休息、朝食
そこには醜悪な巨人。
後ろに迫る殺意の牙。
巨人が腕を振り上げ、尻餅をついている自分に向かって振り下ろす。
それが過去の記憶と理解するには少しの時間を要した。
夢を見た。戦った時の記憶だ。
戦闘なんて初めてで、頭に浮かんだアニメの戦闘シーンを真似て、たまたま、偶然奇跡的に成功しただけだ。
手で額を抑えて嘆く。
本当に異世界、ゲームの世界に来てしまったんだ。
額を抑える手に柔らかい感触を覚えて勘付きつつもソレを見やる。
毛布。何の変哲もないただの毛布。
ただ何故自分がここにいるのかがわからない。
ベッドを降りて4メートル四方の部屋の隅にある階段から下へ降りようとした時、誰かが階段を上ってくる音がして思わず身構える。
すると、上がってきたモノは魔物や怪物ではなく、栗色の髪で、目鼻立ちのハッキリとした、日本で言う、ハーフ顔のような、美人な女性が立っていた。
「目が覚めましたか?魘されていましたから。」
優しく微笑んでくるが、俺はまだ警戒心を解くことができない。
「下に朝食を用意してありますから」
そう言ってその女性は階段を下りていった。
「…ふぁぁぁぁ」
深く息をついて考える。
(警戒しても仕方ないよなぁ…でも)
あんな思いはもうゴメンだ。
とりあえず、朝食があると言っていたので、下へ向かうことにした。
降りた先からはスパイスのような鼻をつく香辛料の香りがした。
すると、
「降りてきたのね、朝ごはん、できてるから座って食べてね」
俺はその言葉を聞き流して、女性に問いかけた。
「ここはどこだ、俺は普通にゲームしてただけだぞ、どうなってんだよ」
心の奥に押し込めてた疑問をそんなこと知るはずもない女性に投げ掛け、地面を睨みつける。
「なに意味わからないこと言ってるのですか?げーむ?なんです?それ?」
(はぁ、意味がわからないのはこっちなんだよ、それに…)
腹が減った。とりあえず目の前にある物を食わねば。
椅子に着き、フォークを手に取る。
「いただきます!」
そう言うとその女性は不思議そうな顔をした。