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俺様転校生、現る!!

 翌日。いつものように学校へ登校した私は、余裕あふれる笑みを浮かべつつ校門をくぐる。

 昨日はあまりにスプラッタすぎる事件にあってしまったため、嬉しさが半減してしまっていたが、今朝になってよく考えてみたら私は念願の非日常を手に入れたことに気付いたのだ。

 ふふふ、安心してみんな。みんなは私が守るから……。と、私は内心でほくそ笑みながら余裕あふれる笑顔ですれ違った人に一言挨拶をかます。

「おはようございます」

 今なら漫画風な慈愛あふれる笑顔を浮かべることができるわ!! と思った、私の渾身の笑顔だ。さぁ、あふれ出る私の余裕に絶句してもいいのよ? そののち惚れて、ファンクラブを作ってくれてもいいのよ!!

「っ…………!?」

 ……なぜ全力で青い顔をしながら私から離れていく。え、なに? 私の笑顔そんなに気持ち悪かった?

「朝から慈愛顔で、知り合いでもない女の子が声かけてきたら、そりゃ誰だってビックリするでしょうが。というか、慈愛顔なんて普通に生活していたら到底見ることができない顔だし」

 かなり傷ついた顔をしていたんだろう。愛想笑いをうかべながら離れていく生徒を、黙って見送ることしかできなかった私に向かって、冷静沈着なツッコミが入った。

「あっ! 澪!!」

「おはよう優子。どうしたの? そんなおぞましい笑顔を浮かべて」

「おぞましいとまでおっしゃられますか!?」

 いくら友人の冗談だとしてもその評価は凄惨すぎると思う……。と、私は思いつつも、特に足の傷を引きずったような雰囲気を見せない澪の姿に、思わず微笑みを浮かべた。

 よかった、あのお医者さんどうやらかなり優秀な能力者だったみたいね。

「それにしても昨日はびっくりしたわよね……。まさかいきなりあんな死亡フラグにあうなんて。いや、でも待って。日常パートからの突然のフラグ立ちは、これはもう主人公の属性が私に宿ったということに……」

 そして、元気そうな澪の姿に安心した私は、いつものように軽い笑みを浮かべながら昨日あったことについて、同じ体験をした澪と一緒に語りあおうとしたときだった。

「は? 何言ってんのよ、一体……。あぁ、いいわ。どうせいつもの病気でしょ? 中二病も大概にしておかないと、本当に絶交だからね?」

「え?」

 いつものよう(・・・・・・)に呆れきった声を上げながら、私の話を鼻で笑う澪。私はそこに致命的な違和感を覚え、あわてて校舎へと歩いて行こうとする澪の肩を掴む。そして、

「ふんっ!」

「ありゃ!?」

 勢いよく合気道の技で投げられた。そして、驚く私に澪は一言、

「私の後ろに立つなぁああああああああああ!?」

「あれぇえええええええええ!? いままでそんなキャラづけなかったよねェ!?」

 某13番が付けられた暗殺者の様な事を言う澪に、私は思わず大声でツッコミを入れていた。

「って、違う!! 言いたいのはそういうことじゃなくて……どうしたの澪!? 何か悪いものでも食べたの!? それともなんか私に怒ってんの!?」

 昨日会ったあの殺人鬼との戦闘を忘れるなんて、正気の沙汰じゃないわよ!?

「早朝からいきなり失礼すぎる発言じゃないかしら? まぁ、せっかく家が隣なんだからと、毎日一緒に登校している幼馴染が、今日に限って私を全力シカトして一人不気味な笑顔を浮かべて登校したことに怒ってはいるけど」

「うっ……」

 そう言えば今朝はハイテンションになりすぎていてすっかり澪のことを忘れてしまっていた……。

「さようなら優子……どうやら私たちの関係はここまでだったようね」

「いや、一回一緒に登校できなかったぐらいで関係の破綻とかひどすぎない!?」

「いいえ、残念ながらそうではないわ。あなたが中二病になってから私は、あなたと離れたかったの!」

「単なる厄介払いだよね、それ!? って、そういうことじゃなくて!!」

 私は慌てて澪の冗談なのか本気なのかよくわからない、「怒っている宣言」をぶった切り、割と真剣な顔で問いただす。

「ホントに、昨日あったこと覚えていないの?」

「昨日? 殺人が起こったってニュースが入ってから、私たちはまっすぐ家に帰ったでしょ?」

 澪が言ったその信じられない言葉に、私は思わず絶句した。

「な、何を言っているのよ、澪? わた、私たち一緒にナイフ呼び出す殺人鬼と戦って、殺されそうに……」

 それでも私は信じられず、あわてて澪に食い下がった。だけど、

「はぁ……もう妄想も大概にしておきなさい。お互い高校生になったんだから、いつまでもそんなこと言っていると過ごしにくいわよ?」

 澪はそう言った後、昨日カラオケに行ったクラスメイトに声をかけられて、そちらの方へと挨拶へ向かう。

 昨日は楽しかったね? あの後無事に帰れた? とごくごく普通の会話を交わす彼女たちを、私は呆然として見つめていた。その時だった、

「ふん。どうやらあちらは日常への回帰を選んだらしいな」

「っ!?」

 突然背後から聞こえてきた、聞き覚えのある声。私はそれに驚き泡を食って振り向く、

「な、なんでいるの……ですか!?」

「ふん、俺は貴様の護衛をしなくてはならんといったはずだ。そのため、不本意ながら今日から俺は、下々の者たちが通う学校とやらに通うことになった。まったく、王の力を持つ俺は、すでに大学課程を終わらせているから不要だといったのに」

 フンと鼻を鳴らしながら逆立った赤毛をなびかせるのは、昨日私を助けてくれたヒーロー。

「我と同じ学生生活を送れることを誇りに思うといい、小娘」

 鳳凰院陽炎さんだった。


…†…†…………†…†…


「今日から貴様らと共に勉学に励むこととなった、鳳凰院陽炎だ。鳳凰院様と呼ぶことを許す。我が高貴なる面貌を見られたことを神に感謝するといい」

「は~い、というわけで訳のわからん校長からの言い分によって、なぜかまたうちのクラスにやってきた不自然転校生、鳳凰院陽炎くんです。みんな生暖かく見守ってあげてくださいね~」

「……貴様」

 そして私たちの朝のホームルームにて、やたらだるそうな顔で鳳凰院さんの紹介をさっさとすませた担任は、無言で開いている席を指差し、「ンじゃあそこ、鳳凰院の席ね?」とそっけなく言ったあと、さっさと教室を出て行った。

 相変わらず、教師という職業に全力でケンカ売っているような人だった……。あ、よく見るとこの前洗礼を受けた、帝院君の顔が引きつっている。

 当然鳳凰院さんの機嫌が悪くなるが、

「ふん、まぁいい。下民の無礼を許すのもまた王の力を持つ者の務めだ」

 と言ったきり、気を取り直したのか黙って自分の席へと座った。流石は鳳凰院さん。非日常系俺様主人公……多少のことは寛大に流す度量を備えている。

 だが、鳳凰院さんが席に座った瞬間、もう隠す気なんて微塵もないんじゃないかと思えるくらい同時にクラスメイト達は顔を突き合わせて、ひそひそと鳳凰院さんに関しての相談を開始した。

 当然それは、何も覚えていない澪も例外ではないようで、

「なんというか……あんた以上に痛い奴が来たわね」

「何を言っているの澪!? かっこいいでしょ!!」

「そんな評価下したのはあんただけよ……」

 周りをよく見なさい。と、澪に勧められ聞き耳を立ててみると、

「中二病?」

「リアル俺様キャラとか……」

「あれいくら何でも作りすぎじゃ……」

「つーか王って何の王だよ?」

「聞いてみれば?」

「バカっ! 変な地雷踏んだらどうする!?」

「というか名前からして地雷原すぎるだろあれ……。帝院バリの地雷原だよ。まぁ、ビジュアルは帝院の方がひどいけど」

「……好きでこんな名前になったわけじゃねぇよ!? そしてビジュアルについては言うな!?」

 と、すっかりこのクラスになじんだらしい帝院君の抗議の声が上がる。当然そのボリュームは、ヒソヒソ話なんて領域をはるかに突き抜けるぐらい大きくて、

「……貴様、何の話をしている」

「え、あ……あぁ、い、いや? べ、べつに? 何も?」

 いや、さすがにその態度で、別に何も? はない……。いくら鈍感な私だって、なんか変なこと言われていたことぐらいは分かる。

 目を泳がせまくって、見苦し言い訳をする帝院君に、鳳凰院さんはスーッと目を細めて一言、

「ふん。王の力を持つ俺を褒め称えるのは結構だが、あまり私の耳に届くところでヒソヒソやるのはやめろ。それでは俺に『俺のことを侮辱しているのではないか?』と、勘違いされても仕方ないぞ? まぁ、今回は見逃してやるが」

『『『意外と傷ついてる!?』』』と、クラスメイト達の内心が合致し、そしてそれがわかっているからこそ誰もそのことを言わなかった。だが、

「あれ? え? もしかして普通に傷ついているのか? あぁ、それゴメン……。確かに初対面の人相手に、ヒソヒソ話するのは失礼だったわ。誠心誠意謝る……ごめんなさい」

 帝院君は基本的に空気が読めない人らしかった……。

 怒りと恥辱にまみれブルブル震える鳳凰院さんに、帝院君は黙って90度の角度で腰を曲げ謝罪を行う。

「とりあえずこれで許してもらえないのなら、トリプルアクセル土下座とファイヤーストライク土下座をする用意がこちらにはあるけど、どうする?」

「「「むしろ謝ってもらわなくても見て見たいよ、それ!?」」」

 男子のバカ共が一斉にツッコミを入れる中、鳳凰院さんの額からブチィという不穏な音が響き渡り、

「こ、殺す……」

 と、瞳にあの刻印を浮かべたのが見えて、

「あ、あわわわ!? ほ、鳳凰院さん!? まだ学校に慣れていないでしょ!! 案内してあげるからちょっと行こうか!?」

「え、ちょ、優子!? あと五分もしたら授業なんだけど!?」

「安心して澪、自主休学にするから」

「全然安心できないから!? 要するにサボリでしょ、ねェ!?」

 泡を食った私はあわてて席から立ち上がり、鳳凰院さんのもとへと急行。その手を握り締め彼を引きずり教室から出ていく。

 当然澪から制止の声がかかったが、今はこの場から鳳凰院さんを連れ出すのが先決だ。確かに鳳凰院さんはかっこいいし、今のは帝院君が全面的に悪いから助けてあげる理由なんてなかったのだが、さすがに昨日一緒にカラオケに行った帝院君が黒こげになるのは見たくないしね~。


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