メリットを提示しろ!
「いやいや、ヤだよ勉強なんて。だるいし」
「あなたは天才になるんでしょ?!」
「え、別に約束してないし。」
「しなさいよ!いますぐ!」
「えー…全く僕に利益なくない?なんかメリットでも提示してくれればやる気になるかも。なんかないの?」
「え、天才になれる事自体もうすでにメリットじゃないの?」
「いや、確かにメリットっちゃメリットだけど、まだ足んない気がするなあ」
「それで十分じゃない!天才になればいいことばっかりよ!きっと!少なくとも馬鹿よりはいいに決まってるわ!」
「そりゃそうでしょうよ。馬鹿より天才の方がいいのは当たり前だよ。でも、天才になるまでの努力のことを想定すると、ギブアンドテイクが成り立つとは到底思えないな。」
「本当にあなたってああ言えばこう言うわよね。いいわ。こうなったらしょうがないから超怠慢少年のあなたにメリットを作ってあげる。」
「随分と癇に障るが一応聞いてあげよう。何ですか?僕が天才になるメリットは?」
「ふふ。これはもう少し後に使いたかったんだけどね。今回はいい機会だから使っちゃうわ。」
「なんだよ。もったいぶんなよ。」
「ちょっと待ってなさい」
そう言うと早見は上着のポケットからスマホを取り出してシュッシュッシャーッと操作しだした。
「なんだよ?スマホなんかいじって」
「待ってなさいってば……うーんと、このあたりに………あ、あった!」
目的のモノを見つけたようで、スマホの画面を僕の方に見せてきた。
そこには一枚の写真があった。
隠し撮りでもしたのだろう、画質が悪く手前には人の手のようなものが写っている。
被写体はぽかんとアホヅラをしている少年。その目線の先には超美人がいた。彼が彼女に思いを寄せていることが人目見てわかる。
あはは。誰だよ。こんなアホヅラで見つめてたらバレるに決まってんだろ。マジ誰だよ。おい、ちょっと待て、ちょっと待て、
ちょっっっと待てええええええええええ!
「完全に僕だよね?!これ僕だよね?!それでこっちの女はお前だよね?!」
「そうよ」
「そうよじゃねえええええよ!なに?!いつのまに誰がこんなの撮ったの?!」
「あ、まだあるわよ?」
そう言ってどんどんとスマホをスワイプしていく。どんどんと僕のあられのない姿がさらされていく。
「やめてくれ!いいから!やめて!お願い!」
「あ、あとこれもあるわ。」
今度はまた自分で操作して別のページを見せてきた。
そこには今や世界でやっていない人はいないとも言われる一大アプリ、ツイッターの1ページが映っていた。
『うちのクラスにマジ天使が転校したwww』
『彼女の存在がクラスの空気を浄化している。彼女の吐く息は多分香水なんだ』
「ちょ、」
『今は見つめるだけで精一杯だ。でもいつかは話しかけて仲良くなってみせる!』
『とりあえずは彼女と同じ空間にいれるだけで幸せなんだ。事実。』
「や、やめ、」
『生まれてきてくれてありがとう』
「もうやめてくれええええええ!てかなんでそのアカウント知ってんだよ!裏アカだし、現実の友達には教えてないはずだぞ!」
「ある筋から、とだけ言っておくわ」
「わけわかんねえ!」
「とにかく、やる気になってくれた?」
「なんでなるの?!そんなん見せられて?!むしろお前の前から今すぐ立ち去りたいわ!」
「あら、いいの?今の状況把握できてる?」
「は?」
「見せたってことは単純にばらまくわよって言ってるつもりなんだけど。」
「それはやめてくれ!…いや、やめてください。というか、おかしいだろ、どう考えても。僕はメリットを提示しろって言ったんだよ!脅迫しろなんて一言も言ってないぞ!」
「脅迫なんて失礼な!」
それ以外の何物でもないのだが。
「それで僕はどうやったらそれをばらまかないでもらえるのかな?」
「あなたって今学年で何番ぐらいなの?」
「…380番前後」
「え、うちの学年400人よね?」
「そうだな」
「そこで380?…………とんだハズレくじね」
「人をハズレ呼ばわりすんな!勉強なんてする気全くねえんだからしょうがないだろ!」
「…………やりがいあるわ。」
「そんなすげえ嫌そうな顔で言うなよ…」
「とりあえず半分ぐらいにはいないとね。前提として。この学校別にレベル高いわけじゃないから1位とか2位とかじゃないと天才とは呼べないしね。」
「そんなとこ目指してんの?!」
「当たり前よ!」
彼女は本気のようだった。目を見ればわかる。マジな眼だ…ヤバイやつだ…
「で、やる気、出た?」
「いや、待て待て。ゆっくり考えさせてくれたって、」
「で、やる気、出た?」
「だからさあ…」
「やる気、出た?」
スマホの画面をチラチラと見せてくる。そこには僕のクラスのグループラインが表示されている。あと少しいじるだけで僕の大変な事実が露見してしまう。
「出た?」
「………出ました」
「よっし!そしたら決定ね!明日から放課後は勉強会よ!そして次のテストで学年半分に入りなさい!入れなかったらばらまくから!」
「………了解いたしました」
かくして僕は勉強することになった。