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卑怯者は能力も卑怯だ。

戦闘描写です。難しいですよね。

 俺こと宮崎和也の顔面は、未だに赤く腫れ上がりヒリヒリと少し痛い。

 どうやらシュテンバルトによると俺は五分くらい気絶していたらしい。

 「起きてくださーい!」というシュテンバルトの声で無理やり起こされたために気分は最悪だった。

 本当になんなのあれ。ここは忍者屋敷かよ。


「……宮崎和也。迷惑ばかりかけるかもしれんがよろしく頼む。……いや本当マジで」


 そして今やっているのが自己紹介。

 コミュニケーションとるのに自己紹介は大切だよね。

 あとは……特に思いつかないな。人と話したこと少ないし。

 下げていた頭を上げ、改めて護衛してくれている人の顔を見る。


 目の前には俺と同じくらいの年の子が二人。

 黒髪のクールな女の子と、金髪の可愛い女の子。

 ちなみにシュテンバルトは俺の隣にいるので視界に入っていない。


「……上代かみしろ冷沙れいさ。よろしく」

「ぼくは新原しんはらアキバだよ」


 こういった感じで自己紹介する。

 シュテンバルト含め、女の子が三人。

 おいラブコメ。どうせならこんな展開前世の俺にやってやれよ。

 素直に可愛いとか思えねえじゃん捻くれてるから。


「宮崎くん、よろしくねっ!」


 新原が満面の笑みを浮かべる。

 おい、ちょっと可愛いとか勘違いしたじゃねえか。勘違い、ダメ。ゼッタイ。

 まあそれでも、こいつらは世間一般的に可愛い部類に入る。健全な男子ならば泣いて喜ぶだろう。

 だが、美少女三人に囲まれても俺に関してはラブコメなんて起きない。

 前世では、暴力か毒舌系ヒロインからヒロインをとった感じの人に囲まれていたがハーレムではなかった。

 いじめっ子系ハーレムとかあってたまるか。

 ……なにこの扱い。おいふざけんなラブコメの神様。もっと平等にしろよ。


「あ、ああ」

「……反応がキモい」

「冷沙さん。そんなこと言ったら和也さんが傷つきますよ」


 ちょっとキョドッてしまった。我ながらキモい。

 や、だってさ。これまで俺に悪意のない笑顔向けてきたの両親以外には初めてだから仕方ないよね。


「ま、俺がキモいのはデフォだから我慢してくれ」

「そ、そんなことないよっ!」


 前世の暗黒時代を思い出し自虐する。

 あの時は『キモい』とかよく言われたものだ。

 顔はいいほうだと思ってたんだが。なんなら顔だけがいいと言える。

 だが俺の自虐を新原が全力で否定してくれた。

 え、なにこいつひょっとしていい奴なの?

 可愛くて優しいとかとかシュテンバルトよりいい奴じゃん。

 将来結婚する奴は羨ましいね。俺結婚できないだろうけど。

 そう思うと、こいつが天使に見えてきた。


「和也さん。にやけているところすいませんが、アキバさんは男ですよ」

「嘘だっ……!」

「ぼくは男だよ?」

「……これは本当」

「マジか……」


 女性と間違えられて、恥ずかしいのか怒っているのか新原が涙目となる。

 あのマジで可愛いからやめてくれません?

 しっかり開けてはいけない扉を開いちゃうから。

 いやそこはうっかりだろ。


 本当にラブコメって奴は俺を本気で殺そうとしてきているのではないだろうか。

 数多もの経験を積んできた俺じゃなかったらうっかり爆死していたところだ。


 まあぼっちのとってラブコメは地雷だし、リア充は凶器なのだ。とすれば俺は、水鉄砲を持った一般市民と言ったところ。

 勝てるわけがない。


 だからぼっちな俺にラブコメがあるのはおかしいし、新原の性別も絶対に間違っている。

 神様は断固修正するべきそうすべき。



 ***



 クラスマッチの予告から一週間経った。

 つまるところ、今日がクラスマッチである。

 ……いや、忘れてたわけじゃないよ?

 ただ筋トレとかに付き合おうとしてきたシュテンバルトが鬱陶しかっただけ。だから俺は悪くない。


 まあ、訓練はシュテンバルトが指導してくれた。

 主に魔法を避ける訓練。俺魔法使えないし。

 あと、一度だけ、本当に一度だけシュテンバルトの本気の魔法に当たってしまった。

 咄嗟に能力を使おうとしたのだが、能力の確認はできなかった。

 なになになんなのあれ。早すぎてなにもわからなかったよ?

 おかげでこの能力の発動条件のうち一つ、『対象を知覚していないといけない』が確認できたが。

 まあ、シュテンバルトの場合は魔法関連が、さすが国際魔法委員会所属といったところで、達人中の達人だから仕方ないだろう。


 話を戻そう。今日はクラスマッチの日。

 それは現在進行形で起きている出来事。


『それでは宮崎和也対(かがり)勇人はやとの模擬戦を始める』


 空条先生の声が辺りに響いた。

 魔法が世界に出回っているといえども、全てが全て魔法でやっているわけではなく、マイクを使っている。

 科学が廃れないように魔法を使っていい範囲の線引きをしているみたいらしい。

 そして、今は俺の番が回ってきていた。

 クラスメイトが座っているアリーナの観客席からは「宮崎……誰?」という声が微かに聞こえた。

 おい、そこな女子。的確に俺の心を抉りに来るんじゃない。

 クラス一つ分だからかガラ空きの観客席から意識を対戦相手へと逸らす。

 特徴のあまりない、パッとしない顔。

 平凡な男子高校生の象徴のようだ。

 だが、そこらへんの男子高校生と違うところが一点。異常なまでのやる気に満ちた瞳。

 俺とは正反対な性格の持ち主だと、見て取れる。


「宮崎、試合の前に言いたいことがある」

「……あんだよ」

「この前だけどさ、疑ってごめんな」

「は?」

「ほら、シュテンバルトさんを脅してたとかいうやつだよ。謝りたかったけど、休み時間いつも教室にいないか寝てるかだから話しかけられなくて」

「いやいやなに言ってんのお前?」


 え、なにこのひと。初対面なのになに謝っちゃってるの?

 なんか主人公っぽいなおい。


「……俺と桐生ではどちらが信頼されるかは火を見るよりも明らかだろ。だからお前が謝る必要はない」

「いやそれでも……分かった」


 俺が遠まわしに「面倒くさいからやめてくれ」と言ったら、篝は納得してくれた。

 もう少し食い下がるかと思ったが意外だ。

 『話は終わったか?』という、空条先生の言葉が辺りに響いた。

 相手に一礼すると定位置に着く。

 空気が緊張感で張り詰めていることが肌で感じ取れる。


『試合────開始ッ!』


 空条先生の言葉のあとに、試合開始のブザーが鳴る。

 先に動いたのは篝だった。


「行くぜ宮崎!」


 ──魔法の発動方法は数種類ある。

 詠唱、魔法陣などから、大きな魔法では風水を利用したものまであるらしい。

 そして、篝が選んだのは魔法陣。

 発動までのタイムラグが、詠唱よりずっと短い代わりに、詠唱よりイメージ力が必要となってくる。

 彼の背後の魔法陣からは幾つかの火球が出てくる。

 初歩中の初歩の魔法。『火球ファイアボール』。

 だが、まだイメージが固まっていないのか不安定な物ばかり。他の魔法使いにすればオモチャのようなものだろう。

 だけど俺は魔法が使えない。そんな貧弱な魔法でも当たればまず、気を失うくらいはするかもしれない。


「……本当に人生ってのは詰みゲーだな」


 愚痴を吐きながらも、こちらに向かってくる魔法をなんとか翻す。

 魔法の扱いに慣れていないのか、精度が悪いのが唯一の救いだった。

 いつしか、親父が言ってたっけ。


『いいか、喧嘩というのは如何に攻撃をくらわないかで勝敗が決まる。攻撃を避け続けて、相手の嫌がるタイミングで攻撃を加えることが大切だ。

覚えておきなさい』


 ……子供の時の俺になに言っちゃってるの親父。

 まあ、いわゆるヒットアンドアウェイって奴だろう。

 この状況下、確実に勝つためにはそれが鍵となる。

 俺は相手の隙を窺うことにした。

 考えろ、自分が一番攻撃されたくないタイミングはなんだ。相手が確実に避けられないタイミングは……。


 やはり、予期せぬ事態が起き、思考が止まった時。


「おもしれえ。やってやろうじゃねェか」


 自分がこの状況を楽しんでいることに気づき、自分のことながら、驚いていた。

 夢にまで見た魔法を実際に見られたから? 違う。

 毛嫌いしているリア充をぶちのめせるから? 違う。

 この気持ちは一体なんだろうか。


「────ガッ!?」


 ひたすら避け続けることは叶わず、ついに火球ファイアボールが顔面に直撃する。

 安全に配慮されているため、死にはしないが、魔法に耐性など全くないからか激痛が走る。

 火球魔法といえども、威力は強く俺の体は一直線に吹っ飛んだ。

 いつの間にか追い込まれていたのかすぐ近くにあった壁に背中をぶつけ、地面に崩れ落ちる。


「……流石にこれはキツイだろうがクソッタレ」


 あまりの力量差に愚痴を吐く。

 能力が使えなければレスラーに三歳児が立ち向かうのと同じくらい絶望的なのだ。

 勝てるわけが、なかったのだ。

 諦めかけた時、地面に転がっているからか観客の席が見えた。

 避けることもできず、負けに向かっている俺への嘲笑、失望、憐れみ。様々な感情がそこにはあった。

 そこで、心の中の違和感に気付く。


 ──ああ、そうか。


 俺は、きっと見返したいのだ。

 ぼっちであるから、孤独だから。

 そんな理由で同情したり、あざ笑ったりする奴らを。


 別に俺は人に認めてもらいたいわけではない。

 ぼっちが憐れむべき存在ではないことを証明したいのだ。

 彼らが失敗して、傷の舐め合いをしている中、俺は一人現実を噛み締めていた。

 彼らが集団で一つのことを成し遂げている中、俺もまた一人で一つのことを成し遂げていた。

 集団という暴力が俺に向けられても、決して屈しなかった。

 今まで、暗くて惨めで苦い人生を一人で歩んできたのだ。

 だから、集団であることに甘えてきた奴らに、大勢でいることを支えにしてきた奴らに──


 ──負けるはずがない!


 自然と、自分の拳を握りしめていた。

 自分に向かって、追い打ちとばかりに火球が次々と飛んでくる。

 避けるために力を入れると、頭に激痛が走る。

 脳に強制的に魔法の情報が流れてきている、それを自覚するまでには時間はかからなかった。

 威力、向き、規模、熱量、光量、エトセトラ。

 次々と情報が流れてくる。

 さっきまではどんな原理でできているのかわからなかった魔法も、今では理解できる。


 ──……を…き……ますか?


 ふらりとおぼつかない足取りで立ったと同時に、篝の放った火球が俺に直撃した。

 辺りに砂埃が飛び散る。

 端から見れば俺の敗北は決定的なもの。だが、痛みはしなかった。

 魔力で生成されている魔法から魔力を抜けば何ものこらない。

 咄嗟に魔力量をゼロまで操作したから、魔法は形を止められなくなり拡散したのだ。

 砂埃が晴れる。

 観客席からはどよめきの声が聞こえた。俺が負けたとでも、思っていたのだろう。


「なんで……」

「やっぱそうじゃねえとなァ」


 自然と、頬が緩むのが分かった。


「俺くらいの卑怯者となると、これくらい『卑怯』な力じゃないと割に合わねえよな」


 世界で唯一の魔法ではない異能『幻想支配イマジンロート』。

 様々な制約があるが、相手の魔法を操作することができる。

 まだ扱いに慣れていないので、打ち消すことしかできないが、絶対的で卑怯なチカラ。

 火球が俺に当たる寸前に打ち消されるのを確かに見た。


 ──情報を書き換えますか?


「悪いが、こっから先は反撃の時間だぜ。篝」


 呆然としている篝に、一直線に突っ込む。

 今の俺のでは魔法を打ち消せても攻撃はできない。

 結局は自分の体を使って決着をつけるしかない。


 こちらの侵攻を火球が阻もうとするが、俺に当たる寸前にことごとく打ち消される。

 篝まで、あと数メートル!

 ようやく、自分の攻撃が相手に届く範囲まで到達し、攻撃の予備動作に入る。

 思いっきり体を引き絞り、その反動をも力に拳を振るう。


「おらァ!」

「か、は」


 俺の拳は、篝の右頬に突き刺さる。

 俺の勝利条件は『相手を気絶させること』。

 魔法を使えず、武器もない俺には殴る蹴るくらいしかできない。

 だから、相手に攻撃する間を与えずに、こちらから攻撃を当てていく。

 近接では、魔法よりも素手の方が早くて強い。

 魔法は集中力を必要とするので一度はめれば相手は攻撃できなくなる。

 間合いを詰めてからは、俺による一方的な蹂躙(ワンサイドゲーム)だった。

 観客席からは、卑怯だの聞こえるが、関係ない。


 卑怯? 魔法使えないから仕方ないだろ。全くもって正当な行為だ。

 外道? 褒め言葉をどうもありがとう。


 外道というのは正しい道からそれたもの。

 正しい道が『正々堂々』なら、外れた道は『卑怯』がよく似合う。

 それでもそれらの道が行き着く先、結果は同じ。勝利へと向かう。

 卑怯者の称号は俺のアイデンティティ、俺の個性。どうよ最強だろ俺。

 感情のままに、相手を殴る体制に入った。

 体を低く、弓のように引き絞る。拳を固く握り締めた。

 そして、ダムが決壊するかのように、溜めた力を一気に放出する。

 

 雲ひとつとない青い空、観客席から聞こえるブーイング。

 そんなもの眼中にない。

 全部まとめてぶっ飛ばしちまえ。


「っ! つがあァァァあああ──────ッ!」

「ぐ……か、はっ」


 握り締めた拳は相手の顎に突き刺さる。

 篝は弧を描きながら、地面に崩れ落ちた。


『……勝者────宮崎和也』


 アリーナ内はブーイングに包まれた。

 FIN。終わり。終了。本来ならばここで歓声が響いてエンドロールに入るところだ。

 あ、あれ? 俺、勝ったのに扱いひどくない?

次回もよろしくお願いします!

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