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クレアの過去とは?

 一矢達が食堂で騒いでいるところに、他の警備隊員達も戻ってきた。


「隊長、只今戻りました! ロキズ・エイプは全部で十四匹。……あの数を隊長達だけで撃退されたとは、驚きです」

「全て一矢殿達が力を貸してくれたからです。本当に有難うございました」


 ベティーナは立ち上がると三人に頭を下げた。警備隊員達に向き直る。


「明朝に警備隊支部へと帰還する。それまでゆっくりと英気を養ってくれ」

「はっ! 了解しました。あっ、こちらを森で見付けました。隊長殿の兜です」

「うむ、有難う」


 ベティーナは兜を小脇に抱える。やっとベティーナに風格が戻りつつあった。


「皆さんは今後どうされますか? クレア殿は王宮魔法団に入団するのでしたら道中ご一緒されますか?」

「良いんですか? 行きます行きます!」


 クレアは喜んで立ち上がる。そんなクレアにベティーナは優しく微笑み答える。


「では明朝十時にココに居てください。……出来れば食事は済ませておいて下さいね。一矢殿達は如何ですか?」

「もちろん行きま~す」


 喜んで返事をする一矢をエイミーは遮る。


「チョット待って! あの、私達はある魔族を探してまして……」


 警備隊の主任務は魔族退治だ。エイミーの妹、スージーだってそれは分かっている。

 ならば警備隊と一緒では向こうから近付いてくる事は無いし、見付けたとしても面倒な事になりそうだ。


「そうそう、エイミーの妹を……」


 エイミーは慌てて一矢の口を押さえる。


「ち、違うんです! 妹の……妹の形見を持っている魔族を探してるんです」

「そうでしたか! しかしこの辺では他に魔族の目撃情報は聞かないですね。……そう言えば警備隊本部が港町にあるんですが、そこに来ているサーカス団で魔族を見世物にしていると聞いた事があります」


「何ですって! そ、そこにハーピーは居ますか?」


 エイミーが勢い良く身を乗り出す。 ベティーナはエイミーの迫力に怯む。


「ちょ、調査前にコチラに来ましたので、私も詳細については……申し訳ありません」

「そう……」


 ベティーナの言葉に肩を落とすエイミー。


「これで目的地は決まったな」


 そう言って一矢が立ち上がる。


「いざ、ハーレムへ!」

「まだ諦めてなかった! そして空気読め!」


 エイミーは一矢の頭を叩く。


「俺なりの元気付けだ。気にすんな」

「え~っ、もしかして私達もハーレムに入ってるんですか?」


 何故かクレアはチョット嬉しそうだ。


「ハーレムとは何処だろうか? 」


 首をかしげるベティーナにクレアが人差し指を立てて説明する。


「場所じゃないんです、一人の男が複数の……」

「そんな事を説明しなくて良いから!」


 クレアの説明をエイミーは遮る。

 そんなやり取りを満足そうに笑う一矢にエイミーイラッとした。


『仕方ない。予定通り港町まで一矢達と一緒に行こう。……疲れそうなメンバーだけど』


 エイミーはそう思い、ため息をついた。





 翌朝、一矢達が食堂へ行くと警備隊の人達とクレアは既に来ていた。


「お二方、お早うございます! 今、クレア殿のお話をお伺いしてたところなんです」


 一矢達は注文を済ませるとベティーナ達のテーブルに座る。


「一矢さんエイミーさん、おはようございます!」


 クレアは山のように積み上げられた食器の間から顔を覗かせる。


「お二人も聞きますか? 聞くも涙、語るも涙の私の苦節十七年間!」


 クレアの笑顔と軽い口調に、苦節感をエイミーは感じられなかった。それでもこのトラブルメーカーの人生、少なからず興味が湧く。


「この町から北にある小さな村で私は産まれました。小さい頃から可憐で美しいと評判で、魔術師の両親から魔法の才能も受け継いでいました。私が三才の時に良くパパとグランパの髭や髪の毛を燃やして遊んでたって聞いてます。私は覚えてないんですけどね」

「……子供の時から迷惑かけてたのね」


 エイミーは苦笑いを浮かべる。


「私が六才の頃に有名な魔法学校に入学しまして、更に魔法の才能をメキメキ伸ばせました。成績もずっと一番だったんですから」

「北にある魔法学校と言えばエリートばかり輩出すると言う有名な所では?」

「そうなんです! 私の村も魔術師ばかりなんですよ!」

「へぇ~、スゴいじゃん!」


 一矢とエイミーは運ばれてきた食事を食べながらクレアの話に耳を傾ける。


「でも私が十五才になった時、状況は変わりました。それまでは魔法の知識や歴史、後は生活の役に立つ簡単な魔法がメイン。そして15歳からもっと本格的な魔法の勉強が選べる様になるんです。回復魔法や攻撃魔法、後は魔法薬の作り方とかも」


 エイミーはチョット先が読めた気がする。


「勿論、私は攻撃魔法を選択しました。筆記試験は問題無かったんです。でも実技の方が……」

「なんと、クレア殿ほどの者でもか?」


 ベティーナは驚くが、エイミーは予想の範囲だった。恐らくベティーナが考えてる事とは逆の意味だろう。


「大した事じゃないんですよ! チョットクラスメイトごと燃やしちゃったり、教室ごと凍らせちゃったりしただけなんです」


『やっぱり……』


 項垂れるクレアを見て、エイミーはそう思わずに居られなかった。


「後は、ほんの少し魔法を使いすぎちゃって。それで学校を退学させられちゃです」

「なんと! 魔法を使っただけでですか?」

「そうなんです!」


 ベティーナの相槌に喜ぶクレアだったが、エイミーはすぐに気が付いた。むしろこの場でクレアの話を『言葉通り』受け取っているのはベティーナだけだった。


「……多分『使っただけ』じゃないんでしょ」

「良いじゃないですか! 友達は『おかげで校舎が新しくなった』って言ってたし、大工さんも『仕事が増えた』って言ってくれたんですよ」

「絶対壊してるわよね! 校舎を!」

「へへっ、チョットですよ? チョット。チョットを何回か。それで両親からも魔法禁止されちゃって、仕方なく魔法を独学で学ぶ事にしました。そして色々な書物を読み漁っている時、私はBLに出会いました」


「はい?」


 ついエイミーの口から素っ頓狂な声が出る。


「自分の知らない世界を知った私は、もっと色んな世界を知りたいと思いました! リアルBLも見たかったし、それで王宮魔法団を目指して旅を初めました」


 クレアは立ち上がり、力強く拳を握る。


「絶対王宮魔法団ならBLがいます!」

「勝手な想像でしょ!」


 そこでベティーナが申し訳無さそうに口を挟む。


「申し訳無いがBLとは何でしょう? B……ボール?」

「まぁ、確かにボールを使いますね。しかも二つずつ。大事なゴールデン・ボー……」

「やめてよ! こっちは食事中よ!」


 怒るエイミーに、ゲスな笑顔を浮かべるクレア。ベティーナはそれを不思議そうに眺めていた。


『結局BLとは……』


 咳払いをし、警備隊員がベティーナに近付く。


「……隊長、そろそろ出発の時間です」

「もう少し待ってくれ。私はこういう『があるずとおく』に憧れてたんだ」

「そうなんですか? だったらみんなで俺達の馬車に乗れば良いじゃん! 道中もゆっくり話せるぞ?」


 一矢が笑顔で提案する。だがベティーナの表情は暗い。


「そうしたいが、私にも馬がいる。だから一緒に馬車へは乗れないんだ」

「……隊長、良ければ隊長の馬は私が引きましょうか」

「副隊長! しかし、……良いのか?」


 隊長としての立場と、年頃の女性としての欲求がベティーナの中で争っている。それがベティーナの表情からも伺えた。


「勿論です! ですから隊長は道中『があるずとおく』を楽しんで下さい!」

「隊長、俺達にお任せ下さい! 必ずや隊長の馬は無事にお届け致します!」


 副隊長だけではなく、隊員全員が立ち上がり声をあげる。

 ベティーナの人望の厚さが伺える。


 しかし、高々『があるずとおく』に大袈裟な気がするエイミーだった。

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