ラノベの生徒会長は絶対怪しい。
今回はあまり進展がありません。
すいません。
黒電柱と戦って、新原に注意されてから翌日。
朝である。外ですずめがチュンチュンいってるのでこれも一種の朝チュンかなぁ……と思ったところで、はっと目を開けた。
そこは知らない天井だった。というかリビングの天井だった。
どうやら仮眠を取るはずが寝落ちしてしまったらしい。
何かの夢を見ていたような気がする……。夢の内容はまったく思い出せないし、ソファーで寝たからか全身が痛くて最悪な目覚めだった。
思い出せないのならそれでいいけど。
「……はぁ、今日も学校か」
昨日は戦闘の連続だったからか一晩寝てもまったく疲れが取れやしない。
今日も学校だという事実に軽く絶望しながら顔を洗いに洗面所へ行く。
鏡をのぞくと、心なしかいつもより目が死んでいるような気がする。大体三割り増しくらいだ。怠さで体もあまり言うことを聞いてくれない。
全く、ちょっと戦闘したくらいでこの様とは情けないぜ。
冷たい水で顔を洗い、意識を覚醒させる。
そしてリビングのカーテンを開け、窓の外を見ると、太陽の位置は結構高いところにあった。というかほぼ真上に合った。
いやな予感に冷や汗をかきながら時計を見ること約五秒。現実を見るまでにかかった時間が約十秒。
十一時五十分。頬をつねってもたたいても、たたいたときによろめいて角に小指を思い切りぶつけても夢落ち展開にはならなかった。むしろ激痛が走った。
夢の中でも痛覚はあるよね、と現実逃避しながらうずくまる。
「超遅刻じゃん……」
ガクッとうなだれると、テーブルの上にフレンチトーストと白米があった。
どっちかにしろよとツッコミをしていると、白米のお椀の下に紙が挟まっていることに気づく。
「なになに、『愛しの和也さんへ。遅れたくありませんので私は先に行ってますね。私が作った朝ごはんはきちんと食べておいてください。p.s.空条先生には私から言っておきます』。……あいつ飯作れたのかよ。面倒だし明日から毎日作ってもらおう」
シュテンバルトの自画像なのか、銀髪を腰まで伸ばした女の子が描いてあった。
ちょっとかわいいとか思ってしまった。たぶん気のせい。絶対気のせい。
「ま、とりあえず学校に行く準備をするか」
あせっても仕方ない。もぐもぐと朝食(もとい昼食)を食べ、三十分かけてゆっくりと学校へ向かう準備をする。
皿を流しにおいて、制服に着替えた。戸締りを確認し、家を出る。
川沿いをゆったりと歩く。とても昨日戦闘があったとは思えないくらい静かだ。
空を見上げると、雲ひとつない青空が目に入る。
今日の通学路はとても静かだ。理由はほぼ確実にあの馬鹿がいないから。
宮崎和也《俺》は『幻想支配』が使えると発覚してから、引越ししたらしい。学校は徒歩十分と、かなり近い場所にあった。
一歩一歩学校に近づくたびに、だんだんと憂鬱になってくる。
学校に入り、人気のない廊下を渡り、とうとう教室の前についてしまった。
自分がいるところだけ、重力が増したような錯覚を覚える。
扉に手をかける。鼓動が早くなった。緊張で額に汗がにじむ。
決心がつかないまま、目の前の扉と対抗していると、無慈悲にも目の前の扉が開かれた。
「……邪魔」
「お、おう……」
黒髪の少女に道を譲る。
顔はよく見えなかったが、どこかで聞いたような声だ。上代に似ていたような気がする。
もしかしなくても嫌な予感しかしない。
覚悟を決め、教室の中へと足を踏み入れる。
俺の席は廊下側の一番後ろ。すぐに座れる。影が薄いことにこれだけ感謝したのはいつぶりだろーー。
「あ、和也さん。遅かったですね」
シュテンバルトが声をかけてきた。
クラスメイトの半数嫌いに注目され、そういえば隣の席こいつだったな〜、と現実逃避する。
「あ、宮崎くんっ。昨夜ぶりだねっ!」
後ろから声をかけられる。
この言葉でクラス全員から注目され、男子からは殺気を当てられる。「昨夜……?」とか「あいつだけは、あいつだけはこちら側だと思っていたのに!」とかハイライトなしでつぶやいていて、ものすごく怖い。
「お前は話がややこしくなるような言い方をす……えっ?」
聞き覚えがある声に、思わず普通に返答してしまった。
視線の先では新原がにっこりと微笑んでこちらを見ていた。
「え、と……なんでいんの?」
「そーですよ。なんでいんですか」
「宮崎くんはともかく、カルラちゃんは酷くないかな? さっき言ったよね?」
「じゃあ言い換えます。帰れ男の娘。今なら上代もセットで強制送還させます」
「ひどいっ!」
この後、シュテンバルトと新原の口喧嘩が始まった。俺は、そういえばあいつ、上代に似てたな〜本人かな〜、とか考えながらしっかり距離をとったから被害は食らっていない。
終始口を膨らませていた新原かは、とても可愛かった。
ちなみに、新原がここにいるのはもともと入学していたかららしい。いそがしくて出席できなかったとのこと。
いい加減現実を見て、結論を言うことにしよう。俺のぼっちライフ終幕の瞬間である。喜ばしいことなのに嬉しくないのは何故だろうか。
***
「魔法使いでも微量の魔力は放出され──。体内から放出された魔力は──ということで、魔力とは別のものに変化し、『魔素』というものになります。魔素はそのままでは害はありませんが、圧縮すると非常に扱いが難しくなり、爆発を起こすことが──」
今は魔法基礎理論の授業中。担当の下田先生からは摩訶不思議で意味不明で理解不能な言葉がつらつらと並べられる。
専門用語とかが多く並べられないだけまだましだった。
理解もできないことを無理やり理解しようとしたからか、頭が痛くなってきた……ような気がする。
よし、よくやった頭痛。授業から抜け出せる口実をありがとう。
「あの、先生」
「あ、はい。なんでしょうか」
下田の「あ、はい」という言葉に俺のぼっちレーダーが反応する。俺みたいなぼっちってなんで言葉のまえにいちいち「あ」がつくんだろうね。いや、いまは下田のコミュ力の低さなんてどうでもいいか。
「なんか頭痛するんで保健室行ってていいですか」
「あ〜……っ!? まあいいですよ。そんな目になるくらい我慢していては体に悪いでしょうから」
最初は疑い深くこちらを見ていた下田だったが、俺の目を見た瞬間なにを勘違いしたのか態度を変えた。というか、目を見た瞬間叫びそうになっていた。
……あの、俺の目ってそんなに酷いっすかね。
おいやめろシュテンバルト、大笑いするな。そして桐生。真面目な顔装ってるようだが口元が歪んでるからな、お前そんなキャラじゃねえだろ。
そう考えながらも、教室を出て三階の保健室へと向かう。
廊下のひんやりとした空気に包まれ、少しだけ頭痛が和らいだような気がする。
「授業をサボるとは感心しないなぁ」
「ん? ……誰だお前?」
後ろを振り返ると、イケメンがいた。
今世はイケメンとの遭遇率高いなあと思いながら、目の前の男は誰かと思考する。
「ああ、いきなり話しかけてごめんね。僕は虚木俊」
「虚木……。ああ、生徒会長か。俺は」
「知ってるよ。宮崎くんだろう」
なんか前にもこんなことあったような気がする。だがまあ、イケメン生徒会長と言うくらいだし、全校生の名前くらい覚えてそうだな。欠点なさそうだし。
「で、生徒会長が俺に何の用?」
「いや、授業中廊下にいる人を見かけたからね。注意はしておくべきだろう?」
「俺は頭痛なんだ。保健室に行くくらい、別にいいだろ」
「あ、そうなんだ。それは悪かった」
虚木は爽やかな笑顔でこちらに謝ってきた。
……なんでこの学校にこんなのがたくさんいるんだよ。桐生といいこいつといいもういい加減爆発しろよ。
「それじゃ、サボりじゃないって分かったことだし僕は授業に戻るとするよ」
そう言って虚木は元来た道を引き返そうとするが、何かを思い出したかのようにこちらを振り返る。
「これからよろしくね、宮崎くん」
「────!?」
振り返った虚木の顔はいたって普通の爽やかな笑顔。なのに、どうしてこんなにも嫌悪感が湧き出てくるのだろうか。
「ん? どうかしたのかな?」
「……あ、いや。ちょっと頭痛がひどくなってきただけだ」
怪訝な顔で覗き込む虚木。さっきの嫌悪感が夢だったかのようになくなっている。
「ん、そうかい。じゃあ僕は帰るよ」
俺が嫌悪したことを気づいていないのか、はたまた気付いた上で問題ないと思っているのか、今度こそ虚木は引き返していった。
「……おいおい、アイツと同クラスの『仮面』なんてこの世界で初めて見たぞ」
誰もいなくなった廊下で独りごちる。
俺が家族を失った日、なにやらコソコソしていた少女が頭に浮かぶ。
あいつも、火事の次の日からあんな笑顔を見せるようになった。いや、俺が気づかなかっただけで実際はもっと前からしていたのだろう。
あんなあからさまなものに気付けないなんて、ホントに恋なんてするもんじゃないぜ。
「……保健室行くか」
ずいぶん時間が経ってしまった。アイツを思い出したからか、不快感と頭痛が増し、目眩までしてきた。
早く保健室へ行って寝よう。
怠さで重くなった体を引きずり、保健室へ向かう。少しずつ悪化していく頭痛は、思考もままならないくらいになっていた。
そして廊下を渡っている途中、激しい倦怠感を感じ、俺の意識は暗転した。
次回もよろしくお願いします。