その男、転生者につき。
みなさんこんにちは。瀬戸さんです。
異世界転生者ではなく、現代を舞台とした魔法ものが書きたくなり、衝動的に書いてしまいました。反省も後悔もしていますすいません。
──どうやら、俺は死んだらしい。
俺──宮崎和也は目がさめると、そこは見慣れない部屋の、机の前だった。
そこに、唐突に突っ立っていた。
そして、目の前にはパンフレットのようなものと、電話帳くらいの分厚さの本。
もちろん、パンフレットなどもらった覚えはない。
そして、机の上に不自然に置いてあった手鏡。そこには面識のない顔が写っていた。
──いや、『現実』では面識のないと言ったほうがいいだろうか。
整った顔に日本人特有の黒い髪と黒い目が目に入る。
俺は、この男を知っている。
日本で莫大な人気を有した魔法学園もののライトノベル。その主人公。
確かそのライトノベルを読み終わる前に死んだはず。
まだプロローグしか読んでないのだが……。
ただ、その主人公と違う点があるとすれば、何も考えてなさそうな、やる気のないぬぼーとした顔くらいだ。
前世の俺の最大の特徴でもある。
自分の記憶とは違う姿を見て、再度自分は死んだんだなと自覚する。
それでも落ち着いていられるのは死んだ記憶が残っているからだろう。
それはついさっきの出来事だ。
家に残っているライトノベルも粗方読み終え、新刊でも買いに行くか、と期待に胸を膨らませ近所の書店に買い出しに行ったのだが、目当てのものもなく、落胆で軽く鬱になりながら、とぼとぼと家へと向かっていた。
そんな時、スマホをいじりながら俺の前にいた女子のクラスメイトが信号が青になったと同時に、周りの確認もろくにせず横断歩道を渡っていた。
そこにわき見していたトラックが矢のように真っ直ぐ、彼女へと向かっていく。
無意識のうちに走り出していた。
何の関わりもない人を助けるために。
柄にもない、そう思いながらも自然と足は動き出していた。
「危ない!」
女子大生を最悪の未来から逃れさせるために手を伸ばす。
──頼む、届いてくれ……!
「きゃあ!!?」
女子大生は迫り来るトラックに気づいたのか、すざましいスピードで飛びのいた。
──あ、あれ?
本来、女子大生を助けるために伸びた手は空を切る。
なんとかトラックは避けられたがそのまま勢いで、ドブに頭から突っ込んで気を失ったところまではかろうじて覚えていた。
…………。
「ああああああああ! うわああああああ! いやあああああ! 嫌だああああああ! そんなみっともない死に方なんてあんまりだろおおおおおお! 恥ずかしすぎるだろおおおおおお!」
近くのベットの布団にくるまり、手足をじたばたさせ悶え苦しむ。
あれは俺の人生で最初で最後の見せ場だったと言っても過言ではない。
なのに、ドブに頭が詰まって窒息死とか情けなさすぎる。人生最大の黒歴史だ。
しかし、こんだけ騒いでいるのに誰も怒りにこない。
いや、そういえば主人公の両親って事故で死んだんだったか。
取り敢えず現場の確認でもするか。
なんかよく分からんけど、死んだ俺は魔法学園ものの主人公に転生した。
そして、おそらくこの世界には魔法がある。
もしこの仮説があっているのなら、この後能力が云々で強制入学させられていろいろ事件に巻き込まれハーレムということになる。
──冗談じゃない。
巻き込まれれば命がいくつあっても足りない。
いかなる手段を用いてでも回避せねば。
となれば、どう回避すればいいか考えるのみ……。
まず、日にちを確認する事にした。
近くに置いてあったスマホを手に持ち、時刻を確認する。
『2058年4月6日6時37分』
主人公が最初の事件に巻き込まれるのは4月1日。
その日に入学フラグが立つので、もう入学は決定している事になる。
「…………終わった」
今や和也は政府から監視され、動けない状態。
転生させるならもうちょっと早くして欲しいものである。
話の内容が分かれば死亡フラグも回避できるのだが、あいにくプロローグしか読んでないので主人公の能力や性格さえあまり分かってないのだ。
そして明日になれば入学式。回避する術はない。
「人生とかマジ詰みゲー。クソゲーの方がマシだろ」
詰んでしまった状況に、誰もいないのを分かっていながらも愚痴を吐く。
……誰もいない?
確か、プロローグではヒロインと一緒に通学する描写があったはず。
そしてそのヒロインは護衛と称して家に住んでいる。
だが、そのヒロインは家にいない。
俺はもしかすると回避できているのではないか、と希望を持つ。
──ピーンポーン。
インターホンの音がなる。
死亡フラグを回避できたことでご機嫌になってた俺は、「はいはーい」と声を弾ませながら玄関のドアを開けた。
そして相手を確認して呆然とすること三秒。
「あ、初めましーー」
それから無意識中にドアを閉め、また呆然とすること五秒。
「和也さーん、いきなり閉めるなんてひどいですよー?」
ドアの向こうからは「出てこないのなら壊してもいいですよね」と、不穏な声が聞こえる。
このまま開けないことも考えたが、ドアの向こうの少女にドアを壊されるのは困るので、素直に開けることにした。
「初めまして、国際魔法委員会防衛科所属の田中花子です」
「お前それ絶対今作っただろ」
「あ、バレちゃいました?」
この物語のヒロインである少女はニヤニヤと笑いながらこちらを見てくる。
非常にうざい笑顔である。もとい、非常に殴りたい笑顔である。
「んで、なんか用?」
「初対面の女性に対してその態度はなんですかね」
初対面の人の家に転がり込んでくるのもおかしいのではないかと思う。
「それじゃあゲームをしましょう。なんのために私がきたのだと思います?」
少女は思わせぶりな笑顔をしているが、転生者であり、原作を知っている俺には答えの検討はすぐについた。
「……俺の護衛だろ」
「ほうほう、その心は?」
少女は少しだけ驚愕の色を見せる。
まさか答えを当てられるとは思っていなかったのだろう。
「魔法とはまた違う力を扱える俺は、科学者にとっては喉から手が出るほど欲しい貴重な実験動物。それに加え、ここは政府に認められたものしか入れないはず。監視されてるからな。これらのことを踏まえて考えれば答えは一つだ」
自分の口から不穏な言葉が出てくることに驚いた。
政府が云々とかは自分の考えも混じっているが、あながち間違ってないはずだ。
「ッ!? ……全部正解です。なんで分かったんですか?」
どうやら俺の考えは、全て当たっていたみたいで少女は驚愕する。
……あの、ぼくとしてはできれば当たってほしくなかったのですが。
「いや、俺の立場くらい自分で理解してるから。科学者に目をつけられているとなると護衛が出るのも当たり前だし」
「普通ならそんな発想ないんですけど」
そんなもんなのか?
原作のプロローグではそんな描写なかったが、世界に一人の魔法以外の『異能』が使える人間だ。
科学者に狙われるのは至極真っ当なことではないか。
「ぼっちの危機察知能力なめんな」
ちなみに俺の前世はぼっちである。
友達もいなく、家族も亡くなっていたので前世には未練はない。
せっかく転生したので、第二の人生をのんびり暮らしたいとか思っていたりする。
「ああ、確かにその生気のない顔と無気力な半目なら……」
「なめてんのかこら」
「あの、和也さん? 冗談ですのでその拳を下ろしていただけませんかお願いします」
尊厳を踏みにじられた怒りで、今すぐにでも殴り倒して、その体に思いっきり蹴りを入れたい衝動に駆られたが、土下座する少女を見てなんとか気を取り直した。
そして、家の中に招き入れる。リビングの場所を知らなかったので間違えたら恥ずかしいとヒヤヒヤしたが、一度目に開けたドアであっていた。……よかった。
「で、護衛ってのは?」
「基本的に監視と護衛ですね。護衛対象の情報もバッチリグラブってますよ」
「おい、英語と日本語を混ぜるな。その言葉に危機察知能力が全力で警報を鳴らしてるんだが」
ちなみにグラブというのは「掴む」という意味である。決して某ゲームのことではない。
「ちなみにどのくらい把握しているしてるかというとですね……」
少女はニタリと笑う。
その意地の悪そうな笑みは彼女の性格を表しているのだろうか。
「ど、どこまで知ってるんだ」
「本名宮崎和也。年齢十五歳。誕生日は六月八日の血液型O型。成績は上の中といったところ」
「え? は? いや、ちょ、まっ」
この言葉で確信した。
前世で読んでないところ、もとい自分が知らない主人公の情報は基本的に前世の俺の人生と一致している。
「クラスメイトを嵌めた経験がある。蔑称卑怯者。ちなみに友達いない歴イコール年齢。リア充爆発しろといった回数はここ一ヶ月だけで百九十二回。……どんだけぼっち極めてんですか、あなたは」
「あああああああああ! 嫌あああああああ!」
最後の言葉が止めとなり、柄にもなく大声で泣き叫ぶ。
そんな情報いらないから、傷ついちゃうから。
それにしても護衛に必要なこととはいえ細かく調べすぎではないだろうか。
「個人情報が……」
「心配ありません。和也さんの個人情報欲しいのは護衛の私とマッドサイエンティストくらいでしょうし」
それは心配すべきだろうというツッコミさえ入れる気力さえ俺にはなかった。
「それで、俺はずっとここに引きこもっていればいいのか? 俺としては万々歳だけど」
「いえ、基本的に普通の生活をしていただいても構いません。ただし、二十四時間体制でそばにいさせてもらいますけど」
二十四時間ずっと。
それはまずいと思う。
鮮やかな銀髪に、燃えるような紅い瞳。日本人離れした端正な顔立ち。
性格さえ目をつむれば非の打ちどころがない完璧美少女なのだ。
敬語や仕草から大人びて見えるものの、和也と同年代くらいだろう。
そんな二人が同じ屋根の下で……
「お、顔が少し赤くなってますよ、和也さん」
「うっせ」
状況は把握した。
おそらく自分は狙われている。この少女が守ってくれること。
自分と同じくらいの少女に守られるのは情けなくなるものの、働きたくないし、面倒だし、そもそも自分ではどうにもできないので致し方ない。
「あの……」
「なんですか?」
「その……まあ、なんだ? ……一応、よろしく」
俺は少女に一礼する。仕事とはいえ、自分を守ってくれるのだ。折り目正しく例を持って接さなければいけないだろう。
「な、なんだよ」
「これがギャップ萌えというものですか……」
何やら空を(実際には天井なのだが)仰ぎ、訳のわからないことを言い始めた。
ふと、時計を見やる。時刻は昼の十二時をさしていた。
「あ、そういえば自己紹介まだでしたね」
さも今思い出したかのように、唐突に少女は言った。
「私はカルラ。カルラ・シュテンバルトです。以後お見知り置きを」
「……宮ーー」
「あ、知ってるのでいいです」
「おい」
カルラの態度にまた、殴りたくなる衝動を覚えるが、すんでのところで抑え込む。
いちいちムカつくなこいつ。
「じゃ、昼飯作ってくるわ」
「あ、お願いします」
フラフラと頭を抱えながら居間の端にあるキッチンへと向かう。
今日はいろんなことがありすぎた。
死んで目が覚めたら物語中の主人公になったと思えば、研究者や科学者に狙われているから護衛するといわれる始末。
つい昨日までは常人だった俺には脳の処理が全く追いついていなかった。
にも拘らず、なんでこんなことを納得してしまっているのだろうか。あまりにも適応が早すぎる。
自分が死んだことは明白だし、転生したということも理解できた。
だが、受け入れるか否かは別問題である。
一話目にしてヒロイン?登場です。主人公がヒロインになる気しかしないのは気のせいです……きっと……多分。