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刻印者

「え?」

 私が、声が聞こえた方を向くと、そこには紅の火の粉だけが舞っていた。それと同時に前方から上がる、

「ぎゃぁあああああああああああああああああ!?」

 男の悲鳴。

「なに?」

 私は再び視線を男の方へと戻し、

「あ……」

 そこに立っている真紅の髪を逆立て、鋭い金の瞳をさらに細めて、刃物のような鋭利な印象を持たせた、フード装備のジャケットをなびかせた少年が、ナイフを振り上げていた男の手をひねり上げ再びナイフを取り落させているのを目撃した。

「耳障りな悲鳴を上げるな、下種め。俺の高貴な耳が汚れるであろうが」

 少年は吐き捨てるようにそうつぶやき、男の腕をひねり上げた手を天高く上げた。その瞬間、男の体はまるで風船のように軽々と持ち上げられて、足が地面につかないほど高くに男の体が上がってしまった!

「うそ……どんな力してんのよ」

 男に組み伏せられ精神的にかなり憔悴していたはずの澪ですら、思わずそう漏らしてしまうほどの信じられない光景。だけど少年はそんな私たちの反応など興味ないといわんばかりに、

「ふん」

「ぐぁっ!?」

 持ち上げた男を片手一本で放り投げ、数メートル近い飛距離をたたき出した!

「ぎゃぁあああああああああああああああああ!?」

 とんでもない力で投げられたせいか、受け身の技術を持っていないせいか、投げ捨てられた男の体は地面に着くや否や勢いよくバウンドし、二回三回と跳ねたあとようやく地面へと落ちて止まる。

「娘、早くそこをどけ。邪魔だ」

「なっ!?」

そして少年は地面に倒れ伏している澪を一瞥すると、小さく鼻を鳴らしながら暴言を吐いた。そんな少年の態度に、澪はどことなく警戒した様子で少年を見つめていたが、

「目がガラス球でできているのかしら? 私いま立てないぐらいには大丈夫じゃないの」

「ふん。まぁいい。足手まとい一人ぐらいいた方が、ちょうどいいハンデとなるか」

 敵意あふれる澪のセリフを、少年はサラッと流し、道路の向こうで立ち上がろうとブルブル震えている男を睨みつけた。

「わが目の前で、刻印をこのような下らぬ行いで使って……。万死に値するぞ、ムシケラ!!」

 そのかっこいい言い回しに、わたしは思わず目を輝かせて少年を見つめた。

 間違いない、彼こそが、

「だ、誰だ、お前は……!?」

「ふん……。私か? 私の名は……」

 少年はそこでポーズをとりながら黒い手帳を一つ胸ポケットから取り出した。

「日本警察直轄の特殊部隊。超能力者――『刻印者(SEALER)』対策用・特捜0課特別捜査員……鳳凰院陽炎(ほうおういんかげろう)だ。覚えなくていいぞ、ムシケラ。どちらにしろ、貴様はここで死ぬ」

 彼こそが、私が待っていた、非日常の片道切符だ!!


…†…†…………†…†…


「0課ぁ? ひひひひひ……なんだか知らないけど、今の力……刻印を持っていないってことは、ただの身体能力なんだろぅうううう?」

 私があこがれの視線を鳳凰院さんに向ける中、殺人鬼の男はあれほど勢いよく投げられたのにとくにダメージを負った様子も見せないまま立ち上がり、左手に刻まれた刺青を見せつけた。

「つまりお前は下等存在だ。なんの異能(ちから)も持たないタダのムシケラ以下の存在だ……。そんな奴が、俺を投げたりしてくれてんじゃねぇぞごらぁああああ!!」

 ナイフを構えて突撃してくる男。鳳凰院さんはその男の様子を見て「救いがたいバカだな?」といわんばかりの呆れきった態度がにじみ出ている仕草で、右手を男の方へと向ける。

「ムシケラ……貴様二つ勘違いしている。一つは、刻印は常に体に現れている物ではないということ」

 その瞬間、わたしは確かに見た! 鳳凰院さんの右目に紅蓮の炎を形作ったかのような刻印が現れるのを!!

「第二に、私は貴様と同じ刻印者シーラーだ。これも覚えなくていいぞ?」

 瞬間、鳳凰院さんの右手が焔へと変化し、男に向かって紅蓮の竜巻となって襲い掛かった!!

「なっ!? うぁ、ぐあぁああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 炎の竜巻にのまれて消えた男の姿を、私と澪は唖然と見つめていた。

 あれほど恐ろしい殺人鬼を立った一撃で打倒した少年。その圧倒的な強さに、私たちは見とれてしまっていたのだ。

 そんな私たちを置き去りにした時間が、鳳凰院さんが生み出した炎を沈下させる。そしてそこには黒こげになり、男の姿などどこにも残っていない綺麗な道路が広がっていた。

「ちっ……逃がしたか」

「え!?」

 そして鳳凰院さんが漏らした舌打ちに、私は思わず顔をひきつらせた。

「なんでそんなこと……消し飛んだだけかも!?」

「証拠品を残すために死体がなくなるような攻撃はしない。先ほど放った炎だって、せいぜい全身くまなく軽度のやけどを負う程度で、被害は抑えられるものだ。それなのにこの道路に奴がいないということは、何らかの手段をもってこの場から逃げ出したのだろう」

 理路整然とした鳳凰院さんの推理に、再び私の脳髄が痺れる。

 かっこいい! 鳳凰院さんかっこいい!! 若干性格悪そうだけど、それに目をつぶっても有り余るかっこよさだ!!

そんな風に私が鳳凰院さん賛美のためにトリップするなか、鳳凰院さんはポケットからスマホを取出しどこかに電話をかけ始めた。

「あぁ、俺だ。仕留めそこなった。あぁ、心配はするな、俺を誰だと思っている? 次は必ず捕まえるさ。それよりも、アレの被害にあった民間人二人を保護している。俺としてはどうでもいいが貴様らには大事だろう? 適当に処理して……なに?」

 そんなクールなやり取りをしたあと、突然イライラしだした鳳凰院さんは、

「まて、なぜ俺がそんなことを……おいっ!!」

 唐突に怒声を上げ始めたかと思ったら、イラついた顔で耳からスマホをはなし、私たちを睨みつけた。

「ふん。そこの小娘ども……。どうやら貴様らの面倒をしばらく見なくてはならなくなったらしい。とりあえず今から迎えの車と治療班がやってくるから、しばし待て。迎えが来たら少々同行してもらうぞ」

「同行って……どこにですか」

 キタキタキタキタキタキタキタキタキタ―――――――!!!!! フラグキタっ!! 秘密結社への入会フラグキタァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 私の脳裏がそんな言葉で埋め尽くされている傍ら、荒い呼吸になりながらも澪はしっかりと行先を聞いておいてくれた。

「ふん。俺の能力を利用できていると勘違いしている愚か者の集団だ。まったくあいつらは分かっていない。俺のような偉大な男が、なぜあのような政府の犬に従っていると思っているのか……。いつでもお前たちなどつぶせるのだと、分からせてやる必要があるのか?」

 鳳凰院さんが凶悪に笑うと同時に、どこからともなく黒塗りのベンツと、真っ黒な救急車がやってきて中からわらわらと人が下りてきた。

 そしてその人々は二手に分かれ、私をベンツに、澪を救急車に乗せてくれた。

 そして、あれよあれよという間に、ベンツに乗せられた私は、

「ふん。ジッとしていろ。すぐに終わる」

 先にベンツの助手席に乗った鳳凰院さんにそう言われ思わず首をかしげた。

「あの、すぐ終わるって何が……」

「何が? その肩の傷の治療に決まっているだろう」

 鳳凰院さんがそう告げた瞬間、右手に十字架の入れ墨をいれた人が救急車から出てきて、私の肩口に刺さったナイフに向かって手をかざし、

「『万象に宿りし神々よ。この傷つきしモノに、魂の息吹を……』」

 と、小さく呪文らしき何かを詠唱した。その時、

「え!?」

 私の体に深々と刺さっていたナイフが、突然何かに押し出されるように私の体から押し出されそれと同時に私の傷跡は血痕すら残さず治ってしまった。

唖然とする私に右手十字架(名前わからないし……)さんはニコリと微笑み行き先の名前を告げる。

「あなたがこれから向かうのは……私たちの本部――特捜・0課の本部ですよ」


…†…†…………†…†…


 ここからはまぁ、だいたいの異能系ライトノベル小説と変わらないパターンなので、私が聞いた説明を簡略化しながら話させてもらうが、車内で鳳凰院さんがめんどくさそうにしながら説明してくれたこと曰く、

『最近世界では刻印者シーラーと呼ばれる超能力者が徐々に発生しはじめている』

『刻印者とは、原因は不明だが、ある日突然体のどこかに突然刺青が浮かび上がり、その刺青が示す通りの能力を一つ発現させた、超能力者』

『最近ではその能力を悪用した犯罪者たちが現れるようになり、日本警察の中でもかなり由々しき問題となっていた』

『そこで作られたのが、鳳凰院さんが所属する警視庁・刻印者用対策課・特捜0課』

『そこには自分を含め30人近い刻印者と、200人近い一般スタッフが所属しており日本各地で起こっている、刻印者が起こした事件の解決のための奔走している』

 だということだった。

「じゃぁ、さっきの殺人鬼も?」

 話を聞き終わった私はいつの間にかはいっていたどこかのトンネルのオレンジ色の明かりをぼんやり眺めながら、質問を続けた。

「あぁ。刻印者だ……。名前は日比谷四季ひびやしき。長谷川科学工場に勤務していた現在45歳の男だな。能力内容はまだ確定ではないが、恐らくはナイフ召喚」

「ナイフ……召喚!?」

 何そのかっこいい能力!? 殺人鬼のくせに生意気だ!?

「召喚って……そんなことできるんですか?」

「ふん。当然であろう? 俺たち刻印者は一般の人間をはるかに凌駕した力を持つ存在だ。貴様が想像もできないほどの力を持つものなどザラにいる。もっとも、その中でも俺は別格だが」

 鳳凰院さんは嘲笑するような笑みを浮かべながら、バックミラー越しに私の瞳を見つめてくる。

「あいつは何もないところにナイフを出現させたであろう? あれこそが召喚系の特徴だ。何の予備動作もなく、ただ突然自分の手元に召喚できるものを出現させる。あの殺人鬼のように武器を呼んだり……珍しい奴だとドラゴンを呼んでいた能力者もいたな」

「それってかなり強力なんじゃ……」

 つきることのない武器に、意のままに操ることができる強力な召喚獣……。ロマンよね~。

「はっ。その程度の能力者など大した相手ではない……。俺の能力と比べれば、通常武装召喚系の殺人鬼程度などおそるるに足らん」

「鳳凰院さんの……能力?」

 そう言えばさっき、腕の一部を炎に変えていたような……。あれって、

「鳳凰院さんの能力なんですか?」

「当然だ。それ以外に何があるという」

 私の質問に不敵に笑いながら答えてくれた鳳凰院さんは、再び自分の右目にあの真紅の刻印を顕現させ、能力を発動してくれた。

 瞬間、ベンツの中の室温が急上昇し運転手をしていた黒服の人があわてて窓を開けてくれる。

「なっ!?」

 そんな中、私は鳳凰院さんの変化に驚いていた。

 逆立っていた真紅の髪はまるで焔のようだと思っていたが、今度は本当に焔になっている! いや、それだけじゃなかった。鳳凰院さんの体のすべてが紅く燃え盛る焔そのものになっていた!!

「これが俺の能力……現状二人しか見つかっていない『変換系』の能力だ。この能力は自分の体を別の物へと変えることにより、圧倒的な大火力攻撃と、あらゆる物理攻撃を無効化することが可能という、まさしく俺のために作られた王の力だ。私が特別捜査官の任についてからは常勝無敗。巷では『紅蓮の皇帝』といわれて畏れられている」

「す、すごいですね!!」

 二つ名あるんだ!! やっぱりいいな~特捜0課!! わかっている……わかっているよ、特捜の人たち!! こんなチート臭い能力者には、やっぱり仰々しい二つ名ぐらい必要だよねッ!!

「とまぁ、こんな具合に刻印者に対しての基礎知識は分かったな?」

「はいっ!! 大体理解しました!!」

 私が内心で涙ながらに万歳三唱をする中、普通の人間の姿に戻った鳳凰院さんは、満足げに頷きながらベンツの外を指し示した。

「さて、そろそろつくころだろう。外を見て見ろ。目的地に着いたぞ?」

「え?」

 そして鳳凰院さんに促されるまま開いた窓から外を覗いた私は、キョロキョロとあたりを見廻すが。

「え? どこにも見えませんけど?」

 それらしき建物を確認できなかった私は、騙された? とちょっとだけ疑惑の色を込めながら鳳凰院さんへと視線を戻す。そんな私の態度を見て、予想通りの反応をしてしまったのか鳳凰院さんはククククと笑いながら、今度は天井を指差した。

「上を見て見るといい」

「うえ?」

 ま、まさかっ!? と私が慄然としながら再び窓から顔を出しおそるおそる上を見上げてみると、

「っ!?」

 そこには、突然夜空をグニャリと曲げたあと、まるで鱗でもはがすかのように夜空色の迷彩を吹き飛ばしながら姿を現した、アニメで見るような巨大な金属の空飛ぶ船が浮遊していた。

「何分日本中をカバーするとなると、0課のような少数精鋭の組織は、動けない本部では色々と不便でな。政府の許可を得て特別建造させてもらった、浮遊・迷彩・飛行の能力者たちによって管理運営される世界初の巨大居住区型天空艦――《天の磐》だ」

「うわぁあああああああああああああああああああああああああ!? かっこいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 ほ、ほんと何この特捜課っ!! どこまで私を悶えさせれば気がすむのっ!?

 と、私が歓喜する中突然私たちが載っていたベンツが地面から離れて浮き上がり始めた!!

「え、な、なんですかこれっ!?」

「なんですかも何も、船が俺体を回収してくれているのだ」

 慌てふためく私をしり目に、落ち着きを払った様子で上を見上げる鳳凰院さん。それと同時に船の船底にベンツが通れる程度の大きさを持ったハッチが開き、私たちを迎え入れてくれる。

 こうして私はようやく、待ちに待った非日常へと足を踏み入れることに成功したっ!!


…†…†…………†…†…


 深夜。誰もいなくなった非日常の舞台に一つの影が落ちた。

 黒こげになったアスファルトを見て、影――ひとりの少年がため息を漏らす。

「はぁ、まったく休暇中に呼び出し食らったと思ったら、あの病人の後始末かよ。ったく、暴れんならもうちょっと落ちついてやれよな。誰がこれ直すと思ってんだ……」

 少年はブチブチ不満を漏らしながら手を掲げる。その右手には鉄槌の入れ墨。

 すると、少年の手には槍のように長い柄と穂先がついた、細身の鉄槌が出現していた。

 ウォーハンマー。かつて騎士たちが愛用した長柄の打撃武器。

 少年はそれを億劫そうに振るおうとして、

「あぁ振るうのもだるいわ。取りあえず殴る部分が当たりゃいいわけだし」

 と、明らかに途中でやる気をなくした感じで、適当にそこらへんへとウォーハンマーを投げ捨てる。

 そして、ゴインっ!! と、ちょっとだけ切ない音を立ててハンマー部分が地面にあたったのを聞き、少年はひらひらと手を振りながら一言、

「はい、仕事しゅーりょー」

 少年がそう言うと同時に地面に転がったウォーハンマーはまるで霞のように掻き消え、


あたりには焼け焦げ一つ残っていない綺麗な道路だけが残った。

 まるで、先ほどまで起こっていた非日常の風景など初めからなかったのだと言わんがばかりに……。


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