kara-ring
初めての投稿です。拙い部分もあるでしょうが、楽しんでいただければ幸いです。コメントなどお待ちしています。
-what's Your color?-
僕の人生は何色に輝くのか?果たして輝くことができるのか?
※※
「これが西暦2040年に発明されたことによりー」
白髪の目立つじーさん先生のつまらない世界史の授業を聞き流していると、なんだか勉強なんかする気がしなくなってくる。
理由は簡単だ。この時代では“僕が”勉強する価値は全くないから。数百年も前に発明されたとある発明のおかげで人類は大いなる進歩をとげ、それと同時に当時最も嫌った格差社会を明確なものとした。
自分の腕を見ると2本のカラフルな線のついた真っ白な腕輪が付いている。これがその発明。
その発明の名は【kara-ring】。当時は違った名前だったらしいけど、現在はその名で知れ渡っている。
どんな発明かっていうと、平たく言えば能力測定器ってところだ。これを腕につけるとその人が何を得意として何を苦手とするか、みたいなのが数値として出てくる。そしてその数値に合わせて各分野に割り振られた色、運動能力なら赤、学力なら青といった感じ、が濃くなったり薄くなったりする。その【パーソナルカラー】と呼ばれる色達が自分の能力をあらわすのだ。
“リンゴーン、リンゴーン”
物思いにふけっていたら授業終了のチャイムが鳴ってしまった。
「おーい、イッキ!次移動教室らしいぞ」
後ろから無駄に元気な声が聞こえてきた。ちなみにイッキというのは僕、一色一樹のあだ名だ。
「次って物理でしょ?実験?」
「なんじゃね?委員長が言ってたから多分本当だ」
「なら本当か」
こいつは春川圭太。あだ名はハル。僕の親友であり、学年有数の問題児。僕みたいな目立たない人がなぜこんな奴とつるんでいるのかとよく聞かれるが、これには割と深いわけがあったりなかったり…まあ、そんなことはどうでもいいや。
なぜ勉強する気がないかだ。問題はどちらかというと発明にではなく、この発明を利用した制度にある。
【優良種優先制度】
kara-ringはさっき説明したとおり人の能力を目に見える形で、しかも色なんていう世界共通のものを使って表してくれる。言ってしまえば相手が自分より優れているか、そうでないかが簡単にわかってしまうのだ。
そのため日本政府はこのkara-ringによって人々を優良種と劣等種に分類した。そして就職、保険、その他もろもろを優良種に優先的に与える制度を作った。それが優良種優先制度。略して優優制と言われたりもする。
そしてその制度の最たるものが教育だった。社会権がどうのこうので就職も保険もある程度は劣等種にも与えられた。だが、教育に関してはとてつもない格差があった。教師の質に始まり、学校の設備、1クラスの人数、挙げ句の果てには教科書まで変えられた。
結果どれだけ勉強したところで優良種には勝てない社会ができあがってしまった。
報われない努力ほど無駄なものはない。僕に勉強する気が起きないのもしょうがないというものだ。
「今回の実験は-」
いつのまにか始まっていた物理の授業なんて本当にどうでもいい。早く家に帰ってスマホでもいじっていたい。そう思って今日は何をしようかと思っていると、隣のハルから手紙が回ってきた。
『転校生がこのクラスにくるらしい!右に回して!』
どうやら大分まわってきているらしいその紙は随分とよれていた。読み上げてから右の人にまわす。
「めずらしいよな、転校生なんて」
隣から小声でハルがはなしかけてきた。
「確かにね…高校に編入とかって優優制はじまってからやりづらいだろうし」
「女かな?かわいいといいな」
「別に…」
そのことは少し気になったが、恥ずかしいので興味のない振りをしておいた。
※※
数日がたち、朝のLHRの時間、ハルとどうでもいい話をしているといつものように若い女の担任が入ってきてみんなを席につかせた。
「今日はみなさんに紹介したい人がいます」
こんなセリフ、ドラマでしか聞いたことなかったなあ、とか考えていたら先生が廊下に手招きした。
彼女が入ってきたとき、すべてが止まったように感じた。
しゃんと伸びた背筋、白い肌、背中に流れるつややかな髪。
人形のような、その言葉が彼女には非常によく似合った。整った目鼻立ちもさることながら、まったく何も感じていないような目と表情がそう思わせてやまなかった。
彼女は黒板の前に立ち、自己紹介をして自分の席はどこかというようなことを先生に聞いていた。僕の目は彼女を追わずにはいられなかった。
「一色くんの横が空いてるからそこに座っちゃって」
先生のその一言で我にかえった。びっくりしていると彼女が僕の横の席に座って僕の方をちらと見て「よろしく」と呟いた。このとき僕は初めて彼女の声がとても透き通っていることを知った。
そしてふと見た彼女の腕のkara-ringに1本も線がなかったことを不思議に思った。