表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/35

ナンバーワンは誰?

 ベティーナは斧を持った半魚人を一体と、剣を持った半魚人二体に囲まれていた。


 斧使いの攻撃をかわし足を払い、剣使いの連続攻撃も払いのける。


 途中、起き上がろうとする斧使いの顔面に一撃を入れるのも忘れない。


 斧使いは倒れたまま、ベティーナの背に斧を投げ付けた。


 ベティーナはバランスを崩しながらもなんとかかわす。だがそこに剣使いが飛び掛かってきた。


 避けられないと悟ったベティーナは半魚人を渾身の力で貫く。


 しかし貫きすぎてしまった。


 魔族の体がそのままベティーナに覆い被さってきた。


「しまった!」


 ベティーナは必死で魔族をどけようとする。だが半魚人はベティーナの倍近くもあり、ビクともしなかった。


 そこへ残った剣使いがベティーナに向かって剣を振り上げる。


『殺られる!』


 ベティーナがそう思った瞬間、その剣使いは視界から消えた。


 気が付けば剣使いは海賊船まで吹き飛び、マストに激突していた。


「ベティ! 助けに来たぞ!」


 ベティーナの前に一矢が満面の笑みで立っていた。


「一矢殿! 助かりました!」


 一矢が半魚人の体を持上げてやると、ベティーナは体を引き抜いた。


「私は大丈夫です。隊員達の援護をお願いします!」

「えぇ~。もっと『私の背中を貴方に預けます』的なのやりたかったのに」

「一矢殿、皆大事な部下達なんです。……守って頂けますか?」


 一矢のニヤケ顔はベティーナの真剣な眼差しの前に消え去った。


「……分かった。ベティの大事なもの、俺が守ってやるぜ!」


 一矢とベティーナで手分けして半魚人を相手取り、その数を減らしていく。






 警備隊達が押し始めると、海賊達の統率が乱れてきた。

 どうやら魔族が人間達を従わせているようだ。


「ひぃ~~ッ! た、助けて!」

「や、やっぱり警備隊には敵わねぇ……。逃げろーー!」

「人間共! 逃げるなッ! 戦え!」


 半魚人の制止を無視し、人間の海賊達は自分の船へと逃げ帰ろうとする。

 だが人間達は海賊船に乗り込む前に立ち止まった。いや、凍り付いた。


 その表情に浮かぶのは間違いなく恐怖。


 一矢が海賊船の方を見ると、船の縁に一回り大きな魔族が座っていた。


「お前等人間共に逃げ場などない。……この海ではな」

「せっ、船長!」


 船長と呼ばれた半魚人は他の半魚人と違い、滑らかな肌をしている。

 黒い小さな目、大きく避けた口。黒い肌で頬と口から胸元まで広がる白い模様。


 他の半魚人が魚と人なら、この船長はシャチと人の半魚人だろう。


 船長は武器を持って立ち上がる。長い柄に斧の様な刃を持つハルバードだ。


 船長はその一振りで、逃げようとした海賊達を海まで吹き飛ばした。


 動揺する警備隊達を船長は見定める。そしてベティーナの所で視線を止めた。


「今の内に言っておく。俺の部下になれば、命だけは助けてやるぞ」

「き、貴様ッ! 我等警備隊をなめるなよ!」


 ベティーナは怒鳴ると一気に間合いをつめる。


 船長がハルバードを振り下ろした。その動きは体に似合わず素早い。


 ベティーナが船長の一撃をかわすとハルバードは甲板に深々と突き刺さった。


 その隙にベティーナは槍を繰り出す。


 だが船長は甲板の板ごとハルバードを引き抜くと、そのままベティーナを攻撃した。

 ベティーナは槍で防ぐがそのまま吹き飛ばされ、壁に激突した。


「てめえッ!」


 すかさず一矢も船長の懐へと飛び込み、左脇腹を狙った。


「ほう!」


 一矢のスピードに驚きつつも、船長は斧刃の側面で一矢の拳を防いだ。


「ウオオオオッ!」


 一矢はそのまま拳を振り抜き、船長の体を二メートル程吹き飛ばした。

 だが着地した船長にダメージは無いようだ。


 ひしゃげた斧刃を見て船長は驚いた声をあげる。


「お前、本当に人間か? ……フフッ、おもしれぇ」


 起き上がったベティーナが仕掛ける。振り降ろされた槍を船長はハルバードで受ける。その隙にベティーナは柄の部分で船長の足を狙う。


 だが船長の丸太のような脚はビクともせず、逆にベティーナの腕を痺れさせた。


 一矢が殴りかかると船長は飛び退いた。その時にベティーナは船長の脚を切りつけるがその傷は浅い。


 一矢とベティーナの二人を前にしても、船長は笑っている。


「良いぞお前等! もっとだッ! もっと楽しませろ!」


 先ずは一矢が行く。船長が振り回すハルバードを高々と飛び越えた。


 船長が上に気を取られた瞬間を狙い、ベティーナは下から槍で突き上げようとする。


 船長は斧刃で槍を受け止め、反対側で一矢を叩き落とそうとした。


 一矢はハルバードの柄を殴り、跳ね返すがハルバードを回転させただけだった。

 今度は斧刃の方が一矢を襲う。


「危ない!」


 ベティーナが斧刃を弾き、斧刃は一矢の目の前を通り過ぎていいった。


 船長はベティーナを柄の先端で突飛ばし、一矢にその大きな口で噛み付こうとする。


 一矢は船長の肩を蹴り、すんでの所で身をひるがえした。


「あっぶね~! こいつ違うぞ。他の魔族なんかとパワーもスピードも」

「一矢殿、気を付けて下さい。……私が何とか隙を作ります!」


 今度はベティーナが前に出る。ベティーナの連続攻撃を船長は全て払い除ける。


 一矢が船長の横に回り込もうとする。

 それに気付いた船長は一矢の方へベティーナを蹴り飛ばした。


「ベティ!」


 一矢はベティーナを受け止める。


「か、一矢殿。申し訳無い……」


 船長はハルバードを担ぎ、余裕の笑みを浮かべる。


「おいおい、そんなモンなのか? どうする? もう二人だけじゃ役者不足なんじゃねえか?」


 その時、船上に叫び声が響いた。


「どいて下さい!」


 一矢が振り向くとクレアが両手を向けて立っていた。

 一矢は急いでベティーナを抱えたまま飛び退く。


「アイアムナンバーワーーンッ!」


 そう叫ぶとクレアの両手から白い光が走った。


「ぐっ! こ、コレは……」


 船長はそう言ったきり、その辺一帯ごと凍り付いた。


 他の半魚人も隊員も驚いて手を止める。


「やったーッ! どうですか? わたしの魔法は火と爆発だけじゃないんですよ!」

「ひゃ~、凄いじゃん! なんだよ~。そんな事出来るんなら先に言えよ~」

「いや~。氷の魔法ってちょっと地味じゃないですか? わたし、そういうの好きじゃないんで忘れてました! テヘッ」


 クレアはチラリと舌を出した。


「一矢殿! あっ、あれを!」


 ベティーナの声に一矢は振り返った。


 ビキッ!


 不吉な音と共に、船長を覆っている氷に亀裂が走る。


 メキッ!


 船長の右腕が動き、氷の一部が落ちた。


「うそっ!」


 驚くクレアを氷の中の船長が睨んだ。


 一矢はすかさず船長の前に走り込む。


「俺に任せろ!」


 一矢は腕を大きく引き絞る。


「スーパーミラクルデンジャラスハイパー……え~と」


 一矢はそのままの体勢でブツブツ呟く。


「な、何してんのよ!」

「いや、折角だから技の名前をチョット……」


 驚くエイミーに一矢は笑って答える。


 バキキッ!


 更に氷が割れ落ち、船長は右肘辺りまで動かせるようになった。


「何でも良いから早くヤっちゃいなさい!」

「……スペシャル……え~、コークスクリューパンーーチ!」


 一矢が拳を捻りながら放つと、大きな音と共に氷を砕き、船長を吹き飛ばした。


 船長は一矢達の船の縁へぶつかりバウンドすると、海賊船のメインマストへぶつかった。


 船長は倒れたまま動かないのを見て、ベティーナは槍を掲げる。


「船長は倒したッ! 海賊共は抵抗を止めよ!」


 ベティーナの宣言に、人間の海賊達は武器を捨て、半魚人達は海中へと逃げていった。


 警備隊の被害は少なくなかったが、それでも隊員達は勝どきをあげ、勝利の余韻に浸った。


 そんな中、ベティーナは一矢に声をかける。


「一矢殿、本当にありがとうございました。私はこれから奴等の海賊船内も調査調査しなければなりません」

「戦いが終わったばかりだって言うのに大変だな」

「まだ海賊が船内に潜んでいないとは限りませんから。そこでもし良ければ一矢殿にも一緒に来ては頂けませんか?」

「勿論さ! 俺とベティは死闘をくぐり抜けた仲だからね!」


 そこで一矢は思い付く。


「そうだ! クレアとエイミーも連れて行こう! アイツ等も居た方が心強いだろ? 俺、呼んでくるから!」


 一矢はベティーナの返事を待たずに駆け出す。


「あっ……」


 ベティーナは一矢の背中を複雑な想いで見送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ