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転生者故の苦悩。

今回は主人公の心情を書きたいと思います。

 ぼっちの学校生活とは、いわば戦場である。

 戦場の軍人は敵に見つからないように身を潜め、気づかれないように攻撃し、そして仕事が終われば速やかに撤退する。

 では、ぼっちの学校生活とはどうだろうか。

 いじめの対象にならないために目立たないよう注意し、気づかれないように陰口を叩き、放課後になればすぐさま家に帰る。

 もはや完全に一致である。

 つまり、ぼっちを極めた俺は超エリート軍人。

 おい、早く勲章くれよ。


「和也さん。お昼ですよお昼」


 さて、一人で静かに食べられる場所でも探すか。


「無視ですか?」


 ハンドボールコート裏とかの狭いところは誰もいないかもしれない。

 購買でパンでも買って向かうか。


「おーい、和也さーん」

「……んだよ、せっかく無視してたんだぞ察しろよ」


 男子の目とかキツイから。絶対敵視されてるから。

 もう視線だけで戦死しちゃうレベル。

 いやエリート軍人じゃなかったのかよ俺。

 なんなの? 俺のステルス見破るとかどんだけ高性能なレーダーなの?


「ほおー、そんなこと言っていいんですかぁ?」


 シュテンバルトの顔がニヤリと歪む。

 なんか怖いんですけど。

 弱み握られるようなことしたっけ?


「私の愛妻弁当、いらないんですかぁ?」

「いらん」


 思わせぶりな態度の割にはどうでもいいことだった。

 ……どうでも良いことだった。……ほんとだよ?

 愛妻弁当という言葉にクラスメイトの殆どが反応してたことなんて、知らないし、シュテンバルトが「よりによって即答ですか!」なんて叫んでいたのも聞こえない。


 ただ、この教室に充満している殺気だけはどうにかしてもらいたい。

 俺はそそくさと逃げるように教室を後にした。

 あいつぼっちの扱いわかってねえんじゃねえの?


 背後の教室から感じる殺気を無視し、そのまま購買に向かう。

 この学校の購買は、購買といっても、実際は人気がなく人はあまり来ないと言っても良い。

 この学校に来るもの自体がエリート、金持ち、そんな奴らが多い。

 そして、そんなプライドが強そうな彼らは購買には来ない。

 大抵自分で作るか、彼女が作るかだ。

 つまりここは、ぼっちのぼっちによるぼっちのための購買ということだ。

 購買つくったやつマジでリンカーンだろ。


 とりあえず、パンとコーヒーを購入して、生徒玄関へ向かう。

 その道中、ふと窓から外を見ると、そこは中庭だった。


 ──中庭。

 この学校の購買がぼっちのためのものだとすれば、ここはリア充のためのものと言ってもいいだろう。

 今日みたいに昼下がりの天気の良い日には、リア充どもが集まり、ランチに遊び等々。

 夜には星空の下で彼氏彼女が愛を語り合う。

 平たく言えばきゃっきゃうふふするための聖地、もとい性地だ。

 ……なめとんのかこら。


 昇降口からでて、しばらくまっすぐ進み、左に曲がると、ハンドボールコートがある。

 さすがエリート中のエリート高と言うだけあって、ここの敷地はかなり広い。

 もう東京ネズミーランドじゃないかって思っちゃうレベル。

 いや、そこまで広くはないんだけどね。

 だが、この高校、いかんせん広すぎて、構造も複雑で迷いやすい。

 グラウンドとか、アリーナとかたくさんありすぎ。

 何だよ第三アリーナって。多すぎるし広すぎるだろ。


「おい」

「……あん?」


 後ろからドスの利いた声で呼びかけられ、ハンドボールコートへと向かっていた足を止める。

 振り返ると、男が数人いた。


「お前、どういうつもりだよ?」

「どういうつもり、とは?」


 入学式、主席合格で入学制代表の演説をしてから学年三大イケメン(笑)ともてはやされているクラスメイト、桐生きりうというやつがいきなり意味分からないことを言い始めた。

 こいつコミュニケーション能力足りないんじゃねえの?

 お、俺はコミュニケーションをとらないだけで取れないわけじゃないからな!

 あとこいつ、原作では親友ポジだったのがすごい変わりようである。

 主人公が俺になるだけでそんな変わるもんなの?


「とぼけてんじゃねえよ!」


 大声で怒鳴られ、ビクッとしてしまった。

 まさか、こいつの演説中寝ていたのがばれてたのか?


「どうしてお前みたいのがシュテンバルトさんと付き合ってるんだよ!」


 ──へ? 俺が? シュテンバルトと?

 ああ、そういえばクラスで「愛妻弁当が~」みたいなくだりしてたな。

 ちなみに言うと、俺はシュテンバルトとは付き合っていない。

 勘違いも腹ただしいところである。


「いや、待て。お前誤解してないか?」

「うるせぇこのクソ野郎! どうせお前のことだ、脅して無理矢理付き合わせてんだろ!」

「ばっかちげぇよ。んなことして俺が何か得するのか?」

「ふざけるな! いいか、シュテンバルトさんは今やこの学校で男女問わず一番の人気者だぞ! それなのにお前みたいなクズがそもそも関わっていいわけがないだろう!」

「だから待てっての。俺の話を──」

「ゴチャゴチャうるせぇんだよ!」


 だめだこいつ。

 話し聞かない系の主人公によくあるタイプだ。

 勝手に勘違いして誤爆するタイプだ。

 つまり熱血型ハーレム系主人公は勘違いで人に迷惑をかける生き物である。爆発しろ。


「俺と勝負しろ! 俺が勝ったらシュテンバルトさんに二度と関わるな!」


 そうか、そんなに俺から護衛してくれるやつを消したいか。

 つまり俺にホルマリン漬けになれというわけか。そういっているわけだな。

 まあ、実際こんなのは受けなくていいし、面倒だから受けたくないのだが、後々さらに面倒がおしよせてきそうだから受けておくか。


「……分かった。んじゃ、俺が勝った場合は?」

「は?」


 桐生は「なにいってんのこいつ」という俺を軽蔑するような目で、こちらをにらんできた。


「だから、俺が勝った場合お前はどうしてくれんだよ? 俺だけにリスクがあるとかいわねえだろうな?」

「はぁ? 何でお前みたいな外道の言い分なんて聞かないといけないんだよ!?」

「負けるのが怖いから俺の条件は飲めないのか。別に俺はこのくっだらない勝負に応じなくてもいいんだ。それをわざわざ受けてやるって言ってるんだぜ? それくらい受け入れる器持てよ。女の子から、いや、周りに嫌われるぜ?」


 自分が出せる限りの、最高の笑みを顔に浮かべ、挑発する。

 外野が「もうやっちまおうぜ」とか、「お前今の状況分かってんのか」とかわめいているが知ったことではない。


「……分かった。俺が負ければ不問にしてやる。勝負の内容は『相手を先に背をつけさせたほうが勝ち』でいいな? もちろんルールは無しでな!」

「オーケー理解した。いくぞぉー」

「えっ?」


 棒読みで返事すると俺はいち早く、一番近くにいた男をつかみ壁へと打ち付ける。

 周りが呆然としている間に、二人目と三人目の足を払い、地面に背中をつけさせた。

 気づけば周りの人間は全て倒してしまっていた。


「ひ、卑怯だぞ!」

「お前は確かに『ルールは無しでな』とか言ってたよな。じゃあ、『不意打ちで相手を倒してはいけない』なんてルールはないし、『開始の合図をいう』なんてルールもない。結論を言うと、お前の頭の悪さがすべて悪い」


 だから、俺はなにも悪くない。

 これで文句を言われたら、どうすればいいのか。

 集団リンチでも受ければいいのかな?


「くそっ、魔法が使えない出来損ないの癖に!」

「あーはいはい。そういうのはどうでもいいから。現にお前らは負けたわけだし」


 本当にどうして主人公はこんなやつと親友になれたのだろうか。

 まあそんなことはどうでもいいか。

 「んじゃ、俺行くわ」と一言入れてから、相手の叫び声を無視して、足を進める。


 気づけば空から雨が降ってきていた。

 人気のないところで昼食を食うことはかなわず、軽く鬱になりながら校舎へと戻る。


「和也さーん。探しましたよ!」

「……シュテンバルトか」


 校舎までまだ距離がある。

 濡れてしまうな、と思っているとシュテンバルトが俺を探しにきていた。

 その手には二つのかさが握られている。


「はい、これ。ずぶ濡れになってもらっても困りますし」

「おお、気が利くな。うっかり惚れちまうぞ」


 まあ俺に惚れられても困るだけだろうけどな。

 ふと、中学生(前世)の頃の甘酸っぱい思い出が頭に浮かぶ。

 あれは確か、外道といわれる前のこと……


 放課後、勇気を出し好きな女の子を屋上に呼び出した一人の少年。

 あのときの激情は今でも克明に思い出せる。

『まだかなぁ、遅いなぁ……意外と恥ずかしがりやなのかも! ワクワク』

 結局その日、少年は少女と会うことはできなかった。

 あー、いやこれ駄目な思い出じゃん。


 つまり、俺に限っては美少女が隣にいようが、同棲してようがラブコメ展開など起きないのである。

 これを理解しているのは大きい。

 最初から勘違いすることはないし、これからも勘違いしない。

 俺の意思は鋼なのだ。


「ん〜? 私は和也さんならバッチコイですよ?」


 早速勘違いしそうである。

 あれ? 俺まさかフラグ建ててないよね。

 勘違いしそうなんですけど。

 ……おいどこ行った俺の鋼の意思。

 

「それより制服が若干汚れてますけどどうしたんですか?」

「ん? ああ、雨で汚れただけだ。白いから余計目立ってんだろ」


 仮にも護衛してくれている彼女に嘘を言うのは気が引けた。

 だがまあ、アレだ。あれくらいのことで心配させるのも迷惑だろうし気がひける。


「そうですか」


 納得してくれたみたいで何よりだ。


 そして、昼休憩が終わり、いつものように教室で席に座る。

 いつもと違うところは桐生が睨んできていること。


 それもそうか。

 きっと彼のやったことは、間違っていてもどこか正しくて、人間らしい。

 あいつのやったことは社会的に間違っていても人間的には間違っていない。

 嫉妬も軽蔑も嘲笑も、人間には備わっているのだ。

 だから彼にとって俺は軽蔑の対象であり、許せない。

 それに、彼の性格が正史と違い、あそこまで曲がってしまったのは、きっと俺が存在しているからだろう。

 あれは俺の意思じゃない、だから俺は悪くない、そう思いながらも考えてしまうのだ。

 俺が存在しなかったらこの世界の『主人公』は消えなかったのではないのか、俺はこの世界で『存在してはいけない者』なのではないか。

 その『存在してはいけない者』の存在が彼をあそこまで捻じ曲げてしまったのではないか。

 もしそうなのなら、一番の悪者は──


 紛うことなく、俺だった。

読んでくださりありがとうございます。次回もよろしくお願いします。

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