不安要素がマックス過ぎる
一矢達が町に到着すると門と塀の一部が焼け落ちており、その前で町人達が集まっていた。
「間に合わなかった……のか?」
ベティーナは焼け跡の割に町人達が元気なのを見て、状況が掴めなかった。
そんなベティーナに町人の一人が声をかけてきた。
「隊長さん! 戻って来てくれたんですね! 実はまたロキズ・エイプ達が現れまして……」
「やはり!」
ベティーナが馬を降りると、ベティーナにしがみついたままの一矢も一緒に引きずり落ちた。
「一矢殿ッ? 大丈夫ですか?」
ベティーナは一矢を心配するが、エイミーは一喝する。
「コイツの心配なんかしなくて良いのッ! ほら、さっさと離しなさいよ!」
「もうチョット! あと五分!」
エイミーは一矢の首根っこを掴んでベティーナから引き離す。
ベティーナは苦笑いを浮かべると、改めて町人達に向き直った。
「奴等が火をつけたのですか?」
「いえ、その……火をつけたのは彼女が」
町人が指を指した先には一人の少女がいた。
黒いロングヘアーを二つに分けて、大きめの黒縁眼鏡をかけている。
フリル付きの黒いシャツから覗く胸の谷間に一矢の目が怪しく光った。
人の悪事を取り締まるのも警備隊の仕事。ベティーナは厳しい表情で少女に歩み寄った。
「……これはどういう事ですか?」
「す、すいません! 私が通りかかったら、ちょうど魔獣に襲われてまして。それで、追い払おうと炎の魔法を使ったんです。そしたらチョット……。てへっ」
少女はチラッと舌を出す。
少女の名前はクレア・ベルリオーズ。
少女が町にやって来た時、門は閉まっており、門を乗り越えようとロキズ・エイプが取り付いていた。
そこでクレアが炎の魔法で追い払おうとした。
「いやぁ、もう見た瞬間ビビッと来ました!『ヤっちゃって良いんじゃない? 良し、ヤっちゃおう!』って!」
クレアは恍惚とした表情で語る。
数体のロキズ・エイプを仕留め、残りは逃げて行ったが、クレアの魔法が強力な事と、木製の門に炎の魔法と言うミスマッチが重なり現状に至ったと言う事だ。
エイミーは少女の言動を見て思った。
『この子はトラブルメーカーだ。……関わらない方が良い!』
「すげ~! これ君がやったの?」
だが一矢は積極的に関わりに行った。
「ねぇ、俺にも魔法見せてよ。魔法!」
「えぇ~、見ます? じゃあ何を燃やしましょうか?」
「燃やさないでよッ! 何なのアンタ達? 何か不安要素マックス過ぎるんだけど!」
危険な香りを感じたエイミーは二人の会話に割って入る。
「えぇ~。だって俺、まだ魔法見た事無いんだもん」
「そうなんですか? ぜひぜひ見て下さいよ~!」
『あぁ、類は友を呼ぶのね……』
エイミーは目眩を感じた。
「隊長さん、確かに彼女のお陰で奴等は逃げて行きました。だからあまり責めないであげて下さい」
町人は一応クレアを庇ってくれているらしい。
確かに町人達は無事。町も門と塀以外に被害は無いようだ。
「分かりました。今回の事は不問にしましょう。……しかし追撃隊を出さなくては、またいつ襲ってくるか分からないな」
だが人数が足りない。万が一に備え、門の無くなった町の防衛にも人員が必要だし、ブリット・ボアの追撃部隊はまだ合流出来ていない。
「愛の戦士、一矢にお任せを!」
「はいはい! 私も行きたい」
一矢とクレアが元気よく手を挙げた。
『ヤバいこれ。絶対〈混ぜるな危険!〉の二人だ! 絶対面倒な事になる!』
エイミーは直感した。だが人手が必要だと言うのはエイミーにも分かっている。だから悩んだ。
「二人共、かたじけない」
ベティーナは素直に礼を言う。そしてエイミーの方を見た。
「もし宜しければ貴女の力も貸して頂きたい」
「ダメ。……私にあの二人を止められないわ」
「えっ? あの、……魔獣追撃にご協力頂けないだろうか?」
「あっ、そっち? それは勿論!」
「感謝いたします」
町には二人の隊員を残し、一矢達は森の中へと入っていった。
ブリット・ボア探索時は横一列に並んでいた。だが今回はロキズ・エイプが何処から襲ってきても良いように密集隊型をとる。
先頭にベティーナと一矢、真ん中にエイミーとクレア、その左右に警備隊。全部で六人だ。
森の中を進んでいると急にベティーナは立ち止まった。
「……気を付けろ。気配がするぞ」
一団はその場で警戒体制をとる。
一矢はさりげなくベティーナに擦り寄る。それをベティーナは恐怖からだと勘違いした。
「大丈夫です。一矢殿は私達が責任を持ってお守りしますのでご安心下さい」
「いいえ! 俺はあなたのナイトです! お守りするのは俺の方だ!」
「あぁ、はぁ……」
一矢のどや顔にベティーナは戸惑う。
「あの人、凄いキモい事言ってますよ? そしてドン引きされてます! ヤバいヤバいッ! 魔獣よりあっちの方がヤバい!」
「緊張感! ホント近くに居るわよ!」
自分の袖を引っ張りながら笑うクレアにエイミーは語気を荒げる。
その時、一矢達の頭上を何かが飛んでいった。
石に蔦を縛り付けたような物のようだ。それが縦横無尽に飛び交う。
そしてゆっくりと蔦は降ってくる。自分の肩にかかる蔦を掴んで一矢は首をかしげた。
「何だコレ?」
「しまった。気を付けろ!」
ベティーナは剣に手をかける。エイミーもナイフを取り出そうと、袖に手を入れる。
蔦は一矢達に絡み付くと、近くの木に叩き付けた。ベティーナは木に蔦を縛り付けるロキズ・エイプを見た。
腕が自由に動かせず、エイミーはナイフを抜けない。ベティーナも剣を抜ききる事が出来なかった。
「何だコレ?」
他の隊員も似たような状況だった。
「ヤバ~い。捕まっちゃった~」
そんな中、一矢は喜んでベティーナにすり寄っていた。
エイミーは一矢と一緒に縛られずに良かったと思った。
そんな一矢達の周りにロキズ・エイプ達が姿を現した。
「くそっ! まさかこんな手に引っかかるとは……。クッ!」
ベティーナは何とか剣を引き抜こうと力を込める。だが蔦と一矢が邪魔をして思うようにいかなかった。
ロキズ・エイプ達は喜びの鳴き声をあげて近付いてくる。
ロキズ・エイプ達が身に付けている武具は良く見ると血に汚れている。
エイミーは奴等がどのようにそれらを手に入れたか、何となく予想出来た。同時に奴等が自分達をどうするのかも。
「ふふふっ、ココは私の出番ですね」
エイミーと一緒に絡め取られていたクレアが不適に笑った。
「お前等が所詮モンキーだって事、思い知らせてやります!」
「まさか……。火はやめてよ、火は!」
「任せて下さい! 全員ブッ飛ばしてやります!」
そう言ってクレアは前方のエイプ達に掌を向ける。クレアから光る何かが飛んでいった。
次の瞬間、物凄い爆発が起こった。
ロキズ・エイプだけでなく、その場にいた全員が文字通り吹っ飛んだ。




