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俺が戦争を終わらせる

「待て、落ち着け! 誤解だって!」


 一矢がエイミーとベティーナの間に割って入る。


「問答無用! 貴方も魔族の仲間なのでしょう?」

「確かにエイミーは仲間だ。だが魔族も人間も関係無い! それに魔族達を逃がしたのは俺達じゃないんだ」

「嘘をつくな! なら何故ココに魔族が居るんです?」

「俺達もサーカスの騒ぎを聞き付けてスージーを探しに行ったんだ。ベティも自分で言ったじゃないか? ワーウルフが魔族を逃がしたって」

「そんなの信じると思うか? 流石のワーウルフも鉄格子を曲げられるわけがない!」

「それは俺達にだって無理だろ? 人間と女の子の魔族だぞ?」


 ベティーナは一矢を睨む。


「一矢殿なら出来るかもしれない。貴方のとてつもない力は私も目の当たりしているからな。……それに貴方、本当に人間なのか?」

「俺は人間だよ、間違いなく。だからエイミーも俺を頼ったんだ。魔族だけじゃ探せない所もあるだろ?」


 ベティーナは疑っているものの、剣からは手を離す。


「それに木は倒せても鉄はどう考えても無理だろ?」

「……ならばクレア殿の魔法ならどうです? あの威力なら鉄も破壊出来る筈です」

「そんなの中の魔族が無事じゃないだろ? 間違いなくワーウルフが鍵を開けたんだろ?」

「……捕まえた魔族はそう言ってました。鍵束にも爪跡が残ってます。……では、あの女性はどうなんですか? 彼女も魔族じゃないのですか?」

「彼女は人間だよ。昨日サーカスでナンパしたんだ」

「えっ? ほっ、本当ですか?」


 驚くベティーナにワーウルフは宿屋の壁に寄りかかり、妖艶に笑った。


「えぇ、彼ったらスッゴい情熱的なんだから」

「ま、まさか……。いや、でしたら彼女の名前とかもお分かりなんですよね?」

「えっ? 名前? あぁ、名前ねぇ……」


『そう言えば名前を聞くのを忘れていた。どうする?』


 一矢が言葉に詰まっているとワーウルフが近付いてくる。そして一矢を後ろから抱きしめた。


「ふふっ、名前なんか知らなくてもヤる事はヤれるのよ」


 ワーウルフはそのまま一矢の頬にキスをした。

 それを見て、ベティーナとエイミーは開いた口が塞がらなかった。


「えーーッ! ヤる事って、何ヤったんですか?」


 クレアは目を輝かせて聞いてくる。


「子供はダ・メ」

「キャーッ! 一矢さんのエッチ!」


 ベティーナは再度剣に手をかける。


「は、破廉恥な!」

「待った! そこは怒るとこじゃないでしょ?」


「やっぱり女の敵ね」

「ちょっと? エイミーは味方してくれよ!」


『お前は俺の潔白知ってんじゃん!』


「それより私も途中まで一緒に行くんだから、早く行かせてちょうだい」


 一矢の肩にもたれながらワーウルフが言った。


「えっ? 貴女も行くんですか? だって二人は魔族ですよ?」

「あら、二人とも子供じゃない? 人間の男と旅するよりマシよ」


 ワーウルフはエイミーとスージーに笑いかけて言った。


「しかし、魔族のスパイかもしれない!」


「だから私は妹を探しに来ただけなんだって! あんた達が魔族を連れたサーカスが居るって言うから、危険をおかしてこんな街に来ただけだし。そもそもサーカスの奴等が魔族を見世物にしたからこんな事になったんじゃない! 全ての原因は人間側でしょ!」


 エイミーは怒りに任せて怒鳴り散らす。ベティーナもエイミーを睨み返す。


「魔族と人間は戦争中、敵だ! それを目の前にしてみすみす見逃すなど……。私は警備隊隊長だぞ?」

「今はサーカスの件が最優先じゃないのか? 逃げた他の魔族はどうなってるんだ?」


 一矢の言葉にベティーナは迷う。


「確かに、まだ全てを捕まえたわけではないです。特に一番危険視しているワーウルフがまだ見付かっていません」

「だったらそっちを優先したら? それともこの子やエイミーがワーウルフより危険そうに見える?」

「……分かりました。今は見逃します。さっさと行って下さい!」

「じゃあ二人共、馬車に乗って。……行くわよ」


 エイミーはベティーナに背を向け、馬車に乗り込もうとする。


「待った!」


 それを止めたのは、一矢だった。


「何ッ? 隊長さんの気が変わらない内に行きたいんだけど」


 エイミーは少しうんざり気味に答えた。


「帰るのはスージーとそっちのお姉さんだけにしてエイミーは残ってくれないか?」

「はあ? 何言ってんの。あんたとは妹を見付けるまでって約束でしょ?」


 振り返ったエイミーの顔に、また怒りの兆しが見えた。


「気が変わったんだ」

「ふざけないで!」

「俺が戦争を終わらせる!」

「……はぁ?」


 その場に居る全員が一矢の言葉を理解出来なかった。


「俺が人間と魔族の戦争を終わらせる! だからエイミーにも一緒に来て欲しいんだ」

「変態からバカになったの? あたしには関係無いじゃない! あんた達でやれば良いでしょ?」

「人間と魔族が戦争してるのに人間だけじゃ止められないだろ? どうしても魔族の協力が必要なんだ」


 エイミーは一瞬考える。戦争云々よりも今はスージーと離れたくなかった。


「でも、あたしじゃなくても良いでしょ? 他の魔族にしてよ」

「俺はお前を信頼してる。たから俺はお前に来て欲しいんだ」

「キャー! 大胆!」


 クレアは一矢の言葉に見悶える。


「うるさい! 悪いけどあたしはスージーを無事に送り届けたいの」

「そこはお姉さんに任せよう。 なっ? 馬車は貸すからスージーを送り届けてから村に帰るんでも良いだろ?」

「えぇ、それは任せてもらって良いけど」


 一矢の話についていけないが、それでもワーウルフは承諾した。


「チョット待って! あたしはまだ一緒に行くとは行ってないからね!」

「お姉ちゃん、私の事は気にしないで。それに戦争が終わればみんな仲良く出来るんでしょ?」


 エイミーはつい、スージーに対しても言葉が強くなる。


「そんな簡単に終わるわけないでしょ! 人間と魔族が出会った時から始まったと言われる戦争よ? そんな戦争どうやって止めるの!」

「まずは人間の一番偉い奴に会う」


 一矢の発言にその場の全員が驚いた。


「お待ち下さい! ……それは魔族を連れて王に謁見すると言う事ですか?」


 ベティーナの言い方に棘を感じるが、エイミーも一矢の意見には反対だった。


「それじゃあ、私を王都に連れてくつもり? そんなの危険過ぎるわよ!」


 王都は当然警備も厳しく、バレればその場で殺されても文句は言えない。


「大丈夫だ、俺がお前を守る!」

「キャーッ! 愛ですね、愛!」


 一矢の言葉に喜ぶのはクレアだけだった。


「魔族の『使者』が居ないとそれこそ只のバカ、下らん妄想野郎で終わっちまうだろ? だからエイミーがどうしても必要なんだ」


『只のバカで変態の癖に、それなりに考えてはいるのね』


 エイミーは悩んでスージーの方を見る。折角会えて、これから一緒に過ごせるのに。


 でもそれは人間にハーピーの村が見付からなければの話。

 村の近くにも、越冬地にもすぐそこまで人間の影が近付いているのはエイミーだって知っている。


「お姉ちゃん、私は危険な事をしないで欲しいけど……私、お姉ちゃんを信じてる!」

「スージー……」


『もし戦争が続けば人間の影に怯えて暮らす事になる。だが、もし戦争が終われば……』


「分かったわよ、もう少しだけ付き合ってあげる」

「キャーッ! お付き合いですね! 交際スタートですね!」


 クレアは飛び上がって喜んだ。


「バカッ! そういう意味じゃないわよ! あんた今までの話聞いてなかったの? 誰がこんなバカで変態で……」

「私は反対だ!」


 今度はベティーナが割って入ってくる。


「キャーッ! 恋のライバル登場ですね!」

「ちっ、違います! そこではなく、私は魔族を王都に入れる事自体に反対なんです!」


 ベティーナは赤くなって否定する。


「……確かに一矢殿の考えは立派です。しかし王都は国の要。警備隊隊長としては賛成しかねます」

「なら一緒に来れば良い」


 一矢は当然のように答えた。


「一緒に来てエイミーを見張ってれば良いよ」


 一矢はニッコリと笑ってベティーナにそう言った。


 そんな馬鹿な、と言う言葉はベティーナの喉元で止まった。

 確かに自分で見張れば、何かあれっても直ぐに対処出来るし、エイミーがスパイかどうかも分かる。


「取り敢えず、今決めなくても良いよ。どうせ魔族のお陰で船に乗れないんだろ? 船に乗れるようになるまでに決めてくれれば良いから」


 悩むベティーナに一矢は言った。


『ベティならきっと来る! これで俺の嫁二号に決まりだ!』

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