俺、初めて戦います!(5)
小鳥の囀る声に、俺はハッとして目が覚めた。 ベッドの上ではない。
玄関だ。
しかもこの家の倉庫にあった鎧、といっても皮のレザーに鎖帷子だが、軽装備に身を包んだ状態で寝ていた。
勿論理由は一つ。 ヒルデに同行するため。 ヒルデの事だ、おそらく体調が悪くても無理を押して戦いに赴くだろう。
流石にその状態で一人ではいかせるわけには行かない。
余計なお世話、と言われれば当然だ。 むしろ足手まといになるのかもしれない。
これはそう、我がままだ。
困っている人を放っておけない、見て見ぬ振りができないそんな俺の我がままだ。
「そう、何といわれても俺は着いて行く。 これは俺の意思なんだ!」
「誰が着いて行くって?」
「いや、だから俺がヒルデに……ヒ、ヒルデ!?」
つい興奮して独り言を喋っていた俺の目の前に、蒼い鎧に身を包むヒルデの姿があった。 腕を組んで俺の目の前に仁王立ちしている。
「あ、いや、その、だから俺は、」
剣士姿のヒルデはやはりどこか迫力というか威厳がある。 思わず口篭ってしまった。
「これは私の戦いだぞ?」
突き放すように言うヒルデ。 だが俺だってここで引き下がるわけにはいかない。 一晩悩んで出した答えだ。 後悔だけはしたくない。
「ひ、ヒルデだけの戦いじゃない、お、俺の……俺の戦いでもあるんだ!」
「誠の?」
「ああ、俺はもうヒルデに関わってしまったんだ。 そしてハンナさんの事も知ってしまった」
「関わったって、別に誠には関係、」
「関係なくないよ!」
「誠……?」
「ごめん怒鳴って……俺あの後考えたんだ。 俺はこの世界で何ができるんだろう、何がしたいんだろうって」
勿論元の世界に帰りたいって気持ちはある。
だけど、この世界には、俺がやりたい事が沢山ある気がする。
ここでしかできない事。 この世界の俺にならできそうな事。 もしそれをしないで元の世界に戻れば、俺は一生後悔して生きていく事になるだろう。
「ハンナさんみたいな人が、純粋に冒険者として胸を張って生きていける、そんな世界を作りたい。 冒険者として誇りを持てるような世界にしたい、その手助けを、俺はしたいんだ」
ヒルデは俺に面食らったような顔を向けたかと思うと、しばし考えた後、顔を上げ、険しい顔つきで口を開いた。
「命を落とすかもしれないんだぞ?」
「一度は失っていたかもしれない命だ、大丈夫!」
「バカ! 命を粗末にするな! 誠に死なれたら私が……あ、いや、なんでもない……と、ともかく、誠の気持ちは嬉しいが本当に危険なんだ」
「分かってる。 自分の身は自分で守る。 だからお願いだヒルデ。 一緒に連れて行ってくれ!」
俺は床に手を着き、拝み倒すように懇願して見せた。
「ああもう、分かった、分かったよ。 また私の負けだ」
「えっ? じゃ、じゃあ!?」
「くどいぞ。 まったく、昨日から負けてばっかりだな。 誠は案外女ったらしの気があるのかもな」
「へっ? な、なななないよそんなの!?」
「ふうん、怪しいもんだな」
ヒルデは腰に手を当て、意地悪そうに俺の顔を覗き込む。
「まあいい、さてと、準備はできて……って、もう万全みたいだな」
「ばっちし!」
「どう足掻いても着いて行く気だったのか、まったく……本当に変わった奴だ。 それじゃ、」
ヒルデはそう言って俺の前に手を差し出して、観念したかのように笑って見せた。
俺はその手を取り、深く握手を交わして口を開く。
「改めてよろしく、ヒルデ!」