表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

俺、お酒を造ります!

 現実味の無い悪夢、そんな光景が今、俺の目の前で起こっていた。


飛び交う人々の悲鳴、血の海に沈む女の子。


そして今正に、俺の目の前で、襲われそうになっている外人の男の子。


逃げればいい。 その場から脱兎の如くだ。


でもできない、そんな事。 正義感? いや違う。

困った人間を放っておけない、父親ゆずりの困った性格。



手を伸ばす。 どこに? ナイフにだ。


突如地下鉄西武線の電車の中に現れた異様な男。 そいつが次々と乗客を襲った。


最初に女性が刺された。 俺の直ぐ斜め目の前で。


女性を刺したナイフは、次に俺の隣に座っていた男の子を狙っていた。

そのナイフに俺は、今手を伸ばしたのだ。


フードを真深く被った男が俺の手に気が付いた。 フードから僅かに覗き見る鋭い目と、一瞬目が合った。

即座にナイフが軌道を変える。



次の瞬間。 激痛、悲鳴、眩暈。 同時に起こった出来事に、俺の頭の中は真っ白に染まってゆく。


薄れ行く意識の中で最後に見たのは、悲痛に泣き叫び俺にとびつく男の子の顔だった。


綺麗な顔だと俺は正直に思った。 男の子にしておくには勿体無い。


そんなアホな事をふと思いながら、俺の頭の中は昏倒していく。


そして、ゆっくりとスローモーションの様に、世界は一変するのだった。






「痛っ……!?」



余りの激痛に、俺は顔をしかめながら目を覚ました。

痛いのは右胸辺り。 思わず手で押さえる。


違和感を感じた。 服を着ていない? いや、正確には包帯が巻かれていた。

しかも見知らぬベッドの中で、俺は横になっていた。



「包……帯?」


「目が覚めたんですね、良かった!」


「え?」



声のほうに振り向くと、そこには何やら見覚えのある顔が、


ベッドの脇に腰掛ける人物。

あの時の少年だ。 何で? じゃあまだここは電車の中!?



「お、落ち着いて! ここはあの電車とか言う乗り物の中じゃありません!」


「えっ? 痛たたたっ!」



右胸がやばいくらいに痛い。 過去に骨折の経験はあるがそれとも違う、焼け付くような痺れ。

男の子はベッドから起き上がろうとした俺を制止すると、少女の様に端整な顔で、俺に必死に訴える。


ん? 少女? いや、この子は男の子じゃ?


途端に頭が混乱してきた。


そうだ、考えてみれば分かる事だ。 電車の中にベッドがあるはずがない。

じゃあここはどこだ?

助けようとした男の子は今目の前にいる。 なのに場所は見たことも無い場所だ。


木造の建物。 電灯はない。 代わりにあるのは、部屋を暖かく包むような明りを燈す、年期の入ったランプだ。

部屋の内装は洋風。 しかも近代的ではない。 むしろ古い。 よく見れば暖炉らしきものまである。



「安静にしてないとダメですよ? 今から食事を用意しますから」



そう言って立ち上がると、男の子はスカートの裾を軽く持ち上げ、俺に向かって会釈した。


ん? スカート?



「えっ? お、女の子!?」


「はい?」



そう言って男の子? は小首を傾げて不思議そうな顔。 キョトン、とした顔がすごく可愛らしい。



「え、えと、僕の事ですか?」


「僕? あ、やっぱり男の──」


「はい、女の子ですけど?」


「ブッ!」



言いかけて俺は吹きそうになった。 お、女の子だったのか。

髪が短かったし、服装も男の子っぽかったからからつい……。


確かによく見れば女の子だ。 藍色がかったショートカットの髪に、宝石みたいな愛くるしい大きな瞳。


見た目は幼さそうに見えるけど、柔らかそうな薄いピンクの唇がなんとも……。



「あの、僕の顔に何かついてます?」


「うおわおっ!?」



気が付くと少女の顔が目と鼻の先にあった。


高校二年生、自慢じゃないが彼女いない暦=自分が生きてきた人生に比例する。

よってこういうシチェーションに余り耐性はないわけで、



「いやその、可愛い人だなと……あいや別に深い意味じゃ!」



何を言ってるんだ俺は。 慌てて言い訳をしてしまったが後の祭りだ。



「そ、そんな……あの、私食事をお持ちしますね。 お話はまた後で」



少女はそう言うと頬をほんのりと赤く染め、恥ずかしそうにしながら小走りで部屋を出て行った。


ん? 何だ今の反応は? 呆れられると思いきやあの反応では、俺も少し気恥ずかしい。


痛む右胸をさすりながら、俺はしばしベッドの中に潜り込み、モンモンと考え込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ