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終末的日常論  作者: 杉下 徹
一章  黒
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1-10

「こうやって、一緒に学校行くのも久しぶりだね」

 学校へと向かう道、どこか浮かれたような白羽と肩を並べて歩くのは、たしかに随分久しぶりに感じる。

「そうだな、中学の頃以来か」

 正確には、俺と白羽の二人で登校した事はほとんど無い。

 白羽が高校に入った時、すでに俺は律儀に始業時間を守ってはいなかった。そして、それ以前、中学時代に遡ると、白羽と俺に加えて、隣にはいつも彼方がいたから。

「やっぱり、志保はこれから屋上で寝るの?」

「ああ、そうだな。正直、今もかなり眠い」

「徹夜なんかするからだよ、もう」

 わざとらしく欠伸など出るわけでもないが、昨日の夕方から一睡もしていない為、普通に瞼が重い。いつもの事と言えばその通りであり、それほど辛くも無いのだが、白羽には徹夜というものが余程衝撃だったらしく、しきりに俺の顔色を伺ってくる。

「……お兄ちゃん、どうしてるかな」

 ふと、力無い呟きが聞こえた。

「彼方なら、大丈夫だろ」

 反射的に口をついた慰めは、自分でも呆れるほどに無意味だった。

 いくら取り繕ってみても、彼方の行方が不明である現状は変わらない。笑い話にでも持ち込んでしまった方がいいのだろうが、こんな時に限って気の利いた冗句は出て来ない。

「そうだよね、うん……ごめんね」

 失言を悔やむような謝罪に、曖昧な笑みで返す。

 彼方の不在は、その消失と等号で結ばれるわけではない。俺の中では、彼方が【無】に呑み込まれた可能性など、せいぜい一割程度だろうと雑な見立てをしているくらいだ。

 だが、この状況がいつまでも続けば、その可能性は、やがて現実と限り無く重なる。そうなった時、それでも彼方の無事を信じ続けられるのか、信じ続けるべきなのか。

「ほら、そろそろ学校だ。せいぜい、授業に集中するんだな」

「どの口がそんな事言うのかなぁ」

 白羽を元気付ける手段が思いつかない俺には、一度距離を置く口実として、白羽が真面目に授業に出ている事がありがたく思えた。

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