたって事ですよね?」

「白羽に誘われて、な。一人だと心細かったんだろ」

「誘われて手を出さないなんて、先輩は紳士ですねぇ、けっ」

「誘われる度に手を出してたら、俺なんかは身が持たないな」

 軽口を叩き合いながら、互いに昼食に手を付けていく。

 基本的に、ここに集まる俺を含めた五人は、それぞれが一対一でも十分に仲が良い。唯一人、高校からの新参である遥香もそれは同じで、明るく人懐っこい遥香とは、口数だけで言えば最も多く交わし合うくらいだった。

「今日は、可乃もいないんだな」

「む、私と二人っきりは不満ですか?」

「不満かどうかで言うなら、可乃がいたところで特に満足感はないな」

「まぁ、可乃先輩は肉付きが貧相ですからねぇ」

 哀れみの声を零す遥香も、決して豊満な体をしているわけではない。むしろ、白羽、可乃と比べても最も発育がよろしくないのが遥香であり、つまるところ先の発言は陰口を装った自虐だった。

「あはははっ、ははっ、はっ……」

 明るかった笑い声も、途中から段々と卑屈になっていく。

「遥香は、普段通りなんだな」

「なんですか、普段通り面白みの無い身体だとでも言いたいんですか?」

「いや、彼方が心配じゃないのかと思っただけだ」

 俺の言葉を受けても、遥香の表情にほとんど変化は無い。

「そうですね。私は、彼方さんの事を信じてますから」

 恥ずかしさも、迷いすら無い即答。

 以前からの付き合いの俺、彼方、白羽、可乃の中で、最初に遥香と出会い、そして俺達と引き合わせたのは、他でもない彼方だった。だから、俺は二人の関係の全てを知っているわけではない。ただ、遥香が彼方に対して強い信頼と特別な感情を抱いている事は、こうして口にされずとも何となく感じていた。

「先輩だって、そうなんじゃないんですか?」

「そう、なのかもな」

 そんな遥香の問いに対して、断言できない自分がどこか可笑しく思えた。

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