私的完璧なフラグ立て計画
「人間何事も会話というものが肝心だと思うの」
「……いきなり何を言い出すのよ?」
いろいろごたごたがあった翌日の朝、私――中田優子は合気道部の朝練から帰ってきた澪を相手に自分の素晴らしい考えを語っていた。
でも、やはり澪は合気道バカなかわいそうな子。どうやら私の高尚な考えが理解できないようだった。
「やはり尾行なんて卑怯な真似は人として……いいえ、非日常に巻き込まれる身としてはあまりほめられた行為ではないと思うの!」
「何で言いなおしたのかは知らないけど、まぁそれには同意するわね。それがわかったなら話は早いわ。今すぐ警察へと行くわよ!!」
「いつの間にか私が犯罪者扱いされてる!?」
って、澪? 何その眼? なにその「いまさら何言ってんのこいつ?」とか言わんばかりの目は? ち、違うからね!? 私はほんのちょっと非日常にあこがれるお茶目な女子なだけなんだから!! 警察に捕まるようなことはしてないもん!!
「ふぅ~。学校に全身写せるぐらい大きな鏡はなかったかしら?」
「澪って本当は私のこと嫌いだよね!? 絶対そうだよね!?」
若干私の涙腺が緩むのを見てさすがに後味が悪くなったのか、澪はようやく真面目に話を聞いてくれる体制になった。
「で、結局のところ今度は何をするつもりなのよ?」
「帝院君に話しかけて、彼に接近。常に一緒にいて彼の非日常に巻き込まれ、非日常の片道切符を手に入れようかと……」
「やめておきなさい。私はまだ友達が警察の御厄介になるところを見たくないの」
「最初から通報されること前提で話すすめないで!! それに中二病発言程度で警察を呼ばれるわけがないでしょ!!」
「そうね、呼ばれるのは黄色い救急車だものね」
「キ―――――っ!!」
くぁwせdrftgyふじこl!!
「わかった、わかった。悪かったから落ち着きなさい、茶化さず聞いてあげるから」
「うぅ……本当?」
「ほんと、ほんと。あと涙目で上目遣いにならない」
「え? かわいいから?」
「え? 普通に気持ち悪いからに決まっているじゃない?」
「……」
天国にいるお母さん、友人が最近とっても冷たい気がします。いいいかげんあなたのもとに行っていいですか?
「あんたのお母さん死んでないでしょ?」
「そうね、お母さんは私の心の中で生きているの」
「そう。ちなみに今の発言メールで送っちゃったけどあなた大丈夫?」
「なんてことしてくれたの!?」
あぁ、携帯に着信音ががががががが……。
「とまぁ、そんな冗談は置いておいて……」
「冗談では済まない怒声が電話の向こうから聞こえてくるんだけど!?」
あぁ、お母さんちがうの……ほんのちょっとした軽い冗談で……。
「なにしてんだ?」
「ん? あぁ、飛んで火にいる」
「なにっ!?」
澪の不吉な言葉を聞き、わたしはガバッと携帯から耳を離す! そして私は目撃した!
「いっ!?」
突然振り向いた私に思わず体をのけぞらせた銀髪隻眼の片手手袋……帝院雷輝君が立っていた。
これは計画を実行に移す絶好のチャンス!!
「帝院君? あぁ、大丈夫よ。今終わったから」
「いや、明らかに携帯電話から怒声が聞こえてくるんだけど……」
許せ、お母さん。私の青春のために犠牲となれ……。
「あぁ、切っちゃった。これは帰ったらひどいことになりそうね……。お願いだから私を巻き込まないでよ? あぁ、自己紹介まだだったわね、転校生。私北野澪。こっちのバカが中田優子ね? これから一年間よろしく~」
「最近澪の私に対する評価が、低すぎる気がするんだけど……」
最初の自己紹介でバカはないでしょう……。
「仲良いんだな。こっちこそ、帝院雷輝だ。よろしく頼む」
そんな私たちの姿を見て爽やかな笑みを浮かべて挨拶をしてくれた帝院君。くっ、危うくニコぽされるところだったぜ。これが非日常系主人公の実力かぁあああああああ!?
「ところで、中田は何のけぞっているんだ?」
「あぁ。気にしなくていいわ、ただの発作だから――バカの病の」
なんだか隣でとんでもなく失礼なことを言われた気がしたが些細なこと。今の私は帝院君のキラキラ主人公パワーに抗うので忙しい!!
「おっはよ~帝院。ん? なんだ? 早速クラスの女子、ナンパしてんの?」
「なっ!? ちげーよ!!」
「そうよ! そんな邪推は帝院君に失礼でしょうが!! この子にナンパする価値なんてあると思っているの!?」
「いいかげん澪とは決着付けないといけない気がするんだけど……」
失礼通り越して残虐になりつつある澪の毒舌に、思わず現実世界への帰還を余儀なくされる私。なんだか思い通り踊らされている気がして癪に障るが、この際それは置いておく。
「おぉ、そうだ! 今日お前の歓迎会やる予定なんだけど、予定あいているか?」
「ん? おぉ、大丈夫だ。今のところ部活にもまだ入ってないし、問題ない」
帝院君に話しかけてきたのは現在クラスの中心人物のポジションを確保しつつある明るい少年、大木将司くん。顔は至って平凡で美男子とも不細工ともいえない程度だが、生来の明るさを持ってクラスのムードメイカーと男子のまとめ役を兼任。こうした、イベントの幹事を必ずしてくれる頼れるプランナーだったりもする。
「というわけで、中田と北野もどうだ?」
「う~ん。行くかどうかは内容によるけど?」
「はいっ!! カラオケ!! カラオケ行きたい!!」
それなりに乗り気で話を進めようとする澪の傍らから、わたしは勢いよく手を挙げた。
やった、久しぶりに思いっきり歌える!!
「え、お、おぉ……一応けっこう人数はいるボックス知っているからできないことはないけど」
「よっし!!」
私のはしゃぎようがすごくて、大木君が若干ひいている気がするけど気のせい気のせい!! さて、どれ歌おうかな~。今期のアニメのOPけっこう良作多いし。あ、でも今の時期に入っている物なのかしら? まぁ、なかったら前期のを歌えばいいわよね~。
「優子……あんた、カラオケが待ち遠しすぎて計画について忘れてないわよね?」
「え? 計画って?」
「……………………………………」
な、何よその残念な娘を見る目はぁああああああああああああ!?