生徒会長って、それどこのラスボス?
お久しぶりです!待たせてすいませんでした。
「ただの疲労みたいね。異能の使いすぎではないかしら」
「あ、はい。そうですか」
保健室のベッドに転がり、若干上の空で先生の言葉を聞き流す。
こういうシーンがあると、つい知らない天井だとつぶやきたくなるよな。知らんけど。
にしても、異能ってものはもっと便利だと思っていたのだが、やはり乱用とかはできないみたいだ。体力がなくなって発動できなくってしまうらしい。
「異能を酷使して死んでしまった異能保持者の例もあるから。えっと、『一刀両断』だっけ? まあいいか。とりあえず、異能の行使もほどほどにね」
「マジっすか。気をつけます」
思っていたよりも深刻な状況に、顔をしかめる。知らず知らずのうちに、自分の首を絞めていたという事実に驚愕した。
「うん、そうしてもらいたいかな。ただでさえ君の瞳には生気が宿ってないからね。簡単に死にそうだし」
「生徒に言う言葉じゃねえ。……ほら、あれですよ。光がないだけで、腐っているよかは幾分かマシだと思うんすけどね」
「五十歩百歩だね。魚で言ったら死んでから時間が経ってるか経っててないかじゃない」
……そんなにひどいですか俺の目。初対面の人に言われるとさすがの俺もちょっと傷つく。
というか、俺以外にも異能使えるやついるんだな。俺だけだと思ってたわ。
そんなことを考えると、軽快なノック音が保健室に響く。
「おっじゃまっしまーす!」
「……うるさい黙れしゃべるな頭に響く。あと帰れ」
「やだこの子目を覚まして早々辛辣すぎるッ! 恩人に対して帰れとはなんですか帰れとは」
扉の向こうには、ハイテンションのシュテンバルトがいた。
シュテンバルトが自分を恩人と称したあたり、保健室まで運んでくれたのはきっと彼女なのだろう。
「あ、あと和也さん」
「おうどうした、宮崎でいいぞ」
「苗字で呼ぶのをすすめてどうするんですか……。一応気づいていないみたいなのでいっておきますが私以外にも二人いますからね」
シュテンバルトが自分の背後を振り返ったのでそちらを見てみると、ドアを少しあけ、首だけ出した状態で心配そうにこちらを見つめる二人の人間。女の子と男の娘。
「もうっ、心配したんだからね!」
なにこのかわいい生き物。やばい、新原見てたら目が浄化されそう。なんなら浄化の効能で存在自体消えちゃうレベル。いや、存在自体が負なのかよ、俺。
「結婚したい……」
「え?」
「い、いや! なんでもない」
ついつい鎧の巨人みたいなことを言ってしまった。調査兵団とか働きたくないんでお断りです。憲兵団ならウェルカム。楽して稼げる仕事超欲しい。へローワークとかに載ってないかな。
そんなくだらないことを考えていると、上代がジト目でこちらを見ていた
「……頭、大丈夫?」
「お、おう。熱はもうないみたいだ。上代から話しかけるなんて珍しいな」
「……違うそうじゃない。……働けホモニート」
「え、何でわかったの? エスパー? それともひょっとして俺のこと思考読めるほど好きなの? ……あとな、俺の名誉のために行っておくが、ニートってのは十五歳以上の学業も就職活動もしない奴を指すんだ。だから俺はニートじゃない!」
「ホモは否定しないの!?」
上代とシュテンバルトの目が、軽蔑の目からそれ以上のナニカへと変貌していった。
そして新原は涙目で悲痛に叫ぶ。やだ……ちょっと可愛いかも。
本当に男かよこいつ。いや絶対違う。男とか女とか超越した天使だ。つまり俺はホモじゃない。
そう考えてると、二人の目はゴミを見るような……そんな目でこちらを睨んできた。ポケモンだったら命中率百パーセントの《ぜったいれいど》とか使えそうなくらい、彼女たちの俺を見る目は冷め切っていた。俺死んじゃうのかな。
「すまん冗談だ。……新原がかわいすぎて調子乗っていた」
「え!? み、宮崎くん。はずかしいよ!」
「……うわぁ」
「さすが和也さん。思考そのものが気持ち悪いです。……まあアキバに癒されるというのは同意見ですけど……」
上代は顔を引きつらせ後ずさっており、シュテンバルトは笑顔で俺を貶してきた。
そろそろ涙腺が崩壊してもいい頃だと思う。あ、日常茶飯事か。泣いたって強くなれないのが現実である。なんならキモがられるまである。
「あ、そうそう。和也さん」
「あん?」
「ここの生徒会長って知ってます?」
「生徒会長? ……あぁ、あいつか」
「実はちょっとした知り合いというか幼馴染なんですけど……もしかしてもう会っちゃってたりしますかね?」
「会ったけどなんかあったのか?」
別に隠すことでもないので、戸惑いもなくそう言うとシュテンバルトは顔を青くした。
「な、なにかされませんでしたか」
「なんで動揺しちゃってんのお前。俺ならキモがられているまであるぞ。つか、何もされてねえよ」
「あはは、キモがられちゃうんだ……」
「……これなら当然かも」
新原と上代が何やらコソコソ言っているが、聞こえない。元々俺の体は難聴鈍感唐変木主人公だから断じて聞こえない。ちょっと目頭が熱くなったのは気のせい。
「本当ですか!? 信じてもいいんですよね!?」
コソコソと話している新原たちと対称的に、シュテンバルトは騒々しかった。
人にあったくらいで何故こんなにも動揺されなければならないのだろうか。確かにあれなら心配されるのもわかるんだが……。そう考えていると、隣にいた上代が苦笑いしながら答えてくれた。
「……カルラは生徒会長が苦手。それは私たちも同じ」
「マジか……。まあ、いままでであんな分厚い『仮面』を見たのは一度くらいしかなかったから分かるんだがな」
「……気づいてたの」
「あはは……。というかあれと同じくらいなのが見たことあるんだ」
後ろの方でも、新原が苦笑いをしていた。こいつらでも苦手というくらいなのだから、やはり俺の目に狂いはなかったということだろう。
「で、その生徒会長がどうかしたのか?」
「和也さんに伝言で、一人で生徒会室に来いと……」
「嫌だ」
あの生徒会長だと面倒ごとしか持っていないような気がする。生徒会を手伝わされるとかそんな次元じゃない。平気で人を死地に駆り出してしまいそうだ。まあ、どっちにしろ働きたくないから行かないけど。
「即答ですか……。ダメです」
「……ちなみに聞くが拒否権は?」
「『あるけどこの学校に居られると思わないでね。僕はしないけど、君を狙っている科学者は多いよ。ホルマリン漬けになりたくないのなら、素直にきた方がいいよ』らしいです」
「何それこわい」
どうやら選択が一つしかない選択肢だったみたいだ。今の俺はシュテンバルトたちに守られているのもあるが、ほとんどは学校に守られていると言っても過言ではない。
いままで襲撃が一回しかなかったのも、おそらく学校が何かをしているのだろう。大きい団体ほど強くて信用できなくなるのは大抵同じだ。
「普通なら人に興味を示さないんですけどね。……何かしたんですか?」
「バカ言え。ぼっちな俺にそんな甲斐性あるわけねえだろ。……ちょっと話しただけだ」
シュテンバルトは不思議そうに首をかしげる。何やらつぶやいているが、「和也さんに興味を示す人ってごくわずかだと思うんですがね〜」と聞こえたのは幻聴だと思いたい。……いや、大体あってるんだけどね。大体どころか、俺の心がストレートに傷つくくらいあってるけどね?
「んじゃ、行ってくるわ」
「気をつけてください」
さらに言われ再起不能になるよりは、素直に行ったほうがマシだ。
シュテンバルトの心配気な声に応えるように、手を振りながら保健室を出る。
正直……いや、かなり行きたくないが自分の身のためだ。仕方ない。
今日も今日とて、静かな一日は送れないみたいだ。
俺は、少し足早に生徒会室に向かった。
一刀両断のルビ、思いつかなかったんで仮で作っておきました。いい案あったら、提案してくれると、嬉しいかなぁ?(チラッチラッ