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森の中は大混乱

 ベティーナが辺りを見渡すと木の葉と土埃が舞っていた。


 前方の木々は根本から倒れ、爆発の凄まじさを物語っている。

 倒れた木々の隙間から倒れているロキズ・エイプ達が見えた。


 ベティーナはすかさず蔦を振り払い、抜刀した。

 他の隊員達や一矢達も立ち上がる。


 エイプ達も何体かが起き上がると、樹上へと逃げていった。


 一矢達の周りにある木々がガサガサと揺れ続けている。

 どうやらエイプ達はまだ諦めずに一矢達の隙を伺っているようだ。


「全員気を付けろ、襲ってくるぞ!」

「隊長! 奴等来ます!」


 ベティーナと警備隊は一矢達を囲むように円陣を組む。これは日々の訓練の賜物だ。だが、


「何だコイツ等! しつこい奴は嫌われるぞ!」

「あんたは魔法使わずに隠れてなさいよ!」

「いつでも魔法は使えますからね。……もうヤっちゃいます?」


 一矢達の連携はバラバラだった。そもそも先程の爆音で一矢達の耳はバカになっていたのだ。


 互いに連携が取れない中、ロキズ・エイプ達は襲いかかっくる。


 四方八方からロキズ・エイプ達が剣を手に飛び掛かってきた。


 ベティーナは剣を打ち払うと、ロキズ・エイプは強烈な蹴りを繰り出してきた。


 何とか蹴りもかわすが、その隙にロキズ・エイプは木を上っていく。


「逃がすかッ!」


 エイミーは木を登る途中を狙うも、次のロキズ・エイプが飛び掛かってきた。


 他の警備隊員達、そして一矢達も苦戦を強いられていた。


 自分の拳がまたも空を切ったところで、一矢はキレた。


「クソッ、ちょこまかしやがって! もう怒ったッ! もうどうなっても知らんからな!」


 一矢は近くの木に走り寄るとそれを殴った。


 大きな音ともに木が倒れると一緒にロキズ・エイプも落ちてきた。


 一矢は次々と周りの木を殴り折っていく。


 敵も味方も倒れてくる木を交わすのに精一杯だ。


「も、森がッ! バカ、やり過ぎよ!」


 聴力は回復していても、エイミーの声は木の倒れる音や悲鳴、エイプ達の鳴き声によって一矢に届かなかった。


「それじゃあ、私もお手伝いしま~す」


 そう言ってクレアは両手を挙げた。それを見て、エイミーはギョッとした。


「チョット待ったーーッ!」


 エイミーの叫びは本日二回目の爆発音によってかき消された。





 土埃が収まると、一矢達が居た周辺は倒木で溢れかえっているのが見えた。


「ぶはっ、死ぬかと思った」


 一矢は倒木の枝の中から顔を出した。

 エイミーやベティーナ、警備隊員達も顔を出す。

 ベティーナは兜が無く、髪には沢山の枝が絡んでいた。


「キャハハハハッ! 凄かったね!」


 ひょっこりとクレアが笑って顔を出した。


「あんた達! 加減ってもの知らないの!」


 エイミーがどれだけ怒鳴っても再び聴力を失ったクレア達には届かない。


「隊長! 御無事ですか?」


 ブリット・ボア追撃隊がやっと合流するも、彼等の声もベティーナ達には聞こえなかった。


「どうだ猿共! 一矢様の力を思いしったか!」

 見えないロキズ・エイプに向かってガッツポーズをする一矢。


「ロキズ・エイプ達を確認出来るまで気を付けて下さい!」

 フラフラしながらも必死に辺りを警戒するベティーナ。


「わたしマジ凄くないですか? いやぁチョ~気持ち良い!」

「アンタねぇ、待てって言ったでしょ! なに満足そうな顔してんのよ!」

 はしゃぐクレアに、掴みかかるエイミー。


「た、隊長。我々はもう……無理ッス」

 その場に倒れ込む二人の警備隊員。


 そんな混乱を極めた状況にブリット・ボア追撃隊は呆然とするしかなかった。





 聴力が回復するとベティーナはブリット・ボア追撃隊に状況を説明し、後始末を任せ、一矢達は町へと戻った。


 町では町人達が門の有った辺りで付集まり、ベティーナ達を待っていた。


「あぁ、隊長さん! 物凄い音が聞こえましたが何があったんです?」

「……すまん、後にしてくれ」


 ベティーナは体を引きずる様に町人達の横を通りすぎる。

 そのまま一行は食堂へと向かった。


「主人、取り敢えず水をくれ」


 ベティーナは席に着くとそれだけ言った。

 運ばれた水を飲み、ベティーナ達はやっと一息つく。


「いや~、労働後の一杯は美味いな!」


 一矢は場違いな程、陽気な声をあげる。


「私も頭脳派なんで、マジ疲れました~」


 クレアがテーブルに突っ伏す。


「何が頭脳派よ! 考え無しにドッカンドッカン魔法使って。もう少しで木の下敷きになるところだったじゃない」


 エイミーがテーブルを叩く。


「確かに森が滅茶苦茶になってしまった。……魔獣退治の為とは言え、心が痛む」


 ベティーナはため息をついた。


「ベティーナさんは真面目過ぎます! 悪いのは全部コイツ等ですから。コ・イ・ツ・らッ!」


 エイミーは一矢とクレアを交互に指差す。


「そうだぞ、気にするな! 俺は途中からチョット楽しかっし、魔法も見れたしで満足でした!」

「私も思う存分魔法が使えたんで、気分爽快です! 大事なのはソコです!」


 一矢とクレアは輝くほどの笑顔を見せた。


「ソコじゃないわよ! 魔獣退治だから大事なのは! あんた達のストレス発散の為じゃないの! アンタ等なんか森の代わりにストレス溜め込んでハゲれば良いのよ!」

「まぁまぁ、エイミー殿も落ち着いて下さい。無事ロキズ・エイプ達は撃退したのですから」


 怒るエイミーをベティーナは宥める。


「しかしクレア殿の魔法は凄いですね」

「ありがとうございます! 実は王宮魔法団に入ろうと旅をしてたんです」

「おお、そうでしたか! 貴女なら……たぶん……」


 言葉を濁したベティーナは今日の惨状を思い出していた。


「取り敢えず腹減っちゃった。何か食おうぜ」


 一矢の提案にベティーナは身を乗り出す。


「でしたら是非、警備隊におごらせて下さい! 先の村でも助けて頂きましたから。そのお礼も兼ねて!」

「良いの? それは助かるわ」


 エイミーは手を叩いて喜ぶ。


「私も良いんですか? 結構食べますよ?」

「勿論、手加減はしてくれよ」


 ベティーナはクレアに笑いかける。チョットした冗談のつもりだった。





 そして気が付けば、一矢達のテーブルには空いた皿が山のように積まれていた。そのほとんどがクレアの前にある。


「ふぅ、もう食べれない」


 満足そうにお腹をさするクレアを見て、エイミーは立ち上がるとテーブルを叩いた。


「だから手加減してあげてって! アンタどんだけ食べてんのよ!」

「ハハン、エイミーさんは食べた皿の数なんか数えてるんですか?」

「数えてるわよ! って言うか数えてなくても分かるわよ! 一枚よ! 一人分なんだから。ベティーナさんなんかスープしか飲んでないわよ!」

「私は……見てるだけでお腹が」

「わたし、欲望には正直なんで。えへっ」


 笑うクレアを見て、一矢も頷く。


「欲望に正直なのは良い事だぞ」

「あんたも正直だからね!」

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