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敗者の行く末

 海賊船内へ調査に入るメンバーは一矢、ベティーナ、クレアそしてエイミーだ。


 海賊船の船室は一矢達が乗ってきた船よりも質素で乱雑だった。


 船長室は更に更に乱雑で、食べかけの料理や空いた皿が沢山並んでいる事に驚いた。


「……あまり海に住む魔族は調理しないらしいから。人間の食事が気に入ったのね」


 エイミーが呟いている中、一矢とクレアは料理をつまむ。


「ん~、まあまあかな?」

「ですね~。これじゃあ、わたしの舌は満足させられませんね」


 呑気な一矢達に比べ、ベティーナは真剣な眼差しで料理を眺める。


「まさか……こんな事の為に人間の船を襲っていたのか?」

「あり得るわね、基本的に海の魔族は自分で狩るか奪うかしかないから。自分で作るという発想はないわ」

「野蛮な者達めッ!」


 エイミーとベティーナは言葉を交わしても、決して目を合わそうとしなかった。


 一矢とクレアは二人の間に流れる微妙な空気を感じ取るが、食べる手は止めない。


「チョット、あんた達! いつまで食べてんのよ。次行くわよ、次!」


 エイミーを先頭に、探索は船底部分へと移る。


 そこには奪った金品と三つの檻が並んでいた。


 その中の一つに一人の少女が入れられていた。


「な、何よあんた達?」


 少女は怯えた目を一矢達に向ける。


「ご安心を、我々は警備隊の者です」


「警備隊! ……よ、良かった。海賊達に捕まってたの。早くココから出して」


 エイミーは少女の反応に違和感を感じた。


「直ぐに出して差し上げます。……鍵は何処だろう」


 ベティーナが鍵を探している間、クレアは檻に近付き少々の顔を覗き込む。


「あれ~? ……あなたマリーでしょ?」

「あっ、あんたッ! クレアじゃない! 何でこんなとこに居るのよ?」

「いや~、成り行きですかね~」


 何故か照れ臭そうなクレアに一矢が問いかける。


「何々? 知り合いなの?」

「はい、魔法学校小等部からの幼馴染みなんです」


 クレアは腕を組んで昔を思い出す。


「いや~、懐かしいですね。火の魔法で頭チリチリにさせちゃったり、爆発魔法でパンツ丸出しのまま気絶させちゃったり。楽しかったね!」

「やめてーーーッ! あんたが絡むとろくな事無いわ! 今日の魔法もあんたでしょ! あんたのせいで私はこんな所に入れられたんだからね!」


 それを聞いてベティーナは手を止める。丁度檻の鍵を見付けたところだった。


「……それはどういう事だ?」


 マリーはしまったという顔をした。


「そう言えばマリーは防御魔法を専攻してましたね。……ああっ! 今日の防御魔法はあんたね! あんたさえ居なければこんな船、海のもずくにしてやったのに!」

「藻屑ね」


 エイミーは冷静につっこむ。


「……そうよ、……あたしよ! あんたにイジメられて防御魔法を専攻したわよ! それでも結局防ぎきれなかったわよ! 学生時代も今もずっとずっと! この疫病神!」


「海賊行為に荷担したものは罪に問われるのを知ってるな」


 ベティーナが静かに言うとマリーはそれ以上何も言えなかった。


 檻の鍵はそのままに、一矢達は海賊船を後にした。






 海賊達に話を聞くと、この海賊船は元々人間達だけだったらしい。


 客船を襲った海賊が乗客を面白半分で海に突き落としていると、そこにあの船長が現れた。


 船長の言い分は海面を通り過ぎるだけならまだしも、自分の縄張りに下らないものを投げ入れられて頭にきたらしい。


 そこで人間の食い物を見付けた船長が味を気に入り、海賊船ごと乗っとり、逆らう者は客船と共に沈めた。


 半魚人を呼び、人間達に船を操舵させ、他の船から食い物と戦闘員を補充しながら海賊行為を続けた。


 ちなみに、船底に有った金品は人間達がいつかの退職金替わりにと溜め込んでいたらしい。






 ベティーナは取り調べを終えると海賊達を檻に入れた。

 折角なので海賊船内の檻も使わせてもらう。


 そしてベティーナはこれからの行き先について悩んだ。


『港町に戻るか、このまま海を渡るか』


 ベティーナが自分達の船に戻ると、何やら隊員と一矢が揉めていた。

 エイミーとクレアは少し離れて様子を見ている。


「どうしたんだ?」


 ベティーナが隊員達に声をかける。


「隊長! 我々が魔族を始末しようとするのを邪魔するのです!」


 隊員達は縛りあげている船長を蹴った。


「別に殺す必要は無いだろう!」

「じゃあどうすれと言うんだ? 逃がせって言うのか?」

「他の奴等と一緒に牢屋へ入れれば良い」


 一矢がそう言うと隊員達は笑った。


「人間と魔族を一緒に入れたら、港につく頃には魔族だけになってるぞ!」


 エイミーはそんな警備隊員に軽蔑の眼差しを向ける。


「……魔族は人間なんか喰わないわよ。そんな事も知らないの?」


 エイミーの言葉に警備隊員は笑うのをやめる。


「コイツ等は魔族だぞ! 魔族はその場で始末するのが決まりなんだよ!」


 ベティーナが警備隊員と一矢達の間に入る。


「一矢殿の言いたい事は分かります。しかし魔族を捉えて帰っても、他の海賊達と違って裁判も何もありません。……致し方無いのです」


 ベティーナに諭されても納得していないのは、一矢の表情からも明らかだった。


 警備隊員達はベティーナに指示を待つ。


 だがベティーナは一矢を気遣い、指示を迷っていた。


「……おい、そこの人間」


 そんな中、声をあげたのは捕らえた船長だった。


「お前は何か勘違いしているな。別に俺達はお前に助けて欲しいとは思ってない」

「別にお前達を助けるとは言ってない! 殺す必要は無いって言ってるだけだ」

「それが勘違いなんだよ。俺達は魔族。弱肉強食の世界で生きている。勝てば殺すし、負ければ死ぬ。それが当然なんだよ」


 船長にそう言われても一矢は引き下がらなかった。


「でもお前は人間を全員殺したわけじゃ無いだろ? 仲間にしてんじゃないか!」

「ふん、弱者が強者に従うのは当然だ」

「だったら俺に従え! 俺に負けたんだから良いだろ?」


 一矢の言葉に船長は笑った。


「馬鹿が。仲間が居なければ勝てなかったくせによ。そんな奴にに従うつもりはない」

「何だよ! 屁理屈ばかり言いやがって! そんなにお前等は殺し合いがしたいのか?」


「もう良いでしょ!」


 一矢を止めたのはエイミーだった。


「魔族には魔族の考えがあって、信念もある。それが人間と合わないから戦争をしてるのよ。お互いが正しいと思うから。だからココは彼の思うようにさせてあげて!」


 一矢は何も言わずに拳を握る。


「そっちの姉ちゃんは分かってんな。そう言う事だ、坊や」


 笑う船長を尻目に、一矢は船内へと帰っていく。エイミーとクレアも後に続いた。


 一矢達が船内に戻るのを確認するとベティーナは隊員達に頷ずく。

 それを見て隊員達は剣を振り上げた。

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