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「あっ、先輩!」
購買で昼食のパンを買い、溜まり場の旧応接室に顔を出すと、遥香の声に出迎えられた。
「遥香だけ、か。白羽は?」
白羽と同じクラスの遥香に聞いてみるも、首を横に振って返される。
「白羽ちゃんは、眠いって言って机に突っ伏して寝てましたよ」
「眠い、か。それなら、俺のせいかもな」
「……ついにやっちゃいましたか。傷心の白羽ちゃんに付け込んで、ずっぽりと」
「ああ、ずっぽりと夜更かしして一緒にゲームしてた」
遥香の妙なハンドジェスチャーに、こちらもコントローラーを握るジェスチャーで返す。
「なんだ、ゲームですか。でも、一緒にって事は、お泊まりはしたって事ですよね?」
「白羽に誘われて、な。一人だと心細かったんだろ」
「誘われて手を出さないなんて、先輩は紳士ですねぇ、けっ」
「誘われる度に手を出してたら、俺なんかは身が持たないな」
軽口を叩き合いながら、互いに昼食に手を付けていく。
基本的に、ここに集まる俺を含めた五人は、それぞれが一対一でも十分に仲が良い。唯一人、高校からの新参である遥香もそれは同じで、明るく人懐っこい遥香とは、口数だけで言えば最も多く交わし合うくらいだった。
「今日は、可乃もいないんだな」
「む、私と二人っきりは不満ですか?」
「不満かどうかで言うなら、可乃がいたところで特に満足感はないな」
「まぁ、可乃先輩は肉付きが貧相ですからねぇ」
哀れみの声を零す遥香も、決して豊満な体をしているわけではない。むしろ、白羽、可乃と比べても最も発育がよろしくないのが遥香であり、つまるところ先の発言は陰口を装った自虐だった。
「あはははっ、ははっ、はっ……」
明るかった笑い声も、途中から段々と卑屈になっていく。
「遥香は、普段通りなんだな」
「なんですか、普段通り面白みの無い身体だとでも言いたいんですか?」
「いや、彼方が心配じゃないのかと思っただけだ」
俺の言葉を受けても、遥香の表情にほとんど変化は無い。
「そうですね。私は、彼方さんの事を信じてますから」
恥ずかしさも、迷いすら無い即答。
以前からの付き合いの俺、彼方、白羽、可乃の中で、最初に遥香と出会い、そして俺達と引き合わせたのは、他でもない彼方だった。だから、俺は二人の関係の全てを知っているわけではない。ただ、遥香が彼方に対して強い信頼と特別な感情を抱いている事は、こうして口にされずとも何となく感じていた。
「先輩だって、そうなんじゃないんですか?」
「そう、なのかもな」
そんな遥香の問いに対して、断言できない自分がどこか可笑しく思えた。